第二十二話 風雲急
少し間が空いてしまいました。
ちょっと今回は場面転換が多いです。
(僕が好き?初対面なのに?……いや、今はそんな事よりも……)
「アルドは……僕の友人は大丈夫なんですか!?」
辺りを見回して、姿を消したアルドを探す。
「安心しろ、少し離れたところに飛ばしただけだ。用事が終われば戻す」
ヴィオラの後ろにいるリアと呼ばれていた鎧姿の女性が答えた。
(……嘘って訳ではないだろうけど、アルドが心配だから相手の用件を早く終わらせたほうがいいな)
そう考えたカイは、目の前で笑顔を浮かべているヴィオラに向き直る。
「えっと……人違いではないんですよね?僕は貴方のことを知らない……と思うんですけど……」
「そう……だよね。うん、わたしが知ってるカイは貴方だけ。それに、一緒に暮らしてたのは本当に小さい頃だったし……」
「……え?」
最後に突如爆弾を投下されたカイは硬直した。
「……主様、それ以上踏み込んだ話をするのはよくないです」
その言葉にヴィオラは口をへの字に曲げてリアの方に振り向く。
「どうして?もっとカイと話したいのにぃ〜」
「……この場所では誰かに聞かれているか分から無いでしょう?」
リアは少し呆れたように溜息を吐く。
「うー、分かったよ……じゃあカイ、今日わたしの屋敷に来て!夜!」
「え……えっと……」
「この都市の中央区の住宅街にいるから、来てね!」
その言葉を聞いた後ろのリアは額に手を置いて天を仰いでいたが、ヴィオラに声を掛けられて側に寄る。
それと同時、二人の足元に魔法陣が現れる。
「後はお前の友人だったな。戻しておく」
「ぐえっ!」
何もない所から現れた魔法陣からアルドが落ちて来た。
「じゃあカイ!またね!」
「えっと……はい……」
手を振る目の前のヴィオラが消えたのを見送った後、カイはしゃがみ込んで心配そうにアルドを見つめる。
「大丈夫?アルド?変な事されてない?」
「……あぁ。ちょっと飛ばされてただけだ」
アルドは特に怪我をしている様子もなく起き上がり、その場に胡座をかいて座る。
「……ったくあの人も雑だな。もう少し手心が欲しいぜ」
アルドは後頭部をガシガシと掻きながら呟く。
「……今の人知り合いなの?」
カイが恐る恐るアルドに尋ねる。
「ん? ああ。多分だが、あの剣を装備してた方は知り合いだ」
アルドは手を組んで話し出す。
「俺と同じ王派閥の二大貴族のもう一つ、グラディウス家の当主だ。名前はスクラテリア・グラディウスだ」
「スクラテリア・グラディウス……」
「グラディウス家の一族の魔法は転移魔法。昔見たことがあるから分かる」
カイは顎に手を当てて、今までの事を思い返す。
(転移魔法か……だったらアルドが急にいなくなったり、魔力探知で探知する間も無く背後を取られたのも一応納得出来るな……)
「鎧の人はわかったけど、もう一人の方は?」
顔を上げたカイはアルドの方を向く。
「うーん……分からん!」
速攻で考える事を放棄したアルドから元気な返事が返って来た。
「アルドでも分からないのか……」
「俺は分からないことの方が多いぞ」
「いや、貴族には結構詳しいでしょ?何か知らないのかって」
「なんだ?そんなに気になる理由でもあるのか?」
アルドが珍しそうな顔をする。
「……まぁ、間違っていないかな。唐突に告白されたりもしたけど……それよりもなんと言うか……直接会った記憶はないんだけど……誰かに似ている気がするんだけど……」
カイは唸る。
(……あの笑顔、何となくカナタさんと似てるような……)
自身の育て親でもある孤児院長ハルカ・カナタの顔を思い浮かべるが、そんな事はないだろうと頭を振る。
「……今サラッとやばい事流さなかったか?」
「まぁ、とりあえず今日の夜聞いてみるか」
「ちょっ!めっちゃ気になるんだが!詳しく話せ!」
――――――
都市『チェントルム』の中央区の一角に存在する一つの屋敷。そこで少女ヴィオラはベッドに腰掛けて足をぶらぶら揺らしながら楽しそうに鼻歌を歌っていた。
その様子に何度目かも分からない溜息を吐いた、リアこと、スクラテリアは立ったまま自身の主人を見下ろす。
「はぁ……いつもは大人しいのに、唐突に中央区に行きたいだなんていたら、さらに勝手に約束までするなんて……貴方の父上の許可が出ているとは言え、幾ら何でも用心が足りていないです……」
「たまにはいいでじゃない!カイと初めてちゃんと話せたんだから。もっと話したいと思うでしょ?」
「警戒心が足りていないんですよ。彼が今何をしているのかも分からないのに……それに、今回はテメラリアスの次男坊だっていたんですよ?」
「それは大丈夫でしょう?貴方のグラディウス家と並んで王派閥の筆頭のテメラリアスの家が裏切る訳がないのだから……その、単純な人が多いから」
最後の方は必死に言葉を選んだヴィオラは苦笑いを浮かべながら言う。
「確かにテメラリアス家で頭が回るのは、現在の当主代行のあの男くらいですが……」
スクラテリアは、眉間に皺が寄るのを手で押さえる。
「ふふっ、リアにそんな顔するのも珍しいね」
彼女とテメラリアスの当主代行の犬猿の仲を知るヴィオラはいつもは見ないような顔にくすくすと笑う。
「……笑わないでくださいよ、ヴィオラ様」
「ごめんね、リア。本当に可笑しくって」
「…….まぁいいです。それよりも、これからどうするんですか?元々今日の夜に『ヒガシグチ』に向かう予定でしたよね?」
スクラテリアの言葉に、ヴィオラは顔から笑みを消して、ぶらぶらしていた足を止める。
「……もうカイに会ったからいい」
「しかし、元々孤児院に行って───」
「いいの!」
ヴィオラの怒気を含んだ声にスクラテリアは口を閉ざす。俯いた彼女の表情は悲しげに見えた。
「……分かりました。帰るのが早くなれば、貴方の父上も安心するでしょう」
こればかりは仕方ない、と息を吐いたスクラテリアは話を変える。
「この中央の住宅街は殆ど住んでる者もいませんから、逆に目立ちますね……でも、今回はよかったです。フィーデス家の次期当主……自然派の次期教皇がいましたから」
出された人物に、ヴィオラは少し顔を上げて小さく呟いた。
「……わたしあの人嫌い」
――――――――
西区『ウェスタ』、住宅街の一つの屋敷
「いい? あの人はとっても……その……気難しいお方だから気をつけてね。分かった? 分かった?」
先輩メイドのミアが、新人メイドに真剣な表情で念を押す。
新人の少女フランは、背筋をピンと伸ばしてこくこくと頷いた。
「は、はい! 頑張ります!」
やる気十分な彼女の返答に、できれば長く続いて欲しいと思いながら、ミアは最終確認をする。
「絶対に失礼だけはしちゃだめよ?じゃ、行ってらっしゃい」
「はい!」
ミアが不安げに見送る中、フランは元気よく返事をして、緊張のせいか、ややぎこちない動きで、主人のいる部屋の扉のノブを握る。
カチャリと音を立てて部屋に入ると、思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、まるで絵画から抜け出したような女性が佇んでいた。
絹のような翡翠色の髪に、美しい相貌。フランは見惚れて一瞬固まるが、彼女が振り向いたことでハッとする。
黒く染まった瞳をフランに向け、彼女、ネグローザ・フィーデスは優しく微笑む。
「貴方がミアの言っていた新しい子ね?今日からよろしくお願いするわ」
「は、はい。フランと申します!」
フランは見惚れて動かなくなりそうな体を必死に動かして、深くお辞儀をする。
彼女に、もういいと言われて顔を上げたフランは、ふと彼女の視線がネグローザの髪の一房に止まった。
(……跳ねてる?)
そう気づいたフランは身につけていた櫛を持ってネグローザの側に寄っていた。
「ネグローザ様、少し髪が乱れてしまっています。今すぐお直ししま───」
「ああぁ!?」
瞬間、フランの体に衝撃が走った。
ドアを突き破って廊下に吹き飛ばされ、壁に背中をぶつけて地に倒れ伏す。
フランは全身に走る痛みと、突然の出来事に何が起きたのか理解できず呆然とする。
───風。
ネグローザが手袋をした右手が無意識に放った魔力の塊。
「……っ」
コツ、コツ、と足音を響かせてネグローザがフランのもとへと歩み寄る。
フランが見た主人の表情は先程とはまるで別人のような歪んだ怒気。
「今……私の悪口、言ったわよねぇ!?ねぇ!?髪が乱れて汚いって!!!!」
「ち、違いますネグローザ様……私はただ───」
「口答えしてんじゃないわよ!」
振り上げられた手。
だが、それを止めたのはミアだった。
「お、おやめくださいネグローザ様!彼女はまだ知らないんです!どうか今回だけは!」
ミアがフランの前に立って、彼女を必死に庇う。
ネグローザは舌打ちを一つし、手を下ろした。
「……チッ。教育はちゃんとしておきなさいよ、ミア。次その小娘が無礼働いたら殺すから」
ネグローザは用事があると言ってフランに一瞥もくれずに立ち去って行った。
「……ごめんなさい、フラン。あの人、髪の事になると過剰に反応しちゃって、手がつけられなくなるの……」
フランに回復魔法を掛けるミアは申し訳なさそうに言う。
「い、いえ。ミア先輩のせいじゃないです……」
フランは必死に笑みを作る。けれど、それはあまりにぎこちない。
ミアは深くため息をついた。
「はぁ……もうあの人も三十八歳なのに、いつまでも子供みたいな……」
「えっ」
フランは先程の風にも劣らない程の衝撃に硬直する。
「どうかしたの? フラン?」
「い、いえ……」
ネグローザは街を歩く。手袋をした右手を左手で握りしめてながら。
「愚弟も、シャーガリアの『種子』も、実験したら殺してあげるわ。そうすれば、あと一人。ふふっ!」
ネグローザはその美貌を大きく歪ませて、愉快そうに笑った。
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