本当は…
今までに見たことのない佐久間の表情だった。
「ほんとだぜ。俺、真希のこと、ずっと好きだったからさ」
私はあまりの驚きで、返す言葉が見つからなかった。だって、散々チビとか枝人間とか言って、私のコンプレックスを掻き立ててきた人なのに。今更好きだったなんて、そんなこと……。
そんな私の気持ちを察したように、佐久間がしんみりと言った。
「お前のこと、からかってばっかでごめんな。本当は、もっと普通に話したかったんだ。でも、どうしたら仲良くなれるのか良く分かんなくて……あんな風に茶化すことしか出来なかった」
「良かったのに…」
「え?」
「1位になれなくたって、佐久間に告白されたら…嬉しかったと思う」
散々からかわれたけれど、嫌いじゃなかった。佐久間と同じクラスになれて、楽しかった。いつも女子にちょっかいばかり出している佐久間だったけれど、今考えるとその回数は格段に自分に向けられていた。
たった今わかった。ただ、私たちはお互いに上手く関わりあうことが出来なかっただけ。
「マジで?」
曇っていた佐久間の顔がパッと明るくなった。
「最初はね、佐久間のこと恐いって思ってた。私と違って背も高いし、いっつも男子とばっかつるんでて、ぶっきらぼうだし女子なんか馬鹿にしてる感じだったから」
「真希……」
「佐久間、良かったね。まだ言ってなかったけど、私立合格おめでとう」
「うん、ありがとう。真希も、がんばれよ。今日、ちゃんと言えて良かった」
そして佐久間はスーツの第二ボタンを外すと私の腕を取り、そのてのひらにボタンを乗せた。
「これ、もらってくんね?」
「佐久間………」
「真希のことチビって言うたび、本当は……かわいいって思ってた。照れくさくていえなかったけど、今日最後だからちゃんと言っておく。真希、お前、すげぇかわいいよ」
「佐久間………バカッ」
あの時と同じ。目の中に溜まった涙が視界を遮る。佐久間の笑顔が歪んで見えた。瞬きをするとそれは頬を伝ってボタンを握った手に落ちた。
「真希、泣くなよ。俺が泣かしたみたいじゃないか」
「バカ!佐久間が泣かしたんだよ!」
そのときだった。遠くから佐久間を呼ぶ声がする。佐久間の母親だった。
「あ……真希、じゃあ元気でな」
「うん……佐久間、ありがとう。嬉しかった。私、佐久間のこと忘れないから」
佐久間は笑って頷くと、両親のいるほうへ走っていった。




