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第五話 新天地にて

100PVありがとうございます!更新再開です!



カイは一つの個室の席に入り、扉を閉める。

ドサッと席に座り、外を見る。この南東都市「ヒガシグチ」はあまり好きでは無かったけど、離れるとなると少し寂しい。


列車の汽笛が鳴り、列車が走り出す。

それによって、この発展した街の風景から、少しずつ田舎の、風景へと変わって行く。


カイは外套に手を入れて、隠していた魔銃を取り出す。持ち物検査で止められたが、見た目は普通のライフル銃だからバレずに済んでよかったっと安堵しつつ、魔銃を膝に置き、布で磨いているとふとエレクティノが去り際に言っていた事を思い出した。


『その銃は、誰かの未来を奪う事になるかもしれない。だが、そこで止まる選択肢など無いと思え。犠牲が無ければ、未来を変える事は出来ない』


「誰かの未来を奪う……か」


(この魔銃をいつか誰かに向ける事になるんだろうか?

西の連中なのか、東の連中なのか、それとも───)


カイはぶんぶんと頭を振る。

 

(……この事を考えるのは辞めておこう。少なくとも今僕がこの銃口を向けるのは恐らく災厄獣(カタストラ)だろう。)


カイは何故か魔銃が少し重くなったように感じた。


そうしてる内に、景色はのどかな田舎風景から、段々発展した都市に変わり、列車はこの『中央カンフリード』の中枢都市にあたる、中央都市『』の駅に到着した。


「……っと、もう着いたんだ」


カイは立ち上がって列車から降り、さっきまで乗っていた列車の向かいに止まっている北行きの列車に乗り込む。


列車の中を歩き、適当な個室を開けると、その個室には既に先客が居た。


そのカイと同じ年くらいの少年顔を上げる。黄銅色の髪に黒と赤のオッドアイ。同じイーウェスタだ。


「あぁ、座ってもいいよ。ちょうど退屈していたんだ」


「じゃあ、座らせてもらうよ」


カイは少年に向かい合うように座り、魔銃は隣に置く。


「よろしく、僕はケン・モルデーレ。南西都市出身だよ」


ケンと名乗った少年は手を差し出してくる。


「こちらこそよろしく。僕はカイ・シャーガリア。南東都市出身です」


2人は握手を交わす。


「この列車に乗ってるって事は、君も北行きなのか?」


「うん、そうだよ」


「……そうか、君も追いやられたのか」


ケンがうつむく。


「え?どういう事?」


「……違うのか?」


「あぁ、確かにここに配属されたのは自分の意思じゃないけど、この中央カンフリードに残る事を選んだのは僕の意思だ」


「そうなのか……どうやら、僕の居た南西都市の方針とは少し違うみたいだね」


ケンはふう、と溜息を吐くと再び口を開く。


「僕の居た南西都市では、西のヴィアンティカ人の割合が多かった。イーウェスタへの差別意識の強いあいつらは、僕らを完全な無能とみなし、殆ど所属先を選ぶ権利は無かった」


「そんな事が……許されてるのか」


ケンはカイのその言葉を聞いて諦めたような笑みを浮かぶ。


「あぁ、そうだ。僕は、一度教官に楯突いたことがあった。その一件が素行不良として都市支部のお偉いさんに届き、このザマさ」


「………」


カイは言葉を発する事ができなかった。


「……まぁ、もう終わった事だ。覆すことも出来ないし。それよりも、君は災厄獣についてどれくらい知ってるんだ?」


「……獣の姿をしていて、胴体からは腕が生えてる個体もいるとか」


「大体あってる…….といっても、僕も資料でしか知らないんだが、イグノマギウムの弾が有効だから、全身は魔力の塊で出来てるらしい」


「確か、銃や弾は支給されるんだよね」


「あぁ……と言うか、さっきから気になってたけど、その銃は君が作ったのか?」


「……まぁ、そんな所かな。支給される銃よりも、勝手の分かる銃の方が扱いやすいし」


「へぇ……」


ケンは興味深そうにカイの魔銃を見つめている。


「……ごめん、今日はよく眠れてないから、ちょっと休んでいいかな」


「そうなんだ。僕も余り寝れてないからこの後の事に備えて休んでおこうかな」


ケンはそういうと、座席にもたれかかって、目を閉じた。

カイも座席に横になって目を閉じる。

これから始まるであろう地獄へと備えて。


それからしばらくして、中央カンフリードの北端に位置する都市『セプテントリネスガイ』

に着いた。


カイとケンは列車を降りた後、北方警備隊の駐屯地に向かって歩いていた。


「何やってくれてんだよ!!!」


突然街に響いた怒声に、2人は耳を塞ぐ。


「……なぁ、あれノルザー族じゃないか?」 


ケンが声のした方向を見ながら言う。

そこでは、巨体の男が、金髪の男……恐らくヴィアンティカ人に難癖をつけられていた。巨大の男は、少し緑味を帯びた白銀の髪は無造作に伸びており、腕には猛禽類を思わせるような刺青のようなものがある。


「チッ、おいノルザー族、お前らが誰のおかげで飯を食えてんのか分かってるのか!!」


「…….はい」


「分かってるなら身をわきまえろ!この気高きヴィアンティカの血を引く私が道を通るなら、穢らわしい血を引くお前達は道を空けるんだよ!」


「カイ、ボーっとするな。行こう」


ケンがカイの肩を掴んで言う。


「……そうだね」


カイ達の声に反応したのか、ノルザー族と思しき人物が、一瞬こちらを向けた。


カイは、その顔を見て動きを止めてしまう。

顔が恐ろしかったわけでも、醜悪だったわけでも無い。ただ、その何も映って無い空虚な目に、カイはゾッとした。


「何やってんだよカイ!」


カイは、ケンに引き摺られるようにその場を後にした。


少し離れた所で2人は息を吐く。



「カイ、あまりノルザー族と関わらない方がいい。ノルザー族への差別は、僕達イーウェスタよりも根深い。近くにいたら、僕達も巻き込まれる」


「……そうだね。気をつけるよ」


カイは、先程のノルザー族の空虚な目を思い出す。

ノルザー族は、100年前に災厄獣によって森を追われてきた民族だ。彼らもリベルディア連邦とヴィアンティカ王国と共に災厄獣にも立ち向かったと言うが、活躍したという話は聞いていない。魔力も、銃も扱えない彼らは戦力には値しなかったのだろう。


カイは、先程の光景を忘れるように頭を振り、ケンの隣に並んで歩き出す。しかし、振り払ったとしても、あの光景が浮かんでくる。イーウェスタの自分ですらもあれ程の罵声を受けた事はない。


(……一体、ノルザー族が何をしたって言うんだ)


カイは先程のノルザー族で頭がいっぱいになっていた。

 

――――――

 

「駐屯地はこっちの方で合ってるかな?」


街の端の方に来たのか、段々人通りが少なくなって来た。


「あぁ。ちゃんとあってる。今日の夜には入隊するイーウェスタ達の激励会と、それぞれの班ごとの顔合わせがあるらしいから、その準備も早くしないとな」


「班か……確か僕は、12班だったかな」


「……なら残念、僕は11班だよ」


2人は一つの建物で足を止める。


「ここ……だよね」


「……そうみたいだ」


外壁は蔦に覆われ、所々損傷……いや、大破してる所もある。


塀の中には、小さな広場があり、その奥に宿舎がある。


「酷い有様か?」


カイ達は門の前で呆然としていると、1人の男性が、こちらに近づいてきた。

白髪は混ざっているが、黒髪に黒目なので恐らくリベルディア人だろう。


「……まぁ、そんな事は答えにくいか。私はこの北方警備隊の隊長……といっても、事務的な仕事を務める、ユキオ・キササだ。よろしく」


「……あ、はい。僕……ゴホン、私は南東都市から派遣されて来ました!カイ・シャーガリアです!」


「私は、南西都市から派遣されました!ケン・モルデーレです!」


2人はユキオに敬礼をする。


「……シャーガリア、か」


ユキオの考え込むような仕草に少しカイは違和感を持つ。


「どうかしましたか?」


「……いや、なんでも無い。歓迎しようカイ・シャーガリアにケン・モルデーレ。案内しながらここについて話す。着いてこい」


そう言ってユキオは背を向け、宿舎に向かって歩き出す。

カイとケンは黙ってその後ろを着いていく。


「安心しろ、私はイーウェスタだろうがなんだろうが同じように扱う。……あの化け物の前では皆等しく死ぬからな」


ユキオはそう口にして、宿舎の扉を開ける。


「ここが君達の宿舎だ。宿舎は人種ごとに違うが、分けておかないと、今度は外壁どころか宿舎に大穴が開く事になるだろう」


カイとケンは中に入る。外装はともかく、中は綺麗だ。

 

「では、後少しすれば激励会を始める。着替えて広場に来い」


「「はっ!」」


ユキオを2人は敬礼で見送る。


ユキオが宿舎から出て行った後、2人は自分の部屋に向かう。


「部屋同じみたいだね」


「よかったよ。知らない人じゃなくて」


2人は106号室と書かれた部屋には入る。


部屋の大部分は二段ベッドが占めており、奥には洗面所がある。

必要最低限の設備といった感じだ。


カイは外套を脱いで荷物を置き、ベッドを見る。


「これが北方警備隊の戦闘服みたいだね」


カイはベッドの上に置かれた迷彩の服を手に取る。


「そうだね、さっさと着替えて広場に行こう。遅刻は厳禁だから」


ケンの言葉にカイは頷き、手早く戦闘服に着替え広場へと向かった。


激励会と言っても、内容は非常にシンプルなもので、集まったイーウェスタ達へユキオ・キササが隊長として任務の説明をし、激励の言葉を告げて終わるという形ですぐに終了した。


「では、これから班ごとに別れて顔合わせだ。彼らは互いに命を預け合う仲間となる。場所は事前に伝えておいた宿舎の部屋だ。以上、解散!」


ユキオ・キササの言葉で、皆動き出す。


「じゃあカイ、また後で」


「うん、また宿舎で」


カイはケンと別れヴィアンティカ人の宿舎に入る。

この先に同じ班の仲間がいるらしい。

士官としての経験も積む必要がある事で班長に任命されている。


「……この宿舎に集合って事は、少なくとも、ヴィアンティカ人はいるのか」


カイはこれまでに見て来たヴィアンティカ人を思い出す。


(エレクティノさんや、ベントスさんは確かに良い人だった。けど、それ以外にまともなヴィアンティカ人にあった事なんてない)


カイは指定の部屋の前まで来る。


(ここまで来たんだ、今更引いてられない!)


部屋の前で一度深呼吸して、扉を開ける。


「どうも!僕はこの12班の班長となった───」


「だから分からねぇって!!言ってるだろうが!!もっと分かりやすく言え!!」


部屋を開けた瞬間入って来た瞬間耳に入って来たのは、カイの大声すらも打ち消す程の怒声。


「うるさいですヴィアンティカ人!大きい声を出さないで下さい!」


「お前だって出してるじゃねぇか!!」


「貴方が大きな声を出すからでしょう!」


「あのー」


「そもそも何で貴方の様な馬鹿なヴィアンティカの連中と組まなければならないんですか!」


「こっちが聞きてぇよ!!」


「えっと……」


燃える様な赤い髪色の男と、黒髪にメガネをかけた男の言い争いが止まる様子はない。

チラッと扉の横を見ると、先程見たノルザー族が、カイの方を見ていた。


未だ目の前の2人の言い争いは続いている。

カイは頭を抑える。


(……無理かもしれない)



補足説明 イグノマギウム

別名、反魔導鋼。リベルディア連邦で産出されている。金属の鉱石。加工した剣や銃弾などは魔法障壁や、魔法によって強化された肉体すらも易々と貫く。


明日の12時にも更新します。

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