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004 作戦会議

 邸宅へ戻り、今後の動向を決めることにした。


 全員でテーブルについた。

 俺の隣にクララ、対面に姫、その隣にリリアという並びだ。


「まずは現在の戦況について説明してもらえるか」


 俺の言葉にリリアがうなずいた。


「ガルドール帝国は、現在、エルデ王国の領土の約八割を制圧下に置いています。王都は包囲され、陥落寸前。各地の領主たちは、降伏するか、抵抗を諦めて領地を放棄するか、どちらかの選択を迫られています」


 リリアはテーブルの上に広げた地図を指差した。

 地図上では、エルデ王国の領土のほとんどがガルドール帝国の色で塗りつぶされている。


「騎士団は、ほぼ壊滅状態。残存兵力は各地でゲリラ戦を続けていますが、戦況を覆すには至っていません」


 俺は黙ってリリアの話を聞いていた。

 予想はしていたが、状況は最悪だ。


「しかし、どうしてそこまで追い込まれた? エルデ王国の騎士団は、それなりに練度も高かったはずだ」


 俺の問いに、リリアは苦渋の表情を浮かべた。


「ガルドール帝国軍の兵士たちが、何らかの力で強化されているのです」


「強化だと……?」


「はい。彼らは、常人を遥かに超える攻撃力と、耐久力を持っています。少々、傷つこうとも進軍してくる。まるで、物語に出てくる魔物のようなのです」


 リリアの言葉に、俺は眉をひそめた。


「兵士たちに魔術がかけられているのか……」


「確証はありません。ですが、それ以外に説明がつきません」


「……厄介だな」


 戦線が拡大しすぎている。

 俺ひとりの力では、敵軍全員をまとめて相手することはできない。

 ひとり、強い武将がいるのであれば、そいつを倒せば士気が下がる。

 しかし、魔導の力で兵全体が強化されているとなると……。


「リリア、ガルドール帝国軍の指揮官は誰だ? そいつを討てば、戦況は変わるか?」


 俺の問いに、リリアは首を横に振った。


「今回の侵攻では、特定の指揮官の名前が上がってこないのです。複数の将軍が、それぞれ部隊を率いて、各地で同時多発的に侵攻しているような……」


「つまり、敵の司令塔がどこにあるのか、分からないってことか……」


 これでは、一点突破で敵将を討ち取るという、俺の得意な戦術が使えない。


「何か、他に情報はないか? 些細なことでも良い」


 俺はリリアに尋ねた。


 リリアは、少し考え込んだ後、口を開いた。


「……ひとつ、気になることがあります」


「何だ?」


「ガルドール帝国軍の兵士たちは、確かに強化されていますが、その力にはムラがあるようなのです。ある部隊は異常なほど強いのに、別の部隊はそうでもない……ということが、何度か報告されています。もしかしたら、兵士たちを強化している魔導の力には、何らかの制限があるのかもしれません」


 なるほどな……。


「リリア、今までに、どの地で、どのような戦力が報告されたか、詳しく教えてくれ。できるだけ具体的に、数値や部隊の特徴も交えて」


 リリアは頷き、記憶を辿りながら話し始めた。


「まず、最初に大規模な戦闘があったのは、北方の『グレイロック平原』です。ここでは、我が国の騎士団二個師団が、ガルドール帝国軍の先遣隊と衝突しました。敵の数は、およそ五千。しかし、その全てが異常な膂力と耐久力を持っており、我が軍は為す術もなく壊滅しました……」


 俺は黙って話をきいていた。


「次に、グレイロック平原の西、『風鳴りの丘』付近で、小規模な戦闘が何度かありました。敵の数は少ないものの、やはり兵士たちの能力は高く、村の自警団は全滅しました」


 なるほどな…….


「グレイロック平原か。ガルドール帝国の王都からは、少し離れている場所だな」


 俺がそう呟くと、リリアは頷いた。


「はい。しかし、グレイロック平原は交通の要衝です。以前から、我が国とガルドール帝国軍は、グレイロック平原を抑えるために幾度も衝突をつづけてきました。ここを抑えられれば、王都への進軍ルートを複数確保できるため、戦略的に重要な地点です。ガルドール帝国軍も、そこを重視しているのでしょう」


「他の地域では、どうなっている?」


「はい。グレイロック平原以外でも、ガルドール帝国軍の強化兵士は確認されています。しかし……」


 リリアは、そこで言葉を区切った。


「グレイロック平原付近で確認された兵士たちに比べると、明らかに能力が劣るのです。例えば、南方の港町ポートサイドでは、敵兵の防御力が高いという報告がありましたが、グレイロック平原の兵士たちほどの圧倒的な力は感じられなかった、と……」


「……なるほどな」


 その時、今まで黙って話を聞いていたクララが、静かに口を開いた。


「ユアン様、ひとつよろしいでしょうか?」


「クララ?」


 俺は、驚いてクララを見た。

 クララは無口で控えめな性格だ。

 自分から意見を言うことなど、ほとんどない。


「……なんだ?」


 俺はクララに促した。


「グレイロック平原の北東に黒曜の塔という古い塔があります。そこは、かつて禁断の魔術の研究が行われていた場所です」


「禁断の魔術……?」


「はい。言い伝えによれば、黒曜の塔では、人の寿命を削り、それを魔力に転換する研究が行われていたそうです。その研究は、あまりにも非人道的であるとして、途中で中止され、塔は封印されたと聞いています」


 俺は黙ってクララの話を聞いていた。


「もしかしたら、ガルドール帝国軍は、その黒曜の塔の魔術を利用して兵士たちを強化しているのではないでしょうか?」


 クララの言葉に、リリアと姫は驚きの表情を浮かべた。


「クララ、その話はどこで聞いた?」


 俺が尋ねると、クララは少し恥ずかしそうに答えた。


「私の故郷が、黒曜の塔の近くの村なんです。子供の頃、よく村のご老人たちから聞かされていました」


 なるほど、と俺は頷いた。

 地元に伝わる伝承か。

 信憑性は高いかもしれない。


「黒曜の塔について、何か記録は残っていないか? 王宮の書庫か、どこかに」


 リリアは、記憶を辿るように、少し考え込んだ後、答えた。


「確か……王宮の地下書庫に、古い文献が保管されていたはずです。禁書扱いになっているものも多いですが……調べてみる価値はあるかもしれません」


 さて、どうするか……。


「黒曜の塔へ乗り込むか、あるいは王都へ戻るか。包囲された王都が、いつまで持ちこたえることができるか……。姫、どう考える」


 話を振られたタレアは、黙り、少し考えているようすだった。


「黒曜の塔へ向かいましょう」タレアは宣言した。

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