表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

繋がっていた

「ただいまの結果……」



 放送委員のアナウンスが流れる。私はつばを飲み込んだ。



「1位、3組……2位、4組………」



 結果は、佐久間が2位。ほんの僅かに及ばなかった。



「ちっくしょーーー!」


 佐久間が叫んでその場に転がる。

 4組の生徒たちはガックリと肩を落とした。「あ~あ!」という声が聞こえる。だけど私は肩を落としたりしない。しっかりとグラウンドに転がっている佐久間の姿だけを見据えた。遠くから見ても肩で息をしているのが分かった。大きく胸が上下している。

 私たちのクラスの列には、【2位】の旗を持った係りが立った



「ちくしょ~!2位かよ。でもあの走り、やばかったな」

「佐久間、お前マジすごいぜ!」



 みんなが悔しがりながらも佐久間を褒め称えている。私も攻められるどころか、みんなが賞賛してくれた。



「真希、頑張ったね。カッコよかったよ!」

「そうそう、お前の走りも凄かったよな。……最後、残念だったけどな」

「ビリだったのが、全部抜いて一瞬だけどトップに立ったんだぜ?」

「あのままいけてたらなぁ…」

「ばぁか、それ言うなって!KY岡野!」



 いつの間にか、息を整えた佐久間が私の後ろに並んでいた。



「真希、お前の声すげぇうるせぇよ!」



 佐久間がおかしそうに笑っている。



「え?」



 そうだったのか?何も覚えていない。



「なんだよ、お前、覚えてないのかよ?佐久間ー!佐久間行けー!ってめっちゃ怒鳴ってんのずっと聞こえたぜ?」

「え?マジで?ホントに?」



 私は前に並んでいた菅原の肩を叩いた。



「ねぇ、私佐久間―!って怒鳴ってた?」

「あ?いやぁ…どうだったかな?周りがうるさくて真希の声だけ聞こえてたわけじゃないし…」



 そう。あんな大歓声の中、私の声だけが聴こえたなんてそんなことあるはずない。



「そうか?俺、真希のでかい声ばっか聴こえてたぞ?」



 佐久間が不思議そうに首を傾げる。



「うそだよ」

「うそじゃねぇし」



 でも、佐久間の言っていることは本当なのかもしれない。だって私にも聞こえたんだ。バトンを渡したとき。

「気にすんな、最後、ぜってー俺が取り返してやっから!」って。

 そんなこと、喋ってる余裕なんてないはずなのに、なぜか聴こえた。多分、あれは私にだけ届いた佐久間の声。


 私だって佐久間が走っている間、ずっと祈ってた。アンカーを走る姿に、爪が食い込むほど固くこぶしを握り締めて、叫ぶ余裕なんてないくらいに息をつめて。

 多分、佐久間が走っている間、ずっと呼吸を止めていた。だって、佐久間がゴールしたとき、自分もやっと息をしたみたいに苦しかったから。私たちはあの瞬間、空間も距離も越えてどこかで繋がっていたんだ。



「悪ぃな、真希、俺1位取り返せなかった」

「佐久間、いいよ、そんなん全然いいよ。だって佐久間は誰よりもすごかったもん。速かったもん。あんな速く走ったの、初めて見たよ。まるで風みたいだった」



 佐久間が照れくさそうに笑う。そのとき、グラウンドに秋のさわやかな風が吹きぬけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ