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第七話 接敵

カイ達北方警備隊はロープを使って10メートル程の壁に登り、そのまま北の地に降り、森の方を向く。


「霧がすごいな……」


全く奥の見えないこの北の大森林をみつめていると、ケンも壁から降りてきた。


「この霧じゃ、先も見えなそうにないね」


ケンの言葉にカイは頷く。


「うん……ここで10日間の任務を行う事になるのか……」


「……気をつけなよカイ。また宿舎で会おう」


「うん、ケンも気をつけてね」


「ああ」


カイとケンはグータッチを交わしてそれぞれの班のメンバーに向かった。


「遅いですよイーウェスタ。とっとと行きましょう」


「……すみません、早く入りましょうか」


リクトの相変わらずの高圧的な態度にうんざりしつつも謝罪したカイは、後の2人を見る。


「おっしゃあ!!俺が一番災厄獣狩ってやるぜ!!」


アルドはカイが来たのを確認して、意気揚々と森の中に足を踏み入れ、進んでいく。


「ちょっと待ってくれ」


そのアルドに続いてカイとリクトも森に入ろうとした時、フォルスが3人を止めた。


「……どうしたんですか、フォルスさん」


「俺はノルザー族だ、この森を感じる事が出来る」


「……何を馬鹿な事を言ってるんです?頭がおかしくなったんですか?」


リクトの呆れた様な目を無視して、リクトは静かに目を閉じて、地面に手を付ける。


「εbεαρπ、ςαuτ……ςερηβ……ηηημ ,αβληΣ……」


「……フォルスさん、本当に何をしてるんですか?」


突然聞いた事も無い言葉を発したフォルスにカイは困惑する。


「森を感じてると言っているだろう……μuδνεcuδερ……μucημα……δΑ!」


その言葉を言い終えた瞬間、腕の猛禽類のような刺青が翡翠色の輝きを放つ。

ゆっくりと開かれたフォルスのその瞳は、今までの空虚な目ではなく、猛禽類を思わせる、鋭い光を帯びた目をしていた。


「何だよその力……凄えな!」


「……これで、災厄獣の位置が分かる。着いてこい」


アルドの言葉を無視して森を見つめたフォルスは、一瞬苦しそうな顔をするが、すぐに表情を戻し、森へと入ってゆっくり歩き出した。


「……とりあえず皆さんも、フォルスさんに従って行きましょう」


「何故ノルザー族如きの後を追わなければならないのですか?」


「俺の直感だとこっちな気がするぜ!」


「いいから!黙って着いてきてください!これは班長命令です!」


カイが叫んだ事により、不満と言った表情を浮かべながらも2人は着いてくる。

その様子にカイは必死に溜息を呑み込み、片手で頭を抑えながら歩く。


(これで、災厄獣に遭遇した時どうするんだよ……)


ドンッ。


「わっ!」


俯きながら歩いていたせいで、フォルスが立ち止まっていた事に気づかず、ぶつかってしまった。


「ごめんなさいフォルスさん。前を見てなかっ───」


「全員、備えろ。災厄獣が近くに居る」


カイの言葉を遮って放たれたフォルスの言葉によって、この場にいるフォルス以外の3人にも緊張が走る。


「何処の方角ですか!?」

 

「……完全に位置は掴めない。だが、接近してきているのは確かだ」


その言葉を聞いてカイは振り向く。


「戦闘準備を!」


「言われなくても」


「俺は準備バッチリだ!!」 


カイはその様子に若干の不安に駆られつつも、自分も戦闘に備え魔銃では無い方のライフルを取り出す。


静かなこの森に、風が葉を揺らす音だけがやけに響く。


しかし、その音の中に、確かに重量を持った足音の様な音が混ざり始める。


「……ッ!カイ、そっちだ!!」


フォルスの声と同時に木を薙ぎ倒して、熊のようなナニかが咆哮をあげる。

『それ』は全身は固体か液体か見分けのつかない黒灰色の泥のような物で構成されており、ポタポタと落ちるその体液は草葉は腐敗していく。

その何も映っていないように見える目がギョロリと動き、カイを捉える。


「グォォァァァァ!!!」


災厄獣がカイの方へと地面を揺らし、駆けてくる。


「くっ…….《地雷(ランド・マイン)》!」

 

カイは足から地面に電気の魔力を流し込んでを設置する。


(……まだ逃げるな、惹きつけるんだ!)


「グァァァォォォォ!!!」


熊のようなナニか……恐らく災厄獣は、カイに飛びかかる。


(……今!)


「《エレクトル・ムーブ》!!」

 

地面に焦げ跡を残し、2メートル程の一瞬で距離を後退する。


「グォォォォァァァァ!!」


カイへと飛びかかった熊の災厄獣は、地面に設置したカイの感電トラップに引っ掛かり、動きが止まる。


(今のうちに射撃で……!)


カイは着地して、ライフルを構えるが、アルドが射線に入る。


「ナイスだカイ!俺も負けてらんねぇ!」


アルドは地面を蹴って駆け出し、杖に魔力を込める。


「ちょっ!アルドさん!何で突っ込んでるんですか!」


「邪魔ですヴィアンティカ人!撃ち殺しますよ!」


「ハッ!チマチマした銃弾なんかよりも、魔法の方がいいだろ!!《イグニット・ルプティス》!!」


カイとリクトの声を無視してアルドの杖から放たれた炎は災厄獣の腹部に命中した瞬間、災厄獣を構成する魔力を喰らって燃え上がり、爆ぜた。


「ガァァァァァァ!!!」


災厄獣の泥のような体液が辺りに飛び散り、周囲を腐敗させる。


「ハーッハッー!!アルド様にかかればこんなもん───」


「ガァァァァァァ!!!」


アルドが笑い声を上げた瞬間、災厄獣の損傷した腹部から人の手のようなモノが腹を掻っ捌く様に中から飛び出してきた。


「ςνελοδ ……ςνελοδ ……εαβ!!」


災厄獣は苦しげな呻き声を発しながら手をアルドに伸ばす。


「アルドさん!!」


カイはその一瞬の出来事に、声を発する事しか出来なかった。


鷹爪斬(ようそうざん)!!」 


横から飛び込んできたフォルスの翡翠色のオーラを纏った大剣が、災厄獣の腹から生えてきた腕を斬り落とす。


「ぃ…………し……!」


災厄獣は生えてきた腕を前脚で抑える。


「油断するな……!」


フォルスがアルドを睨みつける。


「おぉ!流石だぜフォルス!!助かった!」


アルドは笑みを浮かべてフォルスに礼を言う。


「礼はいい!構え直せ!」


「あいよ!!」


フォルスとアルドが災厄獣へと向き直る。


(クソッ……僕はまだ何も出来ていない……せめて2人のサポートに回らないと……)


「リクトさん!僕らも援護に周りましょう!」


「私に指図しなくて結構」


リクトはそう言って背中に背負っていたスナイパーライフルを下ろし、地面に這って構える。


(この人本当に頑固だな……!……リクトさんを動かすのが無理なら、あの2人を動かすしか無い!)


「フォルスさん!アルドさん!後ろからリクトさんと僕は援護するので、後ろにも注意を向けて戦う事はできますか!?」


「……やれるだけやる!」


「俺も!!」


2人は了承の意を示す。


「……チッ、余計な事を」


「ςερεcαφ……cοη……ρuc……」


再び動き出した災厄獣は、呻き声を上げ、地面に前脚をつけながらも、戦意を滾らせている。しかし、その損傷した腹部からは、災厄獣の核が見えている。


(あれを壊せば、災厄獣は死ぬ……!)


カイは核の一点だけを見つめる。


「ぐっ……!」


災厄獣の呻き声にフォルスは顔を歪めながら受け止め、アルドの炎魔法が再び炸裂する。

カイも少し接近して、リクトのいる後方も意識しつつ、ライフルで援護する。


(……銃は、効き目は薄いな)


フォルスの大剣や、アルドの魔法に比べたら、圧倒的に災厄獣へ与える損傷は低い。


「退きなさい、イーウェスタ。……私をお膳立てしたいんでしょう?」


後ろから聞こえたリクトの声にハッとしてカイは後ろを向く。


リクトは非常に嫌な顔をしながらも、災厄獣の剥き出しになった核部分に標準を合わせていた。


「分かりました!お願いします!」


(……くだらない。ヴィアンティカ人やイーウェスタ達と協力など)


リクトは先程のカイの言葉を思い出す。


(……仲間なんて、くだらない)


引き金を引いて放たれた弾は、ご丁寧にも射線を開けたフォルスとアルドの間を通り、災厄獣の腹部を貫き、核を貫いた。


「……あ……ぅ……」


核を貫かれた事で、災厄獣は力の供給源を失い、地面に倒れ伏した。



150PVありがとうございます!

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