夢話:『触れてはいけない名前たち』その②
むせ返るような鉄と油の匂いが漂うマキナの工房で、私は机に突っ伏して深いため息をついていた。
「……マキナさん。本当にもう、心臓に悪いネーミングはやめてくださいよ……」
「はぁ? いきなり何言ってんだお前」
工具を片手に不思議そうな顔をするマキナさんを、私はジト目で睨みつけた。
「夢にまで出たんですよ! マキナさんが作った扇風機、『マキナ・サイレント・ウインド』! 略して『MS-ウ……』って、某巨大企業から内容証明が届きそうな名前をセラさんが口にした時、冷や汗で溺れるかと思いました!」
「ぶっ! ははははっ! なんだそりゃ!」
マキナさんは腹を抱えて笑い出した。
「お前の脳内、どうなってんだよ。前世のコンプライアンスに縛られすぎだろ。そもそもここ異世界だぞ?」
「異世界でもメタ的な事情ってもんがあるんですよ! 私の存在が作者ごと消されたらどうするんですか!」
私は涙目で訴えながら、さらに夢の続きを語った。
「それに夢の中で、マキナさんが鉄球を撃ち出す大口径の大砲を作ったって言ってて……。名前が『マキナ・キャノン・ハンマー』、略して『MCハ……』とか……」
そこまで言うと、マキナさんはピタリと笑いを止め、急に技術者としての真面目な顔つきになった。
「……おいおいリナ。お前、物理法則を舐めすぎだろ」
「えっ?」
「あのな、あのライフル(MC-1)のサイズでさえ、反動の処理に私がどれだけ苦労したと思ってんだ? そんな巨大な質量の鉄球を撃ち出そうとしたら、撃った瞬間に反動でこっちの陣地がミンチになるぞ。ただデカくすればいいってもんじゃねえんだよ。作用・反作用の法則って知ってるか?」
マキナさんからの、あまりにも真っ当で、現実的な物理論のツッコミ。
私はぐうの音も出なかった。
「ううう……た、たしかに」
(よかった……マキナさんは根は真面目な技術者だ。あれは私の疲れが生み出した、ただの悪夢だったんだわ)
私は胸をなでおろし、心底ホッとした。
「まあ、大砲は無理だが……ちょっと面白いものは作ったぜ」
「え?」
マキナさんはニヤリと笑うと、作業台の奥に被せられていた黒い布をバサリと取り払った。
そこに現れたのは、一振りの長剣だった。だが、ただの剣ではない。刀身になにやら組み込まれており、まるで雷を閉じ込めたかのように、ギラギラと眩い稲妻の光を放っている。
「おお……! これは?」
「あの脳筋……ハヤトの野郎が、『俺をもっと最高にカッコよく見せる、ド派手な武器をくれ!』ってうるさくてな。電気を付与して、振るたびに電撃が弾ける魔剣みたいなやつを作ってみたんだよ」
「へえ! かっこいいですね。これならハヤトさんも絶対に喜びますよ! 闇の中で光る雷の剣だなんて、まさにヒーローの武器って感じです!」
私は素直に感心して手を叩いた。
「だろ? もちろん、それで気合入れて名付けたぜ!」
マキナさんは得意げに胸を反らし、天高く指を突き上げた。
「剣聖が使う、雷の爆発を起こす剣だ! そこに開発者である私の名前も入れて……」
ピクッ。
私の脳内の、前世で培った「社会人のコンプライアンス・センサー」が、微かに、しかし確かな警告音を鳴らした。
「その名も! 『マキナ・剣聖・サンダー・バースト』!!」
「……ま、待って」
マキナさんは、止まらない。
最高にドヤ顔で、その言葉を紡いだ。
「略して!!」
「やめて!! 言わないで!!!」
「『Mケン・サン・バーー!!!』」
「わぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!! やーめーてぇぇぇっ!!!」
私は両手で耳を塞ぎ、工房の中で今日一番の大絶叫を上げた。
「頭の中で陽気なイントロが鳴り止まなくなるから!! あの軽快なリズムがループするから!!」
「はあ!? なに言ってんだお前!?」
「だめよ! ハヤトさんの黒いマントが金色のスパンコールになっちゃう!! 想像してみてよ! 夜の戦場に、ダンサーズを引き連れて『オ~レ~!』って現れる剣聖を!! カッコいいとかそういう次元の話じゃなくなるのよォォォッ!!」
「オ~レ~ってなんだよ! 踊らねえよ! 斬るんだよ!」
訳が分からず困惑するマキナさんをよそに、私は頭を抱えてその場にうずくまった。
(だめだ……! この世界、天才が本気を出せば出すほど、コンプライアンスの敵が増えていく……!)
脳内で陽気にステップを踏みながら満面の笑みで剣を振るうハヤトさんの幻影を振り払うため、私は一人、工房の床で頭を抱えるのだった。
あくまでIFストーリです。ごめんなさい。思いついたらもうイメージがグルグルと。これは私だけが抱えていて良い問題ではない!文字にして吐き出して、皆様を巻き込むしかない!…と。
さて。内容に問題がありましたら連絡ください。速攻で消去させて頂きます。




