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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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茶話会:『軍師様の甘い葛藤』

 

「さあ、リナ様。職務上のスキンシップの続きですわよ」

 セラさんが、完璧な微笑みでスープの匙を差し出す。

「リナ様、マキナ局長がお待ちです。早く済ませてしまいましょう」

 ヴォルフラムさんが、どこかズレた生真面目さで追い打ちをかける。


「う、うぅ……」

 もはや抵抗する気力もなくなった。私は観念して、差し出されたスプーンにぱくりと食いついた。


「よしよし、いい子だな。 もっとスキンシップしてもらえ!」

 マキナさんが、ニヨニヨしながら面白そうに囃し立てる。「俺は急がねえから、ゆっくりでいいぞ。ちょうどいい、ここで一休みさせてもらうさ!」

 彼女は近くの椅子にどっかりと腰を下ろし、腕を組んで私たちの「スキンシップ」を心底楽しそうに眺め始めた。


 結局、朝食が終わるまで、私の「あーん」は続いた。

 ようやく解放され、私がぐったりとテーブルに突っ伏したのと、マキナさんが「さて、じゃあ打ち合わせすっか」と立ち上がったのは、ほぼ同時だった。


 だが、その瞬間。

 再び、扉が何の遠慮もなく開かれた。


「―― 街で美味そうな菓子を見つけたぞ!」


 現れたのは、満面の笑みを浮かべたグレイグ中将だった。その大きな手には、先日私たちが訪れたパティスリーのすぐ隣にあった店の、見覚えのある美しい箱が掲げられている。扉を開けた瞬間から、バターと砂糖の甘い香りが部屋中にふわりと広がった。


 その匂いを嗅ぎ取った瞬間。

 私の鼻が、ひくっと動いた。

(だ、だめ……! 今は打ち合わせが先……! 私は『天翼の軍師』……帝国の最高顧問なんだから……!)

 頭の中では必死に理性が警鐘を鳴らす。だが、甘い香りに誘われて、体は正直に反応してしまっていた。


 ぐったりと突っ伏していたはずの顔が、ガバっと持ち上がる。目は、箱に釘付けだ。

 口元が、緩んでいる自覚は、ある。


「……いえ、グレイグ中将。お気持ちは嬉しいのですが、今はマキナ局長と重要な打ち合わせの最中ですので、お構いなく……」


 口では、完璧なまでに職務優先の姿勢を示す。

 だが、その言葉とは裏腹に、私の体は椅子からそろり、と立ち上がり、まるで磁石に引かれる砂鉄のように、とたたたた、とグレイグ中将の持つ箱へと吸い寄せられていた。


 その、あまりに見事な言行不一致。

 その場にいた全員が、固唾をのんで私の動きを見守っている。


「……お、おう。そうか。邪魔したな。……では、このケーキは後で……」

 グレイグ中将が気まずそうに箱を引っ込めようとした、その瞬間。


「――お待ちください!」


 私の手が、反射で彼の腕をがしりと掴んでいた。

 はっと我に返り、私は慌てて咳払いをする。

「……いえ、その……せっかくのお心遣いです。……これも、職務上の円滑なコミュニケーションの一環として、ありがたく、頂戴いたします……!」

 先程自分で使って墓穴を掘ったばかりの言い訳を、私は涙目で繰り返していた。


 そのあまりに見事な復活劇と、現金すぎる変わりように、その場にいた全員の肩が、ぷるぷると震え始めた。

 やがて、マキナさんがやれやれと首を振り、深いため息をついた。


「……こりゃ、打ち合わせはまたにした方が良さそうだな」

「そ、そんなことはありません! ちゃんとやります!」

 私がケーキの箱を大事そうに抱え込みながら慌てて振り返るが、その説得力は皆無だった。


「顔と言葉が合ってねえよ」

 マキナさんは呆れきった声で言うと、今度はグレイグ中将に向き直った。

「は~。グレイグさんよぉ、そんだけデカい箱なんだ。俺の分もあんのか?」

「がっはっは! 当たり前だ! 全員の分、買ってきてやったわ!」


 こうして、マキナさんとの真剣な技術会議は、いつの間にか賑やかなケーキパーティへと姿を変えていた。

 アクア・ポリスの穏やかな陽光が差し込む部屋で、私たちのゆるやかな休日は、まだもう少しだけ続くようだった。

ほのぼのは〜、心の栄養〜なのですね〜♪

わたしも一緒に、コーヒーにしましょう。

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― 新着の感想 ―
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です 茶話会:『軍師様の甘い葛藤』」拝読致しました。  スキンシップは職務。  だ、誰だこんな都合のいい言い訳を考えたヤツ…
更新お疲れ様です。 再びのによによ^^ 甘いケーキは精神的に疲弊したwリナに慈雨となるか?(^^;; 次回も楽しみにしています。
いや、逆に周りは彼女をどれだけ疲れさせてたんだろうと反省すべきだと思う。 甘いものを無意識に求めさせるほどこき使ってたんだと。
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