007 壁穴
塔の中心を貫くように、巨大な螺旋階段があった。
螺旋階段を上り始めると、ガルドール帝国兵が襲いかかってくる。
「邪魔だ」
俺は剣を抜き、戦闘の兵士の首をはねた。
つづく兵士たちも、剣閃の前に次々と血飛沫を上げて倒れていく。
心眼で敵の動きを読み。
神速で間合いを詰め。
剛力で剣を振るう。
何階か上がったところで、階段から降りてくる兵と、いま到着した階にいた兵たちに挟み撃ちにされる。
「ユアン殿、ここは私が!」
リリアが剣を構え、前に出ようとする。
「いや、お前は皆を守っていろ。俺一人で十分だ」
俺は、さらに加速した。
狭い螺旋階段は、多人数を相手にするには不利な地形だが……。
俺には関係がない。
次々と現れる敵兵を、刈り取るかのように斬り捨てていく。
化け物……という声が聞こえた。
知らぬ。
俺は、すべてを切って捨てた。
どれだけの返り血を浴びたかはわからない。
それでも、俺は一切のかすり傷さえ負わなかった。
振り返ると、皆が俺を見ていた。
俺を見て、怯えているようだった。
「……ごめんなさい」
タレアが言った。
「あなたには感謝しています」
「怖がられるのには慣れている。気にするな」
俺は……強すぎるのだ。
もはや、敵兵の姿はない。
螺旋階段を上りきると、広い空間に出た。
そこにはたくさんの墓があった。
中央には祭壇。
祭壇の前に黒衣の女が立っていた。
顔はフードで深く覆われている。
その姿は、まるで死神のようだ。
「……誰だ」
俺は女に問いかけた。
女はゆっくりと顔を上げた。
フードの下から覗く顔は、青白く、目は虚ろだ。
「……」
ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
言葉としては認識できない。
女から黒い靄のようなものが立ち上る。
その瞬間、地面が揺れ始めた。
墓石が、ガタガタと音を立てて揺れる。
そして墓石の下から、無数の手が伸びてきた。
「みんな、下がっていろ」
リリアを先頭に皆を下がらせる。
土の中から、白骨化した死者たちが、次々と這い出してくる。
死者たちは、腐りかけた肉を纏っている。
虚ろな目で俺たちを見つめていた。
その数は、数十体はいるだろうか。
「……悪趣味だな」
俺は、吐き捨てるようにつぶやいた。
「ユアン様、あれは……死霊魔術です」
クララが、震える声で言った。
「死霊魔術だと……?」
「はい。死者の魂を操り、現世に蘇らせる禁断の魔術です。……まさか、こんな場所で使われているなんて」
クララの言葉に、俺は眉をひそめた。
「厄介だな」
死者たちは、ゆっくりと、しかし確実に俺たちへ近づいてくる。
黒衣の女を守るような陣形を取るものもいた。
何はともあれ、わかりやすい。
倒せば良いだけの話だ。
俺は剣を構え、死者たちの群れに突っ込んでいった。
心眼で、死者たちの動きを見切る。
神速で、間合いを詰める。
剛力で、剣を振るう。
俺の剣は死者たちの骨を砕き、肉を断ち、次々と薙ぎ倒していく。
しかし、死者たちは、何度倒しても、再び立ち上がってくる。
「……きりがないな」
死者たちは物理的な攻撃では完全に倒すことができないようだ。
幾度、骨を砕き、肉を断ち切ったとしても……。
黒衣の女から発せられる黒い靄のような魔力によって、すぐに再生してしまう。
「ユアン様、このままでは……!」
リリアが、心配そうな声を上げる。
負けはしないが、勝つことも難しい。
あの女の魔力と俺の体力との消耗戦か……。
いや。
周囲を見渡すと、壁は、それほど厚くないことに気づいた。
長年の風雨にさらされ、脆くなっていそうな箇所もあった。
「安心しろ。いま策が浮かんだ」
俺は、そう呟くと剣を鞘に納めた。
そして、心眼を発動し、壁の最も脆い部分を見極める。
俺は、全身の力を足に集中させ、地面を蹴った。
一瞬で壁に到達し、渾身の力で、拳を壁に叩き込む。
単純な暴力。攻撃。
轟音とともに、壁に巨大な穴が開いた。
「……よし」
俺を追って、死者たちが襲いかかってくる。
その攻撃を交わし、あるいは受け流し……。
俺は、壁の穴から外へと死者を落としていった。
途中から、ゴミ捨ての作業をしているような気分になった。
やがて、死者の数は減っていき……。
ついに、黒衣の女の周囲を固める死者だけになった。
俺が女のほうへ歩いていくと、死者たちが向かってきた。
そいつらも同様に、壁の穴から放り投げた。
黒衣を着た女は、うつろな瞳でつぶやきつづけている。
その体は小刻みに震え、虚ろな瞳は焦点が合っていない。
「ユアン殿……! 見事です!」
リリアが駆け寄ってきて、感嘆の声を上げた。
「穴を開けるなんて、思いもつきませんでした」
タレアが壁の穴を見ながら言った。
俺は息を吐き、黒衣の女へと近づいていった。
女は抵抗をしない。
俺は、女の首をつかんだ。
「……大人しくしていろ」
女は動きを止めた。
「あなたは」
タレアが驚いたような声を出した。
「知っているのか?」
俺は、つかんだ女の顔をタレアに見せた。
「……ガルドール帝国、第三王女のライジアです」
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