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第六話 歪み切った

それから暫くして、漸く2人の言い争いはカイによって抑えられた事で終わりを告げた。


「えーっと、改めて、僕はこの12班の班長を勤めます、カイ・シャーガリアです。よろしくお願いします」


カイは3人に向かって頭を下げる。


「カイか、良い名前だな!俺はアルド・テメラリアスだ!お前、なんか目の色違うけどどうしたんだ!?」


燃えるような赤色の髪に、ガッシリとした体つきのアルドと名乗った男が快活に笑う。


「……これは、混血だから生まれつきです」


「そうなのか!知らなかったぜ!」


「……少し黙ってで下さいヴィアンティカ人。鼓膜が破れそうです。私はリクト・カサノ。よろしくお願いします」


黒髪に黒目でメガネをかけた男はリクトと名乗る。


「お前リクトって言うのか!!」


「……静かにして下さいヴィアンティカ人」


「俺はアルドだ!ヴィアンティカ人って名前じゃねぇ!」


「聞こえなかったんですか?静かにしろと」


リクトはアルドを強く睨みつける。


「ちょっ、2人とも落ち着いて下さい!この班の代表は僕です!だからまず───」


カイが少し焦って間に入って止に入った手を、リクトは振り払う。


「黙れ、イーウェスタ。私は貴方やそこのヴィアンティカ人やノルザー族のような落ちこぼれと話す事など何も無いです」


カイは手を抑えながらアルドとリクトから距離を離す。


「……へっ、おいおいじゃあ何でお前はその落ちこぼれの俺達と同じ所に居るんだよ?お前も俺達と同じ落ちこぼれなんじゃねぇのか?」


アルドが先程と打って変わって嘲笑うかのように言い放つ。


「……黙れヴィアンティカ人!私はお前とは違う!お前は私の何を知っている!」


リクトは懐から取り出した拳銃をアルドに突きつける。


「はっ……撃てるもんなら撃ってみろよ」


それに対してアルドは一切動じないどころか、手に魔力を込め、炎を浮かび上がらせる。

リクトが引き金に手を掛ける。

カイは、その光景をただ見る事しか出来なかった。


「ッ……!」


一触即発のその時、ノルザー族の男がリクトの腕を掴んだ。


「何をするんですか、離して下さい!」


「カイが困ってるんだ……やめろ。あと俺はフォルスだ」


「え?」


突然自分の名前が出て来てカイは驚く。


「黙れノルザ───ッ……!」


リクトが口を噤む。

フォルスと名乗ったノルザー族が、リクトの腕を掴む力を強くしたのか、拳銃が地面に落ちる。


「喧嘩はよくない……そっちも」


フォルスがアルドの方を見る。


「あいよ。これで良いか?」


アルドが浮かべていた炎を消す。


「……これで静かになった。続きを話せ」


フォルスの空虚な目が、カイを見つめる。その深淵の様に奥の見えない瞳に、カイは吸い込まれそうになる。

カイはフォルスから目を逸らして言う。


「……いや、今日はもう良いです。これで解散です」


カイは3人に背を向け、扉を開けて、足早に去った。


「何だアイツ。もっと声だせ声」


「……私も失礼します。ヴィアンティカ人とノルザー族と同じ部屋には居たくありませんから」


フォルスの腕を振り払い、拳銃を拾い上げて懐にしまったリクトも、フォルスの横を通って去って行った。


「……俺も、帰る」


「おう、またな!!お前強そうだし、頼りにするぜ!」


「……ありがとう」


フォルスも静かに扉を開けて、その場を後にした。


カイは自室に入り、ベッドに倒れ込む。


先程リクトに払われた手を見る。少し赤くなっているだけで大した怪我では無い。だが、あの時の、リクトの目が頭から離れなかった。


(最初から分かってた。なのに、僕は何を期待していたんだ。分かっていたのに……歩み寄ってくれると思ったんだ……)


カイは悔しさと自分の不甲斐なさに、ベッドに拳を打ちつける。

ぼふっという力の無い音が鳴り、余計にやるせなくなる。


「もう戻ってたんだ、カイ」


カイは振り向くと、ケンが立っていた。


「……うん、早く終わったから。ケンはどうだった?」


「僕はイーウェスタ4人だったからかなりやりやすかったかな。君はどうだった?」


「……余り話したくないかな」


「……そうか。じゃあさっさと寝ようか。もう明日から大森林に出発する。疲れをとっておかないと」


「……そうだね」


――――――


翌日、広場には全ての北方警備隊の隊員が集まっていた。


カイは迷彩の戦闘服に外套を羽織り、背中に魔銃と、それとは別にライフルを背負って立っていた。


カイは辺りを見る。皆カイと同じか少し上くらいの年齢だろうか。


(……父さんや、母さんは居ないか)


「……皆さん、準備は出来ていますか?」


カイは後ろのアルド、リクト、フォルスの方を向く。


「おう、バッチリだ!」


アルドはヴィアンティカのかなり上等な軍服に、バサッと赤いマントを揺らし、右手に持った魔石の埋め込まれた杖を掲げる。


「一々聞かなくても良いです、イーウェスタ。」


リベルディアの軍服を着たリクトは、背中には巨大なスナイパーライフルを背負い、手にはライフルを持っている。


「ああ……出来てる」


フォルスは民族的な服に外套を羽織っていて、背中に大剣を背負っている。


「……了解しました」


カイは前に向き直り、小さく溜息を吐く。


「よく集まった諸君!」


全員が揃ったのを確認し、この北方警備隊の隊長を務めるユキオ・キササが口を開く。


「昨日ここに来た君達には悪いが、上は君達に無駄飯を食わせる余裕はないらしい」


その言葉に、ここに居る皆から上層部への罵声が飛ぶ。



「……君達の不満の声は分かるが、私はこの北方警備隊の待遇改善を10年以上求めているが、改善されていない。……だからすまないが、諦めてくれ」


その言葉によってより一層野次の声が大きくなるが、それをユキオは手で制する。


「君達の心配するべきはこれからの調査についてだ。正直に言おう。この北の大森林の調査では、生き残って戻って来る数の方が少ないだろう」


広場のざわめきを無視して、ユキオは続ける。


「私も北の調査で何人もの仲間を失った。この先の大森林にあるのは、地獄だけだ。一瞬でも気を緩めれば死ぬ。仮に生き残っても、その幸運が二度訪れると思うな」


カイは俯く。


(こんなチームで、生き残って帰る事なんて出来るのか……?)


「……最後に伝えておく事がある。君達の班員は、命を預ける仲間だ。1人でも欠ければ、集団として体を成さなくなり、極めて生存率が下がる。だから、信頼し、協力し合うんだ。出自など、関係なく」


既に広場には口を開く者は居なくなっていた。


カイは、昨日の事を思い出す。到底信頼できる仲間とは言えない。


「では、君達が再びこの広場に集まれる事を願っている」



暫くは12時に投稿していきます

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