【ver.改訂前】第281話:『天才の工房、未来の咆哮』
『……無くしてみろ、ただじゃおかねえからな!』
一方的に通信を叩き切ったマキナは、工房の隅に立てかけてあった黒い長物を睨みつけた。
(ったく、物騒なモン創っちまったもんだ。……リナの判断は正しい)
彼女はため息をつくと、かなり重量のある試作品の銃を、なんとか担ぎ上げた。ずしりとした重みが肩に食い込む。
(……まあ、リナなら、きっと正しく使ってくれるだろ。……せめてもう少し反動をマイルドにしてやるか。照準器の精度ももう一段階上げられるはずだ)
ぶつぶつと呟きながら彼女が作業台へ向かおうとした、まさにその時。
工房の扉が何の遠慮もなく勢いよく開け放たれた。
「局長! 例のブツが、ようやく形になりました!」
油と汗にまみれた技術主任が、まるで宝物を抱えるように一つの奇妙な金属塊を掲げて駆け込んでくる。それは三角形のおむすびのような形をしたローターが繭のようなハウジングの中で滑らかに回転する、全く新しい構造のエンジンだった。
「おお! 出来たか!」
マキナは銃のことなどすっかり頭から消え去り、子供のように目を輝かせてそれに駆け寄った。
「どうだ、回してみろ!」
「はい!」
主任がバルブを開くと『エーテルリキッド』の蒸気がエンジン内部へと流れ込む。
しゅるるるるる……。
それまでのピストン式とは全く違う、絹を裂くような滑らかで連続的な回転音。ローターは見る間に回転数を上げ、やがて甲高い、しかし心地よいハミングのような音を奏で始めた。
「すげえ! 振動がほとんどねえ! これなら飛行機の機体への負担も格段に減らせるぞ!」
マキナは興奮に声を上ずらせる。
「出力は!? 想定通り出てるか!?」
「はい! 従来のレシプロ式の半分以下のサイズで、出力は1.5倍を記録! 燃費も今のところは計算通りです!」
「よっしゃあ!」
だがその熱狂に別の技術者が冷や水を浴びせた。
「ですが局長! 耐久性にまだ問題が! ローターの先端部の摩耗が激しく、長時間の連続稼働には耐えられません!」
「材質を変えろ! もっと硬くて熱に強い合金を探せ! なければ創れ! そのための錬金術師だろうが!」
そこからは言葉の殴り合いだった。
別のチームがさらに別の試作品を抱えて駆け込んでくる。
「局長! こちらは『ロケット』です! 莫大な推進力は得られましたが、エーテルの消費が尋常ではありません!」
「効率が悪すぎるんだよ! 噴射ノズルの形状を見直せ! ベル型だ! 衝撃波を制御できてねえ!」
熱い議論が火花を散らし、工房は新たな時代の産声で満ちていた。
ひとしきり怒鳴り合い指示を飛ばし終えたマキナは、ぜえぜえと肩で息をした。
そしてふと工房の隅に置き去りにされたあの黒い長物を思い出す。
「……ふぅ。……おっといけねえ。リナに送る『マキナ・キャノン』の調整がまだだったな」




