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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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第290話:『狼たちの天秤、傾く刻』

 

 帝国側、司令官天幕。

 そこは突如として戦場の様相を呈した。


『――集落を完全に包囲封鎖せよ』


 セラの切羽詰まった声が『囁きの小箱』から響いた瞬間、地図盤を囲んでいたシュタイナー中将は弾かれたように立ち上がった。その巨躯から放たれる覇気が、天幕内の空気をビリビリと震わせる。


「よし来た! すぐに出られる者はわしに続け! 百もいれば十分だ!」

 雷鳴のような号令が、天幕を揺るがす。傍らで控えていた副官たちが、即座にそれぞれの持ち場へと散っていく。

「ヘルマン! 後詰の部隊は任せたぞ! 蒸気トラックもいつでも出せるようにしておけ!」

 彼は卓上の兜を掴み、頭に被りながら通信機越しのセラと状況の確認を続ける。

「部族の封鎖で良いのだな? 案内の者はどうする!」

『ゲッコー配下の者がそちらへ。その者の案内で!』

「承知した!」

 鋼鉄のブーツが床を蹴り、シュタイナーは嵐のように作戦室を飛び出していった。


 ◇◆◇


 一方、族長のゲルの中は、凍てつくような静寂に支配されていた。

 バラクは、怒りと疑念に顔を歪める二人の族長を前に、あくまで飄々と言葉を紡いでいた。


「なに、帝国の者だと? うむ。最近、若い者に変わった服装を趣味とする者が何人かおるが、それではないのか?」

 彼は呆れたように肩をすくめる。

「我が部族内のこと。直ちに調べさせよう。その間はここで待たれよ。……そうそう、病のことであったな? 最近、画期的なことが判明してな」


「そのような悠長なことを言っている時ではない!」

 ゴードが苛立ちを隠さずに吼える。


「なに、ここで騒いでも何も変わらぬわ」

 バラクの落ち着き払った態度に、ゴードとエルラは逆に言葉を失う。

「帝国と戦ってみて、私は学んだのだ。目先の動きに囚われ、急ぎ事を起こした結果が、あの惨状を招いた。……我らがすべきは、クルガンの動向を見極め、柳に風と受け流し、いかに時間を稼ぐか。そうすべきであったとな」

「そうは思われぬか? 我らは騎馬の民。一所に定住しておるわけではない。常に移動しておれば、正確には把握されぬよ」


「しかし!」エルラが鋭く切り込んだ。「現に殆どの部族は、事実としてクルガンの支配下にあるではないか!」


「おお、それはそうであるが。……うむ。さらに良く考えねばならぬな」

 バラクのあまりに呑気な返答に、ついにゴードの堪忍袋の緒が切れた。

「見損なったぞ! 貴殿においても、クルガンの指示に従い、帝国に攻め入る必要があると共に判断したではないか!」


「うむ。それが性急すぎたと後悔しておるのだ」

 バラクはため息をついた。

「主らは、ひょっとして帝国に勝てると思うておるのか?」

「……むぅ!」


 その問いに、二人の族長はぐっと押し黙る。

 バラクはその隙を見逃さなかった。

「……食事の準備をさせておく。まずは調査に行った者の報告を待とう。……すまぬが、少し席を外させていただく。その間に考えてみてくれ」

 彼はそう言うとゲルから出て行った。


 一人になった彼はアランからの使いと接触する。

『――アラン様からです。『軍師殿に部族の包囲を許可した』とのことです』


 その報告にバラクの口元に不敵な笑みが浮かんだ。

(……ふん。ならば、覚悟せねばならんな)

(天翼の軍師、どうして打つ手がこうも速い)

(こうなれば、二部族の族長もここで腹を決めさせるしかないか)

(……悪くはないか。どちらにしても、八方塞がりだったのだ。それは、彼らも同じこと)

(これは……そうだな。すでにあの嬢ちゃんの掌の上か。可愛い顔して、実に怖いのぉ……)


「……アランに伝えよ」

 バラクは覚悟を決めた。

「『私は腹をくくった。主も腹をくくれ。そして、この状況を最大限に利用せよ。利用されるだけになるな』、と」


 彼の言葉を受け、使いは闇へと消えた。

 バラクは再びゲルへと戻る。盤上の駒としてではなく、自らの意志で動くプレイヤーとして。


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― 新着の感想 ―
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です 第290話:『狼たちの天秤、傾く刻』」拝読致しました。  集落を完全包囲せよ!  やはりの派手展開になりそうです。 …
更新お疲れ様です。 にわかに急転直下の事態の推移・・・・ 闖入者の二族長の説得はどうなるのか? そしてどの局面で『天翼の軍師』登場か? 次回も楽しみにしています。
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