第二十一話 邂逅
カイは自らが感じていた劣等感と、不安を払拭してくれたアルドを追って中央都市を駆ける。もう迷う必要はないんだと、もう気にしなくてもいいんだと。
カイ達は駆ける。そして────
「迷った!」
迷っていた。
「うーん……地図が複雑過ぎて現在地が分からない……」
立ち止まって縦へ横へと方向を変えて地図を見ていたカイは貸してくれと言ったアルドに地図を渡す。二人は再び歩きだす。
地図を受け取ったアルドは頭から「???」を浮かべ、必死に現在地を探し始める。
人通りは少ないが誰もいない訳でもないので自然と歩く人々は二人に視線を向け、早歩きで逃げる様に離れて行く人もいる。
小声で聞こえる罵倒も、アルドの為を思い今は必死に耐える。
「……道案内の魔法とかないのか?」
そんなカイの気持ちを知ってか知らずか、地図を解読するのを諦めたアルドはいつも通りの様子で呟く。
「ヴィアンティカにいたアルドが知らないなら、無いんじゃない?」
「だよなぁ……」
アルドは頭の後ろで手を組んで残念そうに言う。
「一応僕は雷の魔法以外に魔力探知の魔法なら使えるけど、今は使えそうにないね」
「……なら、屋根の上に登って……」
「ちょっ!?怪しまれるって!」
建物をよじ登ろうとするアルドを必死にカイは抑え込む。
「何だよー。これが手っ取り早いじゃねぇか」
「流石にダメでしょ……」
気を取り直して二人はとりあえず奥に見える広場に向かって歩き始める。
「あの広場で地図と照らし合わせて───」
地図と行く先を交互に見ていたカイの瞳に、銀髪の女性が映った。混血に侮蔑の視線を向けながら。
「ッ……!」
カイは立ち止まり灰色の髪をぐしゃっと抑える。息が荒くなっているカイにアルドが心配そうに目を向ける。
「どうした、カイ?さっきの奴は知り合いか?」
アルドは遠くなっていく銀髪の女に目を向けながら言う。
「……いや、違う。……ごめん、足止めちゃって」
カイは髪から手を下ろして俯く。
「……なら、やっぱり視線が気になるのか?」
「……違うよ。ちょっと嫌な事思い出しただけ」
カイは深呼吸をして息を整え、顔を上げる。その顔には冷や汗が浮かんでいて、その顔はどこか暗いままだ。
「そうか……大丈夫、なんだな?」
「……うん。大丈夫」
カイの脳裏には、銀色の髪を靡かせる少年が浮かんでいた。
(もう忘れたと思ってたのにな……)
取り繕ったように浮かべる笑顔が今にも崩れそうなのを必死に耐えて、カイは心配そうにしているアルドの隣を歩く。
「……そう言えば、さっき言ってた探知魔法って、どんな魔法なんだ?」
空気を和ませようと話題を変えたアルドに、カイはありがたく思いつつ説明を始める。
「えっと、僕が使うのは【探知》】って魔法で、魔力の波を持続的に飛ばして魔力反応を探し出すって魔法だよ」
「へぇ、中々便利そうだな」
アルドは頷きながらカイに話の続きを求める。
「うん、大体の魔力量も分かるから強さの比較にも使えるし……まぁ説明だけじゃなくて、一回使ってみるよ」
カイは一度立ち止まって深呼吸をして、手に魔力を集中させる。
「【探知】」
その言葉を引き金に、カイを中心として、円状に魔力の波が展開される。
波の範囲にいる人々の魔力を探知する。隣にいるアルド、横をすれ違う人、そして────
「ッ……!?」
カイ達から数十メートル程離れた位置にある二つの反応。
(片方はアルドと同じくらい……ていうかアルドの魔力量凄い!じゃなくて……もう一人の魔力量、本当にどうなってるんだ……?頭がおかしくなりそうだ)
カイは流れ込んでくる強大な魔力反応に頭を抑える。
「魔力かー、俺の親父とか魔力すげーんだぜ!あとは王族とかも魔力凄ぇって……どうした、カイ、そんなに汗流して、熱いのか?」
アルドの声にカイハッと意識を戻す。
カイは自分の頰に手を当てて始めて今自分が冷や汗を掻いている事に気づいた。
汗が地面に滴り落ちる。
「……ごめん、アルド!」
「ちょっ!おい、カイ!俺だけ置いて中央地区に行くつもりか!?」
カイはこの自分の頭を掻き乱す反応から少しでも離れたいと思い、走りだす。
その後ろを面食らったアルドが追う。
(僕の【探知】の効果は40メートルくらい。くそっ……今はこの持続するっていう効果が鬱陶しくて仕方ない!)
二つの反応がカイの【探知】の範囲内から外れる。
「おい、カイ!これ道合ってるのか!?」
落ち着いたカイは足を止め、ふぅ、と息を吐く。
カイは辺りを見回す。
なりふり構わず走ったせいで、路地に入り込んでいた事を悟ったカイはアルドの方を振り向く。
「ごめん、アルド。勢いで変な道入っちゃったみたい。これは流石に建物の上に行くべきかも……って、あれ?」
カイが振り向いた所には、アルドは居なかった。
【探知】の反応にもない。
「えっ?アル────」
カイが一歩踏み出そうとした瞬間、首筋に何か冷たい物が当てられた。
「それ以上動くな」
カイの耳に響いたのは凛とした女性の声。
カイの皮膚から止まった筈の冷や汗が噴き出る。
(おかしい……さっき、撒いた筈なのに……何でいるんだ……?)
カイは自身の背後に感じる二つの強大魔力反応に体を動かす事が出来ない。
「リア、もういいよ」
「分かりました」
聞こえたもう一人の少女の声に、カイの首筋に突きつけられていた剣が下ろされる。
カイは緊張の糸が切れて足から崩れる。
それと同時に【探知】の魔法効果も無くなった。
カイは立ち上がれないまま、背後にいる二人に目を向けた。
両者共にフードを被っており、先程カイに剣を向けた方はどちらかといえば防御よりも動きやすさを重視した装備に身を包んだ長身の女性。瞳や僅かに見える薄い紫色の髪からヴィアンティカ人だろう。さらによく見れば、腰には左右合わせて四本の剣が収められており、恐らくは魔導戦士だろう。
もう片方は、カイよりも少し背の低い少女で、フードからはみ出た髪はピンクに艶めき、瞳は、黒と赤色をしている。
(混血……?混血は魔力量はヴィアンティカ人と比べて基本的に少ない。なのに、何でこの人からあんな魔力量の反応を感じたんだ……?)
「ねぇあなた、立てる?」
カイの前に立った少女は手を差し伸べる。
「…….主様、他人に触れられるのは……どこに危険が分からないのですよ?」
「えー別にいいでしょ?カイなら問題ないよ!」
鎧の女性の言葉を無視してカイの手を掴んで引き上げた少女は不満そうに口を尖らせる。
「……なっ!?何で僕の名前を……!?」
カイは突然自分の名前を呼ばれた事に困惑と言うか恐怖をした。
カイの反応を見て、少女は下を向いて少し残念そうにした後呟いた。
「……やっぱり、覚えてる訳ないよね」
カイに向き直って彼女は続ける。
「わたしはヴィオラ、よろしくね!」
カイはそのヴィオラと名乗った少女から笑みと共に両手をギュッと握られる。
「あなたを見ると、わたしは胸が痛くなるくらいあなたへの感情が溢れて来るの!」
「は、はぁ」
状況が飲み込めずに、カイは反応に困る。
「その感情は、きっとあなたへの恋……カイ、わたしはあなたが好きなんだと思うの!」
カイは,その言葉に硬直する。
「……………え?」




