狩り班の小さな対立
「お前などいらん!」
「は!?ふざけるな!」
――開口一番、それだった。
夕焼けの中で繰り広げられる、壮絶な大ゲンカ。俺は、ろ過班から戻ってきてすぐに目撃したのだった。
「やべぇ、狩り班、完全に内部分裂してる……」
ケニアのマサイ戦士っぽいムワリムと、アメリカの筋肉ゴリラ・ケビンが、睨み合ってる。
いや、お前ら……どっちも明らかに戦闘民族じゃん。争ったら周囲の人間が死ぬパターンだよそれ。
「言っておくが!私は狩りに関しては誰にも負けん!あんたみたいに“ぶっぱなす”だけのやり方は非効率だ!」
「は?あんたの槍投げて外した数、何本だった?俺はちゃんと仕留めてるぜ。しかも――誰もケガさせてない!」
「結果だけで語るなァ!!」
「どっちも正論っぽいのに、口が悪すぎて台無しだなぁ……」
と呟くのは、涌井翔悟。彼は隅っこで草むしりしてる(現実逃避か?)。
そのとき、エマ・ジラールが俺の肩を叩いた。
「アマノ、あんたなら止められるでしょ?バカっぽいけど、仲裁向きな空気あるよ」
……褒めてるのかけなしてるのか分からん。
とはいえ、このまま喧嘩が続けば、せっかく作った火も水も、全部無駄になる。
俺は深呼吸して、ケビンとムワリムの間に割って入った。
「はいはいはいはい、2人とも一回落ち着こうか。てか、どっちもすごい! もうそれでいいじゃん?」
「こいつはなんもすごくないわ!」
「こいつは全然すごくないわ!」
(ここだけ意気投合しやがって……!)
「……はい、犬か猿か知んないけど、今から“チーム狩り”に変更します!」
「チーム……狩り?」
とケビン。
俺は地面に落ちている小石を拾った。
「今からじゃんけんみたいな方法で、2人をキャプテンにしてチーム分けします。そして今日最後の狩りは、**“どっちのチームがより多くの食料を持ち帰るか勝負”**です!」
「勝負なら……乗ろう」
ケビンが腕を組む。
「よかろう。私のチームが負けるはずがない」
ムワリムもまんざらじゃなさそうだ。
こうして、8対8の国籍シャッフルのチーム戦・“狩りバトル”が始まった。
※ちなみに俺と涌井っちは審判役。つまり狩りはしない。やったぜ(本音)。
最終的に、ケビンチームがウサギ3匹、ムワリムチームが巨大な鳥っぽいやつ1羽を持ち帰った。
……勝敗?
「もうどっちもすげぇ」ってことで暫定引き分けにした。
火の周りで肉が焼ける匂いが立ちのぼるころ、みんなの顔から険しさが抜けていた。
「……仲良くは、ない。だが、狩りは悪くなかった」
「ま、チーム組んだら意外と動きやすかったよな」
お互いぶっきらぼうに言いながらも、肩を並べて焼き肉食ってる2人。
うん、俺の仲裁、ナイスだったかもしれん。
こうして――18人の共同生活、ほんの少しだけ軌道に乗り始めた。
……ただし。
「やばい……明日はトイレ班とかできそうだな……」
現実って、ほんと、ファンタジーじゃねぇなあ。