プロローグ
仕事を終え、自宅マンションまでたどり着くころには9時を回っていた。明日は土曜日で仕事もない。今夜は一人でのんびりしよう…なんて思いながら、マンションの入り口にあるメールボックスを開けた。珍しく実家から封書が届いている。それは、手紙と言うには少し大きすぎる封筒だった。それと、宅配のチラシやDMが何通か。その場でざっと目を通すと、脇に抱えてエントランスをくぐった。
部屋へ上がると、まずキッチンに立ってお湯を沸かす。沸くまでの間、ソファに座り実家からの手紙を開封してみた。
「真希へ。お仕事お疲れさま。今日も残業だったのかしら?あまり無理しないようにね。真希宛に手紙が届いていたので同封します。差出人を見ると、懐かしいお名前なのでビックリしてしまいました。それでは、お盆に帰ってくるのを楽しみにしています。母より」
短い手紙と一緒に入っていた封筒も開けてみる。それは小学校時代の友人からだった。
「真希、元気?私のこと覚えているかな?差出人を見て【誰だっけ?】だって?そんなことないよね?(笑)さて、本題。今度6年4組のクラス会をやります。みんな、どうしているのかな。久しぶりに会いたいよ。絶対来てね!はがきを同封したので、出欠を書いて返送してください。ヨロシクね!」
さらに封筒を覗くと、ハガキが入っている。その宛名は確かに小学校時代に仲の良かった亜季だった。
「クラス会かぁ。そんなの初めてだな」
誰もいないのに言葉にしてみる。一人暮らしが長いと、部屋では喋る必要がないので全く無口になってしまうのだが、こうして手紙を見ていると、昔の友人に語りかけているような気分になった。
手紙を封筒に戻そうとすると、もう2枚ほど何か入っているのに気がついた。取り出してみると、6年生の時にとった集合写真だった。気を利かせた母が入れてくれたのだろう。それと一緒に、スナップ写真も入っている。どうやら運動会のようだ。赤い鉢巻を締めた私。隣には、少し照れくさそうな表情の男の子が写っていた。
「あ……これ……佐久間だ」
佐久間は、一緒にリレーの選手になった男子だった。学年でもトップクラスの足を持つ彼は、毎年リレーの選手だったが、同様に、私も毎年選ばれていた。
小柄な私と違って、体格も態度も大きかった佐久間はクラスの中心的存在だったが、女子たちからは少し恐がられていた。
そんな佐久間が、私から少しは離れたところで困ったように笑っている。
「あの頃は、男子も女子もみんな可愛かったんだな…」
こうして大人になってから見ると、当時は大きくてちょっと恐かった佐久間もかわいらしく見えてしまう。
あれは私の初恋だったのだろか。思い出すだけで胸が疼く。写真を見ていると、急に13年前にタイムスリップしたような気がした。
あの最後のリレー、今も佐久間は覚えているかな…?




