第十九話 列車に揺られ
構想は大体固まってるけど中々筆が進まない……
「今回の中央議会はの報告は、カイ・シャーガリア、アルド・テメラリアス隊員の2人を向かわせる」
散乱した資料を置き直したカイ達は、本題に戻っていた。
「……理由を聞いても?」
リクトの言葉に少しドーラーは考えるようなそぶりを見せた後、口を開く。
「理由はいくつかある。まずは見ての通り、この書類の山がある。これを私1人で処理しようとすれば、余りにも時間がかかる」
見上げるほどに積み上がった書類の山と、会った頃のフォルスくらい死んだ目をしたドーラーの目を見てカイ達は彼女の苦労を察した。
「……因みに、出発の5日後まで君達全員にも手伝ってもらうからな」
ドーラーの死んだ目が4人の背筋に嫌な汗をかかせる。
「それでも終わらない想定って……どれだけ多いんだ?」
顔を引きつらせたアルドが書類の山を睨みつける。
フォルスも何も言わないが、驚いた顔で固まっている。
「私とカイ以外まともに使い物にならないからですよ」
「はは……」
リクトは何を当たり前の事を、とでも言いたげにため息をつき、カイは苦笑いをする。
(二人は戦闘には役に立つけど、あまりこう言う作業は向いてなさそうだからなぁ……)
「何だと!?……いや、それもそうか!」
「ああ」
フォルスとアルドはうんうんと頷く。
「すぐに諦められたら流石に複雑なんだけど……」
「……続けて構わないか?」
「「「「はい」」」」
少し呆れたような声に4人がドーラーに向き直って顔を再び引き締める。
「……さっきもいった通り、リクト・カサノ隊員は、文官の経験もある。ので、臨時の私の補佐官として働いてもらう」
「了解しました」
リクトは背筋を正す。
「後の三人はだが……まずはフォルス隊員。君には悪いのだが、ノルザー族は混血よりも風当たりが強い。なのでこの都市から出す事は難しい」
「……分かってます」
フォルスは少し俯く。
が、リクトに優しく肩にポンと手を置かれた事で顔を上げる。
「すまないな。こればかりは私にはどうする事も出来ない」
ドーラーは申し訳なさそうにする。
「いえ、自分の立場くらい分かってます」
「……そうか。では最後に何故二人を理由は単純だ。アルド隊員は戦闘能力に長けており、護衛として十分。そしてカイ隊員はこの12班の班長、つまり彼らをまとめる代表と言う事になる」
ドーラーの視線とカイの視線が交差する。
「今回の報告に関しては、君は北方警備隊の代表と言っても過言ではない。問題を起こす事がないように」
カイは背筋を正し、敬礼をする。
「分かりました、肝に銘じておきます」
カイの様子にドーラーはよし、と呟き笑みを浮かべる。
「説明は以上だ。何か聞きたい事はあるか?」
「じゃあさっき言ってたけど、護衛って何で必要なんだ?」
生徒が教師に質問するようにビシッと手を挙げたアルドが、疑問を口にする。
「……あまり考えたくないんだが、結晶を狙って襲撃を受ける可能性があるんだ」
その言葉に、4人は驚く。
「実際、何度か奪われた事もある。……特にヴィル・フォリティスの連中には気をつけろ。奴らは……奴らは隊員達が命を懸けて集めた結晶を幾度となく奪ってきた!」
悔しそうにドーラーはデスクに右手を叩きつけようとするが、先ほどの書類の山の崩壊を思い出したのか、力無く右手を膝に落とす。
「っ……」
(僕がこれまで魔銃や、道具の開発に使って来た魔法結晶は……)
カイの心がどうしようもない罪悪感に襲われる。自分で経験したからこそ分かる。結晶を手に入れる事がどれほど命懸けなのか。
「……そっか、ありがとな」
「ああ、疑問の解決になったなら幸いだ」
アルドは少し居心地悪そうにしながら、右にいるカイを見る。
「アルド、もう少し口の聞き方を丁寧にした方がいいんじゃないですか?上官相手ですよ?」
すると、アルドの左隣にいたリクトが睨みながら口を開いた。
「いや構わない、リクト隊員。アルド隊員は、王派閥の三大……いや、今は二大貴族の一つ、テメラリアス家の者だ。本来は私たち平民が敬意を持って接するべきなんだ」
そう言ってドーラーは少し困ったように笑う。
「へっ、そんな貴族だの何だの俺は気にしないぜ!今までずっとそうして来たんだからな!こう言うのをリベルディアでは郷に入ってゴー!って言うんだろ?」
「郷に入っては郷に従えですよ。……にしても貴方がそんな立場だったとはね」
リクトとカイの目が合う。
(場を和ませようとしてくれてるのかな……)
カイはリクトの心遣いに、暗くなった気持ちが少し良くなる。
「意外……そんな風に見えない」
フォルスも驚いた顔で言う。
「何だよフォルスまで!俺を馬鹿にしすぎだ!親父は建物破壊しまくったり、博打しまくったりしてるからそれよりマシだ!」
「それ普通に大丈夫なんですか?」
アルドの父親と言うか、テメラリアス家の財政事情にリクトが本気で心配する。
「はい、話は以上だ。早速だが、書類を片付けていく。キビキビ働いてくれよ?」
死地へと引き摺り込むように、カイとリクトの肩にドーラーの手が乗る。
ミシミシと音が鳴りそうなほど強く掴まれた生贄は、ただ笑う事しか出来なくなった上司に引き摺られていく。
アルドとフォルスは、その様子を尻目にさっさと退散して行った。
リクトとカイが作業を続けている。既に太陽は沈み、空には星が輝いている。
「zzz……」
隊長室に響くのは、ドーラーの寝息。今までほとんど眠っていなかったのか、気づいたらデスクに突っ伏していた。
「……カイ、一々悩んでいたって仕方ないですよ」
カイが静かに作業をしていると、リクトがポツリと呟いた。
話の流れ的に、ヴィル・フォリティスの事だろうと、カイは思う。
「あなたがどれだけ落ち込もうが、ヴィル・フォリティスの構成員である事は変わらない。加害者側が同情したって被害者がより一層みじめな思いをするだけだ」
「…………」
カイは黙る。返す言葉も見つからないからだ。
「私はヴィル・フォリティスのせいで北方警備隊に来た事を今だって欠片も許していない。そんな恨みに恨んでいる組織のあなたを今でも受け入れてるのは、あなたの心にある確かな信念を感じたからだ」
カイはゆっくりと顔を上げる。前にいるリクトはしかめっ面を浮かべているが、どこか恥ずかしそうでもある。
「俯いたって、あなたは信念を曲げるつもりはないのでしょう? だったらその態度そのものが、被害者への侮辱だ。それだけは心に留めておいてください」
「……分かった。ありがとう、リクト」
カイがいつもの顔に戻った事を確認したリクトは少し目を逸らしてくいっとメガネを上げる。
「……少し話し過ぎました。作業に戻りましょう」
「うん、そうだね」
カイとリクトは再び書類に対面し、それぞれの作業へと戻った。
(……リクトの信念って、何なんだろう?」
カイは目の前にいる、冷たそうに見えて、確かに暖かい仲間を見つめながら思った。
――――――
それが数日前のことだ。
今カイとアルドは列車に揺られ、中央都市『チェントルム』を目指していた。
カイとアルドの座席は中央政府の手配という事もあり、中々にいい席だ。
アルドは物珍しそうに窓に顔を貼り付けて移り変わる外の景色を眺めている。
「おお!わざわざ金属の塊に乗って都市に向かうなんて時間の無駄とは思っていたが、案外いいなぁ!」
「はは……確か、ヴィアンティカ王国の方では街と街に転移魔法陣が設置されてるんだっけ?」
アルドが窓からバッとカイの方向へと向き直る。
「ああ!街と街をひとっ飛びだぜ!何で中央カンフリードにはないのか分からねぇ!」
カイはテーブルに道具を広げて魔銃の整備をしながら自分の記憶を捻り出すように唸る。
「……確か中央カンフリードのインフラを整えたのは、リベルディア連邦だったからだと思うよ」
「へぇ、そいつぁ凄い。北に行く時にもこれに乗って思ったが、東の連中も中々いいものを造るな!」
リベルディア人は、魔法も、魔法絶対主義を掲げるヴィアンティカ人も嫌う。
それはヴィアンティカ人も同じ事。魔力のないリベルディア人を見下し、神に選ばれなかったと嗤う。
そんな魔力を持たない『無術者』が作る物を、ヴィアンティカ人は受け入れる筈も無い。
そんな事が当たり前な世の中で、アルドはカイには少し違って見えた。だから気になって、気づいたらカイの口は勝手に動いていた。
「アルドはどうして、混血やリベルディア人、ノルザー族に、人種なんて関係なく接するの?しかも貴族なのに」
そのカイの言葉に、アルドは珍しく真剣な顔をして、ドカッと座席に座り直す。
「俺はそうやって区別する事が嫌いなんだ。貴族だろうが、人種が違っていようが関係ねぇ。俺は誰であろうと対等に接するし、喧嘩するし、容赦なくぶっ飛ばす……って親父が言ってた」
カイは手に持っていた部品を落としそうになる。
「アルドの言葉じゃないのかよ……」
「ああ、だけど俺の気持ちも親父と変わらねぇ。そいつがいいと思ったなら仲良くするし、嫌いならボコボコにする。……それだけだ!」
最後にアルドは「言ってやったぜ!」とでも言いたげにいつもの笑みを浮かべる。
「単純だね……アルドも、アルドのお父さんも……」
カイは自分が色々と悩んでるのが馬鹿らしくなるくらい単純な好き嫌いで人を見るアルドに呆れたように笑う。
「俺の最強な親父だからな!どんな相手だって一瞬でドカーンだ!」
アルドは片手を前に突き出して、笑う。
「僕もそんな風に考えれたらいいんだけど、無理かな。絶対に」
カイはアルドに笑みを浮かべるが、先ほどの笑みとは違い、カイのオッドアイの瞳の底には深い闇があった。
「僕も小さい頃は、ヴィアンティカ人も、リベルディア人も関係ないなんて思ってた。……でも、違った。混血であるだけで拒絶された、あの時の感覚は今でも僕の頭を離れない」
「……だから、こんな世界を変えたいと思った」
カイは静かに目を閉じる。何かを思い出すかのように。
「……カイ」
カイのいつもと違う様子にアルドは戸惑う。4人で笑い合ってる時とは違う、リクトと言い争いをしていたあの時のような様子に。感じた曲げられない確かな意志に。
「……ごめん、変な話しちゃったね」
カイは目を開けてアルドに向き直り、申し訳なさそうにする。
その表情にアルドは真剣な表情に戻し、絶対にしてはいけない事をカイに言う。
「……カイ、俺はお前の世界を変えるってのがどんな事なのかは分からない。だが、生半可な道ではない事は分かる」
アルドは静かに溜息を吐き、カイに目を向ける。
「だから忠告しておく。世の中には関わっちゃいけねぇ野郎がいる」
カイはその言葉に顔を引き締める。
「ソルミナス教の連中には絶対に関わるな」
『無術者』
読んで字の如く、魔力を持たない者。一般的には、ヴィアンティカ人で魔法を持たない者を指すが、そもそも魔力を持たないリベルディア人にも該当する。
500PVありがとうございます!
9月ほとんど投稿出来てないのは申し訳ないですが、少しでも早く投稿できるように頑張ります。




