卒業
それから5ヵ月後。卒業式を終えた私たちは、筒に入った卒業証書を抱え、仲の良い友達と記念撮影をしたり、大好きだった担任の先生と別れを惜しんでいたりした。中には私立へ進学する子も何人かいる。佐久間もその中の一人だった。
佐久間は先生から激励されているようで、肩を叩かれたり、握手をしたりしていた。背が高い上に、私服と違って見慣れないスーツ姿。なんだかやけに大人びて見える。結構かっこいいな、なんて思ってしまう。
その佐久間が私の方に近づいてきた。微笑んでいるような、寂しそうな、複雑な表情をしながら。
「真希、卒業だな」
「うん。だね」
「お前、相変わらず、すげぇちいせぇなー」
「う…うるさい!それ言うな!」
く、くそっ。かっこいいなんて一瞬でも思ったの取り消し!!
佐久間は何かと私の容姿をからかう。チビとか足が短いとか、枝人間とか。確かに小さいし、背の高い佐久間に比べたら足だって短い。やせているから手足も細い。
他の男子にもチビって言われるし【チビ】呼ばわりには慣れている。でも枝人間なんて言うのは佐久間くらいだ。ちょっと酷すぎると思う。
「真希……あのな…」
「何よ」
かなりムカついていたので、ドスを効かせてぶっきらぼうに返した。
「リレー、覚えてるか?」
佐久間が全く違う方向へ話を持っていったので、不意を突かれた私は気持ちを切り替えた。
「うん、残念だったよね…」
「あんとき、俺、死ぬ気で走ったんだぜ?終わった後、急に心臓破れるかと思った」
「そうだよ、佐久間の走り、めっちゃ凄かったもん」
そのことに関しては手放しで誉められる。
「俺さ、あのとき一瞬にして思ったんだ」
佐久間は、懐かしむように言った。
「あのとき?」
「真希が俺にバトンを渡したとき、もし俺がトップを取り返せたら、真希に告白しようって」
そして、恥ずかしそうに私を見て微笑んだ。今までに見たことのない佐久間の表情だった。




