(1)「宣戦布告の打ち返し 〜東西の産業発展と軍拡〜」
拝啓
春暖の候、読者の皆様におかれましては益々のお楽しみのこととお喜び申し上げます。
此度は初執筆作品を開いて頂き、厚く御礼申し上げます。
さて、弊者ではこのたび納期を目的として、なろうにて小説を書き始める運びとなりました。
つきましては、ご多忙中のことと存じますが、ぜひともご一読いただけますと幸いです。
敬具
(訳:やあ)
(中略)
奉歴1341年5月20日 12:17:13
突然消え去った音と視界。先ほどまでの乱闘が、嘘のように静かに感じた。
閃光手榴弾を食らってしまった自分は同時にめまいを感じてその場に倒れこんでしまう。よりにもよってあと一歩のところで、である。
キーンと甲高い音とともに聴覚を取り戻し、ぎゅっと閉じていた目をゆっくりと開けた。
「おい!こんなとこで倒れてるんじゃねぇ!」
「ああ……ありがとう」
そう声をかけてくれた誰かしらの手を取りしっかりと立つ。そうして真っ先に目に飛び込んで来たのは、刑務所の城壁に仁王立ちしている魔王の姿であった。
魔王——つまるところ、この大牢獄における最上階級の刑務官である奴は、明らかにほかの看守とは一線を画すオーラ……魔力を放っていた。
「おい……あれ」
「あっ、魔王ですよぉ!ほらその聖剣でちゃちゃっとヤっちゃってくださぁい!」
「あのな……ありゃどう見ても強いだろ……」
確かに彼女が保管庫から自分の聖剣を取り戻してくれたとはいえ、果たしてそれが本物で、魔王に効くかなんてわかるものではない。何しろ魔族という存在は考古学の本以外で初めて目にしたのだから。
「そこまでだ囚人ども!今すぐ降伏したまえ!」
剣を構えたそのとき、城壁に立つ人影は刑務所内に響き渡るほどの大声を放った。
この声はあまりにも効果的だった。とたんに動きも騒ぎも一瞬止まり、そして再びざわめきが始まる。
「魔王だ……」「本当にいるなんて」「こんなの勝ち目がない!」
囚人らのざわめきは止まらなかった。その多くは魔王の存在に絶望し、反逆の精神を失っている。それに加え、反逆者は死刑執行が確定されるとくれば、もはや動き出すものは一人もいなかった。
「諸君の脱獄はあまりに計画的であり、許されざる行為である!我々はこれより主犯格を探し出し、見せしめの処刑を行う計画を立てている。ただし!ここで名乗り出れば、刑罰は軽くするものとしよう!」
皆が静まり返る。城壁の上には知らぬ間に、魔王の側近と思われる魔族も数名が立ち並んでいた。
さてここで、主犯格とは誰だろうか。——当然ながらこの流れ、計画を立てたのは我々窃盗団である。もちろん自分はここで名乗り出るほど、勇気のある人間でもなかった。だが。
「はいッ!!!こいつが主犯格ですぅ!!!!!!!!」
「おっ待てお前——!!」
指をさしてきた人間がここに一人。彼女の名を、メモという。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
奉歴1223年。
勢力を広げつつあったアルスベリア帝国は、世界統一に向け双玲海峡を越えた先の、国家規模の小さな島国である双櫻皇国の支配を目論み、交渉を仕掛けた。
しかしあまりにも一方的だった交渉は、双櫻皇国にとって屈辱的な条文が多く並べられていた。そんな皇国は国民からの不満を蓄積し、結果としてトキナ皇女自らが、アルスベリア帝国を中心とする連合国家に侵攻を開始することを世界に発表する。ある意味”逆”宣戦布告を受けた帝国側は、あろうことか双櫻皇国の侵攻を止められず、エリトワ大陸の中心部まで侵略されることになってしまった。
アルスベリア帝国に属していた一部の北側諸国は何とか侵攻されなかったものの、国内における双櫻派の内乱が勃発、2年後の1225年にすべての帝国所属国家は壊滅した。
当時のサルタ市民が利用していた電子機器にこのようなメールが残されている。
—市民がある権力者に送信したとされる手紙—
今やサルタ国内は、帝国軍も双櫻軍も一般市民の逃げ惑う中で弾幕を張っている。私の家の前でも砲弾の音が鳴りやまない。
私の国の双櫻軍はごく少数だと思っていたが、ここ数日で明らかなことに帝国側が押されている。これは数の差ではなく、技術格差が原因としか思えない。
我々はまだ大砲が主流なのに対して、向こうは一人一人が小さな大砲を持っているのだ。流れ弾も激しく、同じマンションに住んでいたお隣は既に死んでしまった。私だっていつ死ぬか分からない。
頼む。国民を助けてくれ。
皇国の技術は凄まじい進化を遂げていた。1200年前後にはすでに小型砲台の開発に成功し、一人一丁の武器を持てるようになっていた。
勿論攻撃の開発だけでなく、防御も抜かりなかった。
皇国の城、拡叉閣には、現代建築の礎として名高いサファルダ材が使われることになった。これは帝国の持つ砲台一撃では、傷もつかないほど頑丈な素材だったといわれる。
対して帝国側は、皇国と比べて大幅に古めかしいものだった。主力武器は槍、一分隊に一つ大型砲台が渡されているだけだった。いくら皇国側が少数だったとはいえ、技術の前には無力だったのである。
では何故、皇国はそこまで高い技術力を備えていたのだろうか。
皇国は戦争前から技術革新が国家のスローガンとして掲げられていた。そのスローガンは「蒲公英」。
「た」「泰然自若」、「ん」「官尊民卑」、「ぽ」「百歩穿楊」と「古今独歩」の4字を指す。
それぞれは4つの目標として、皇国内で実際に謳われたものである。
ここで最も異彩を放つスローガンが「官尊民卑」であると、我々は考えた。”政府などといった官とされるものを尊いとし、逆に民間を卑しいとする”——官尊民卑は、元々良い意味ではないはずである。
この言葉は「皇国のために」という意味合いで使われていた、と、当時を生きた彼は語る。
「官とは当然ですが、国のためになる職業に就く者を指します。 当時、官職に就くと就かないではとてつもない格差が発生していました。官職に就いたものは高給料且つ保証も高く、余生も苦労しないような保証が受けられました。この政策に「官尊民卑」というスローガンが掲げられた国内では、官職に就かなかった者は民間から迫害を受けたり、そこから給料の低下や退職を強いられる事態にまで発展してしまったりするような状況でした。こうした意識を意図的に作り出し、国軍の勢力拡大を狙っていた政府としては重要なスローガンの1つだったといえるでしょう。」
帝皇海峡戦線は結果として皇国の圧勝を誇り、1340年現代に至っては世界の半分の土地が双櫻の支配下といっても過言ではない。いまやあの頃の技術格差は両国にはないとはいえ、この戦いによって世界の歴史が、産業が、大きく揺れ動かされたのは、間違いないだろう―———。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
戦線から118年後……1341年 4月31日。エムルス湾 宿屋にて。
月の光が差し込むある一室、静まり返った部屋の一角のテレビが歴史番組を淡々と放映している。
そこで横になる男に、近づく人影が一つ……
―—ブォンッ!!
「どわあぁっ?!」
「ッチッ……」
風切り音が聞こえて、自分の体が脊髄反射でベッドから転げ落ちる。なんだ?突然の敵襲?恨まれることなんてした覚え―—がないわけではないが、少なくとも鍵は掛けていたはず。すぐさまベッド横に置いていた自分の剣を手に……って、ない?!
「っ――?!」
「 怯えないでくださぁ~い!なにも脅してるわけじゃなくてぇ…ただお金が欲しいだけなんですぅ!」
「…………それは脅しでは……?」
―—続―—