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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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夢話:『触れてはいけない名前たち』

 

 北壁の砦の作戦室。

 私は『天翼の軍師』として、集まった帝国軍の重鎮たちを前に、一つの重要事項を厳かに宣言していた。


「――皆様。先日、マキナ局長が開発した新型のマキナキャノンですが、今後の書面や会議においては、開発者の名前を秘匿するため、コードネームを用いることとします」

 私は銀の仮面の奥で、咳払いを一つ。

「呼称は……『MC-1エムシー・ワン』とします。徹底してください」

 マキナ・キャノンの頭文字を取っただけの、前世の型番アルファベットを適当に組み合わせたネーミングだ。


 だが、その私の提案に、部屋の空気がブルッと震えた。


「おお……! エムシー・ワン!」

 ヘルマン副官が、腕を組んで深く頷く。「なんという研ぎ澄まされた、冷徹な響きだ! まさに帝国の新兵器にふさわしい!」

「うむ。何というかシンプルで響きがいい。……クールだ」

 あのシュタイナー中将までもが、目を閉じてその響きを噛み締めている。

「『エムシー・ワン部隊、前へ!』……うん、号令も出しやすいな」

 ゼイドも騎士らしく真っ直ぐな瞳で満足げだ。


(ふふん。やっぱり私、前世で培ったビジネスネーミングセンスがあるのかも)

 私は周囲の大絶賛に、仮面の下で鼻を高くしていた。


 ◇◆◇


 その夜。

 自分の仕事の完璧な成果に満足し、私はふかふかのベッドで心地よい眠りについていた。

 ……そして、夢を見た。


「いやー、リナ! お前ってやつは!」


 夢の中に現れたのは、油まみれの作業着を着たマキナさんだった。

 彼女は腰に手を当てて、満面のドヤ顔をキメている。

「『MC-1』! かっこいいぜ! 私の名前が由来だって敵には絶対にバレないし、なんか無駄に強そうな兵器っぽくて最高だ!」

「でしょでしょ?」

 夢の中の私も、一緒になってふんぞり返る。

「こういうのはね、アルファベットと数字を適当に組み合わせると、それっぽく聞こえるものなんですよ」


「でさ!」

 マキナさんが、さらに目を輝かせて身を乗り出してきた。

「あの超長距離ライフルとは別に、ドデカい鉄球を一発ドカン!と打ち出せる大口径タイプも作り出したんだよ!」

「へー! すごいじゃないですか。大砲バージョンみたいなものですかね?」

「そうそう! 城門とか一撃でぶっ飛ばせるやつ! でさー、こっちも良い名前がないか、私なりに考えてみたんだ!」


 ん?

 私の脳内で、野生の勘……いや、前世で培った社会人のコンプライアンス・センサーが、微かに警鐘を鳴らした。

「……名前、ですか?」

「おうよ! 私の名前と、キャノンと、あと鉄球がハンマーみたいに敵をぶっ叩くからさ!」

 マキナさんは、天高く指を突き上げた。

「その名も! 『マキナ・キャノン・ハンマー』! 略して!」


「『MC-は……』」


「わーーーーっ!! わー! わー! ワーーーーッ!!!」


 私は弾かれたように飛び上がり、両手でマキナさんの口を思い切り塞いだ。

「むぐーっ!? むぐぐっ!」

「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ!」

 冷や汗がどっと噴き出す。息が荒くなる。


「ぷはっ! リ、リナ!? なんだよいきなり! 息が止まるかと思ったぞ!」

「マ、マキナさん……っ! もっと……もっと気を付けてください……!」

 私はマキナさんの肩を掴み、涙目で前後にガクガクと揺さぶった。

「どこで誰が見てるか……いや、読んでるか判らないんですから! あんな大人に……ハンマーなラッパーの大人とかに怒られますよ!!」

「はあ!? なに言ってんだお前!? 気にしすぎじゃねーのか? ここにはお前と私しかいねーし、この『MCハ……』」


「だーかーらー! 言・う・なァァァッ!!」


 ◇◆◇


「ハッ……!!」


 ガバァッ! と、私はベッドから勢いよく上体を起こした。


「ぜぇ……っ、ぜぇ……っ、ぜぇ……っ!」

 額からは滝のように汗が流れ、寝間着がじっとりと肌に張り付いている。心臓が、肋骨を突き破りそうなほど激しく脈打っていた。

(あ、危なかった……。色んな意味で、私の存在が消されるところだった……)

 前世の記憶を持つ転生者ゆえの、あまりにメタ的で恐ろしい悪夢。


 荒い息を整えていると、ふと、火照った頬を爽やかな風が撫でた。

 すぅーっと、心地よい風。


「あら。お目覚めになられたのですね、リナ様」

 ベッドの傍らで、セラさんが完璧な微笑みを浮かべて立っていた。


「い、いやぁ……。なんだか、とても危なっかしい……権利的にギリギリを攻める夢でした……」

 額の汗を拭いながら、私はふと首を傾げる。

「それにしても、この風は……?」

 窓は閉まっているのに、一定のリズムで涼しい風が吹いてくる。


「ああ、これですか」

 セラさんは、部屋の隅に置かれた見慣れない機械を示した。何やら羽根がぐるぐると回転している。

「リナ様がひどく寝苦しそうに汗をかいておられましたので、これを使ってみましたの。先日、マキナ局長から頂いたのですよ。『風が起こせる道具だ』とかで。……便利ですね、これ」

「(ああ……マキナさんが作った扇風機か……。あの人、本当に何でも作るなぁ)」


 風に当たりながら、私はようやく人心地ついた。やっぱりセラさんの淹れてくれるお茶か何かを飲んで、落ち着こう。


「なんでも、局長は『静音性』にひどく拘ったとかで、とても自慢げにおっしゃっていましたわよ」

「何をですか?」

 私が無防備に尋ねると、セラさんは美しい小首を傾げ、思い出すように言葉を紡いだ。


「ええっと……マキナ謹製の、静かサイレントに、ウインドーを起こせる機械だとかで……」

「(ん……? サイレント……? ウインドー……?)」

 私の脳内のコンプライアンス・センサーが、先程の十倍のボリュームで警報を鳴らし始めた。


「なんでも、略して」


 セラさんの桜色の唇が、美しく動く。


「『MS-ウ……』」


「わーーーーーっ!! わー!! わーーーーーっ!!!」


 私は両手で自分の耳を塞ぎ、ベッドの上で今日一番の大絶叫を上げた。

「えっ!? !? な、なんですの、リナ様!?」

 突然発狂した主君に、普段は氷のように冷静なセラさんがビクゥッ! と肩を跳ねさせ、目を丸くして狼狽している。


「(ぜぇ……っ、ぜぇ……っ!)」

 私は肩で息をしながら、ベッドの上で小さく膝を抱えた。

 ウィンドーの外では、朝の陽光が差し込んでいる。


(全く……! この世界……ゆ、油断も隙もないっ……!!!)


 天才発明家の無邪気なネーミングセンスに、私はただ一人、見えない巨大な敵コンプライアンスに怯えながら、深く、深いため息をつくのだった。


あ…危ない危ない…

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― 新着の感想 ―
エムシー・ワン部隊、前へ! この文をよんだときに頭に浮かんだのは、 超長距離ライフルを構えた無表情な兵士が相手に向かって一斉に砲撃。 この作戦は月がでてる夜に行って欲しいかと。 ある意味質量兵器にもな…
本家は危ない危ないw とんねるずのMCタカーを思い出しちゃった〜(≧▽≦)
これは色々と危ない危ないwww BANされても文句言えないですねw
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