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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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第300話:『黒の宮殿、四柱の思惑』

祝!本線300話♪ わくわく。

 

 その時、巨大な黒いゲル――『黒の宮殿』の中は、外の嵐とは異なる重厚な質量を持った静寂と、濃密な覇気に満ちていた。

 そこには、これから産声を上げる「覇国」の猛者たちが、それぞれの流儀でときを待っていた。


 部屋の中央では、三人の族長たちが酒と喧騒に興じていた。

『砕氷の民』族長ボルガス、『血雨の民』族長ゾルヴァーグ、そして『霧幻の民』族長ユルヴァ。

 彼らは山積みの毛皮の上で、あるいは武具の手入れをしながら、これから手に入る新たな領土や富について、下卑た笑い声を上げている。

「待ちきれねぇな。全て喰らい尽くしてやる」

「ええ、血が騒ぐというものです」

 そこにあるのは、一国の将としての品格ではなく、ただ巨大な力に群がる野盗のような、剥き出しの欲望だけだった。


 そんな彼らとは対照的に、部屋の最も奥まった場所で、ただ一人、重く静かな空気を纏う男がいた。


『岩窟の民』族長、ガルド。


 彼は部屋の最も奥まった場所で、壁に背を預け、腕を組んで目を閉じていた。

 他の将軍たちが黄金や絹で着飾る中、彼だけが使い込まれた実用一点張りの革鎧と、手入れの行き届いた鉄の胸当てを身に着けている。その姿は将軍というよりは一介の熟練兵士のようであり、それゆえに歴戦の重みが滲み出ていた。


(……国、か)


 ガルドは、騒ぐ同僚たちの声を遠くに聞きながら、かつての記憶を反芻していた。

 まだクルガンがただの強力な戦士だった頃、焚火を囲み二人で語り合った夜。

『無秩序な奪い合いを終わらせる』『誰もが飢えずに暮らせる北を作る』

 その理想に共鳴し、彼は一番最初に膝を屈し、クルガンの剣となることを誓ったのだ。


 だが今、目の前にあるのはなんだ。

 欲望に肥え太った豚、血に飢えた蛇、日和見の女狐。そして、力に溺れ、自らを神格化し始めたかつての盟友。

 秩序は生まれた。だがそれは、弱者をシステム的に搾取するための冷酷な檻でしかなかった。


(……クルガンよ。これがお前の望んだ景色だったのか? あの夜の言葉は、嘘だったのか?)


 ガルドは微かに目を開けた。深緑の瞳には、決して表には出さぬ深い失望と、それでも部族の民を守るためにこの場に留まらざるを得ない悲壮な覚悟が宿っていた。


「――おや。浮かない顔ですな、ガルド殿」


 思考の海に沈んでいたガルドの耳元に、氷水のような声がかけられた。

 視線を向けると、軍師ヴィクトルが薄ら笑いを浮かべて傍らに立っていた。


「いよいよ建国の時。貴殿が夢見た『秩序』が今日ここに完成するのですよ? もっと喜まれてはいかがか」


 その白々しい言葉に、ガルドは無言でヴィクトルを睨みつけた。この男の瞳は、いつも人の心の柔らかい部分を土足で踏み荒らすような色をしている。

「……これが、秩序か」

 ガルドが低い声で、部屋に充満する欲望の熱気を指して問う。


「ええ。美しくはないかもしれませんが、強固だ。……貴殿のような実直な柱が支えている限りは、ね」

 ヴィクトルは意味深に微笑むと、ポンとガルドの肩を叩き、部屋の中央へと歩み出た。


 ガルドは、去りゆく軍師の背中を見つめながら、言いようのない苛立ちを覚えた。自分が信じた理想と、目の前の現実との乖離。その歪みの中心にこの男がいるような気がしてならない。だが証拠もなければ、今さら後戻りもできない。


(……愚かな男だ)

 背を向けたヴィクトルの眼鏡の奥で、冷酷な嘲笑が浮かぶ。

(あの夜、クルガンに『ガルドという男は金や力では動かぬ。理想という餌を見せれば、誰よりも忠実な番犬になる』と入れ知恵したのは私だとも知らずに。……せいぜい苦悩するがいい。その責任感こそが貴様をこの歪な塔に縛り付ける鎖なのだから)


「――お揃いですな」


 ヴィクトルが懐中時計の蓋をパチリと閉め、慇懃な笑みで猛者たちを見回す。

「舞台は整いました。皆様のような英傑が、一つの旗の下に集う。……歴史が変わる瞬間です」


 その言葉を合図にするかのように、奥の玉座から巨大な影が立ち上がった。

 空気が一変する。

 それまで独自の覇気を放っていた三人の将軍たちが、一斉にその男へと視線を向けた。彼らの強烈な自我をもねじ伏せる絶対的な「個」の力。


 クルガン。

 黒い獣皮のマントを翻し、魔剣を腰にいたその姿は、人の形をした災厄そのものだった。

 彼はギラギラと輝く獣の瞳で、並み居る猛者たちを一瞥する。


「行くぞ。腹を空かせた狼どもに、誰が真の王か教えてやる」


 クルガンが歩き出す。ボルガスたちが欲に濡れた顔で続く。

 ガルドだけが、一瞬だけ痛ましげな視線を主君の背中に投げかけ、すぐに無表情な鉄の仮面を被り直すと、無言で従った。


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― 新着の感想 ―
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です 第300話:『黒の宮殿、四柱の思惑』」拝読致しました。  クルガンの配下の将軍たち、登場。  猛将3人と。(男、男、…
本編300話おめでとうございます!ここは300話の3で… と言いたいところですが無いので②希望です!
 本編300話おめでとうございます、これも輝夜さんの努力と楽しんだ結果ですね。これからも、楽しく物語を書いていかれることを期待しております。  さて、更新ペースを維持することは、作品を書くうえでのモチ…
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