繋がっていた
「ただいまの結果……」
放送委員のアナウンスが流れる。私はつばを飲み込んだ。
「1位、3組……2位、4組………」
結果は、佐久間が2位。ほんの僅かに及ばなかった。
「ちっくしょーーー!」
佐久間が叫んでその場に転がる。
4組の生徒たちはガックリと肩を落とした。「あ~あ!」という声が聞こえる。だけど私は肩を落としたりしない。しっかりとグラウンドに転がっている佐久間の姿だけを見据えた。遠くから見ても肩で息をしているのが分かった。大きく胸が上下している。
私たちのクラスの列には、【2位】の旗を持った係りが立った
「ちくしょ~!2位かよ。でもあの走り、やばかったな」
「佐久間、お前マジすごいぜ!」
みんなが悔しがりながらも佐久間を褒め称えている。私も攻められるどころか、みんなが賞賛してくれた。
「真希、頑張ったね。カッコよかったよ!」
「そうそう、お前の走りも凄かったよな。……最後、残念だったけどな」
「ビリだったのが、全部抜いて一瞬だけどトップに立ったんだぜ?」
「あのままいけてたらなぁ…」
「ばぁか、それ言うなって!KY岡野!」
いつの間にか、息を整えた佐久間が私の後ろに並んでいた。
「真希、お前の声すげぇうるせぇよ!」
佐久間がおかしそうに笑っている。
「え?」
そうだったのか?何も覚えていない。
「なんだよ、お前、覚えてないのかよ?佐久間ー!佐久間行けー!ってめっちゃ怒鳴ってんのずっと聞こえたぜ?」
「え?マジで?ホントに?」
私は前に並んでいた菅原の肩を叩いた。
「ねぇ、私佐久間―!って怒鳴ってた?」
「あ?いやぁ…どうだったかな?周りがうるさくて真希の声だけ聞こえてたわけじゃないし…」
そう。あんな大歓声の中、私の声だけが聴こえたなんてそんなことあるはずない。
「そうか?俺、真希のでかい声ばっか聴こえてたぞ?」
佐久間が不思議そうに首を傾げる。
「うそだよ」
「うそじゃねぇし」
でも、佐久間の言っていることは本当なのかもしれない。だって私にも聞こえたんだ。バトンを渡したとき。
「気にすんな、最後、ぜってー俺が取り返してやっから!」って。
そんなこと、喋ってる余裕なんてないはずなのに、なぜか聴こえた。多分、あれは私にだけ届いた佐久間の声。
私だって佐久間が走っている間、ずっと祈ってた。アンカーを走る姿に、爪が食い込むほど固くこぶしを握り締めて、叫ぶ余裕なんてないくらいに息をつめて。
多分、佐久間が走っている間、ずっと呼吸を止めていた。だって、佐久間がゴールしたとき、自分もやっと息をしたみたいに苦しかったから。私たちはあの瞬間、空間も距離も越えてどこかで繋がっていたんだ。
「悪ぃな、真希、俺1位取り返せなかった」
「佐久間、いいよ、そんなん全然いいよ。だって佐久間は誰よりもすごかったもん。速かったもん。あんな速く走ったの、初めて見たよ。まるで風みたいだった」
佐久間が照れくさそうに笑う。そのとき、グラウンドに秋のさわやかな風が吹きぬけた。




