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第1話:積年の業、その幕引き

「見苦しい。その変色した肌、濁った瞳……。

 聖女とは名ばかりの、不吉な『穢れ女』め」


 大理石の床に響くのは、婚約者である第一王子・エドワードの冷酷な声だった。


 王宮の謁見の間、並み居る貴族たちの視線は嫌悪に満ちている。

 確かに、私の肌は、かつての輝きを失っていた。

 だが、この「醜さ」の正体を、ここにいる誰も知らない。


「エドワード様。そのお言葉、本意でいらっしゃいますか?」

「本意も何も、事実だ。聖女としての祈りの力が失せたから、

 そんな醜い姿になったのだろう? 我が王家に相応しいのは、

 太陽のように光り輝くイザベラだ」


 王子の傍らで、異母妹のイザベラが勝ち誇った笑みを浮かべる。

 七年前、国を襲った「死の呪い」を食い止めるため、私は禁忌の術を用いた。


 【業の肩代わり】。

 王家と国に降りかかる災厄のすべてを、私一人が肉体で受け止める。

 その代償として、国は未曾有の繁栄を享受してきた。

 私の肌が焼けるたび、王子の病は癒え、不作は消え去った。


「左様でございますか。……私を不要とし、この縁を断ち切ると仰るのですね」

「しつこいぞ。今すぐ失せろ。二度とその不吉な姿を見せるな!」


 王子の罵声に、周囲が嘲笑を浴びせる。

 その瞬間、私の中で張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。


「承知いたしました。エドワード殿下。

 婚約破棄、謹んでお受けいたします」


 私は深々と一礼した。これが最後という絶縁の礼だ。


「つきましては、お別れの餞別を差し上げたく存じます。私が七年間、

 この身に封じ込めてきた……『積年の業』。本来あるべき主のもとへ、

 すべてお還しいたします」


 指先から放たれた漆黒の波動が、王子の胸元へと吸い込まれていく。


「な……っ、何だ、今の光は!?」

「七年分の災厄。それを引き受ける覚悟が、貴方にありますように」


 私は一度も振り返らず、謁見の間を後にした。


 王宮の門を出た瞬間、私の頬のアザが、わずかに薄くなった。

 代わりに、背後の王宮を包む空気が、どんよりと重く、暗く澱み始める。

 蛇口を閉めていた指を離せば、溜まっていた水は濁流となって溢れ出す。


 私は国境を目指して歩き出した。

 そこには、かつて私が呪いを肩代わりした、

 もう一人の「待ち人」がいるはずだった。

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