第九話 分かり合えない
遅れました。更新です。
パチパチと、焚き火が燃えている。
「ふぅ……何とか逃げ切れたな。もう夜になっちまったよ」
アルドが服が汚れるのも気にせず、仰向きに寝転びながら言う。
「……えぇ、そうですね」
カイは魔銃を見つめながら言う。
「走ってる時から気になってたんだが、その武器何なんだ?銃から電気が出てたけど」
カイはアルドの質問に答えるか迷うが、決心して口を開く。
「これは───」
「魔銃でしょう?」
カイの言葉を遮ってリクトが口を開いた。
「……はい、そうですね」
カイはリクトの言葉に頷く。
「魔銃は禁忌とされる武器。貴方は何故持ってるんです?」
「………………」
カイは黙り込んでしまう。
「……まぁ、予想はついています。あなたはヴィル・フォリティスとか言うくだらない組織に入ってるのでしょう?」
「…….くだらないって何ですか?」
「そのままの意味ですよ。何をしたって解決のしようがない混血の差別を無くそうと働きかけている。あなたのような奇怪な人間が受け入れられる筈がないでしょう?」
「ッ!撤回してください!今の言葉を!」
カイは勢いよく立ち上がりリクトを睨みつける。
「……ふっ、少しはあなたの本性が見えて来てよかったですよ」
リクトはそう吐き捨てるように言い、続ける。
「ヴィル・フォリティスも同じです。表面上はイーウェスタの人権活動を行い、裏では機密資料の奪取、研究者の拉致、さらにあなたの持っている魔銃の開発。所詮はただの犯罪組織ですよ」
「……ッ!」
カイはリクトをより強く睨みつける。拳はワナワナと震え、今にも殴りかかりそうな勢いだった。
リクトはそれを嘲笑うかのように言う。
「その目ですよ。あなたは私やそこのヴィアンティカ人に向けるその目。私がリベルディア人だからと言う偏見や差別的な意思を持ったその目。自分が差別される事には敏感のくせに、自分が誰かを差別している事には気づかない」
「くっ、お前がイーウェスタの何を知っている!どれだけイーウェスタが虐げられてきたと思ってるんだ!」
カイのその言葉にリクトは立ち上がり、カイの胸ぐらを掴んで言う。
「だったら、お前は私の何を知っていると言うんだ!!」
カイはその鬼気迫る表情のリクトに驚く。
「私はお前達の犯罪組織による資料の盗難の濡れ衣を着せられた!ヴィル・フォリティスが真犯人だと特定しても罪は覆らず、結局私は北送りになった!お前達のせいで私は未来を閉ざされた!」
リクトの胸ぐらを掴む腕に力が入る。カイは何も言い返す事が出来なかった。
「私を助ける者は誰も居なかった……笑い合い、助け合った同僚も、父でさえも!」
リクトはカイを突き飛ばす。
カイは地面に手をついて上体を起こす。
「くだらない犯罪組織の思想に染まり、禁忌の武器にまで手を出したお前に、私の何が分かる!リーダー面も、仲間面も、お膳立ても、何もかも不快なんだ!」
リクトは再びカイの胸ぐらを掴む。
「お前は何がしたいんだ?誰かの未来を閉ざしてまて!お前は!!」
リクトは拳を振り下ろす。しかし、その腕はカイに掴まれて止まる。
「世界を、変える事だ」
その言葉にリクトの顔は歪む。
「そんなおめでたい理想論、出来るわけがないだろう!くだらない!」
カイは掴む腕に力を込めてリクトを睨みつける。
「くだらなくない!!例え不可能だとしても!間違っていたとしても!この信念を僕が曲げる事はない!」
カイの目からは涙すら流れていた。その狂気的な目にリクトは気圧される。
「諦める事も……逃げる事も……出来る訳ないんだよ!」
「落ち着けカイ!」
フォルスがカイを羽交締めにして、アルドはリクトをカイから剥がす。
「…………」
「カイ!何処に行くんだよ!」
フォルスから離れたカイは、アルドの言葉を無視し、そのまま駆けていった。
「……追ってくる」
フォルスも、カイの後を追って走り出した。
少し離れたところでカイは溜息を吐く。
カイはリクトからの言葉が頭を離れなかった。
(……分かってる。ヴィル・フォリティスは、許されない事をして来た事は……分かってる。けど───)
「カイ?」
突然名前を呼ばれ、カイは背中を振るわせる。声のした方をカイは向く。
「……ケン。奇遇だね」
「……どうしたんだカイ?酷い顔してるけど」
「え?そ、そうかな……」
はは、とカイは何とか笑みを浮かべる。
「そうか……君の仲間はどうしたんだ?」
「ああ、近くに居るよ。ケンの仲間は?」
その言葉にケンは俯く。
「……死んだよ」
「え?」
「死んだんだよ!急に災厄獣が3匹も現れて……それで僕だけ生き残って……」
「ケン……」
カイは、昼に見た牛と豚と鳥の災厄獣を思い出す。
(僕のせいで……)
ケンはカイに背を向け歩き出す。
「ちょっ、どこに行くんだよ!ケン!」
カイは、ケンの手を掴む。
「……分からない。けど、もうこれで会うのは最後じゃないかな」
「……だったら、僕の班に来なよ!」
「……いいよ、君に迷惑はかけたくない」
ケンはカイの手を振り払おうとする。しかし、カイは手を離さない。
「……嫌だ。ケンに死んで欲しくなんてない!」
「……ごめん、カイ。仲間だけ死んで、僕だけ生きてるなんて耐えられない」
カイの手を振り払ったケンは、右手を出す。
「ありがとうカイ、短い間だったけど」
「短すぎるよ……」
カイは下を向き、言葉を続ける
「短すぎるから……もっと───」
「カイ!!!」
カイは顔を上げてケンの右手を握ろうと手を伸ばした時、後ろから来たフォルスに外套を思いっきり引っ張られた。
勢いそのままに転倒し、何とか上体を起こす。
「モォォォォォォ!!!」
次の瞬間、目の前の……ケンのいた場所を牛の災厄獣が鈍い音を響かせて通り過ぎた。
こちらに何かが吹っ飛んでくる。
ドサッと地面に落ちたのは、カイが手を伸ばし、掴もうとした、筈の、血濡れた右腕。
「……え?」




