002 俺がほしいのは、姫様、あんたの体だ
嘆きの荒野で生活をはじめて、二年が過ぎた。
俺とクララは畑を作って鶏を飼い、なんとか自給自足でやっている。
この二年、王都から何度も使者が来た。
隣のガルドール帝国が、また侵攻してきているらしかった。
当然、俺に助けを求めてきたわけだが、全部断った。
一度裏切られた相手に、また協力する義理はなかった。
どうせ、また使い捨てにされるだけだ。
だが、今日は様子が違った。
「ユアン様、お客様です」
クララに言われて玄関へ向かった。
そこにいたのは……。
「……姫様」
長く艷やかな金髪。青色の瞳。
エルデ王国のタレア姫だった。
二年前に会った時より、少し大人っぽくなっている。
「ユアン様、お久しぶりです」
タレア姫は、深々と頭を下げた。
後ろには女騎士が控えている。
「何の用だ。戦争なら、ごめんだ」
俺の言葉に、姫様は悲しそうな顔をしていた。
「分かっています。ですが、今回はどうしても、ユアン様のお力をお借りしたいと考えております」
タレア姫は、一度言葉を切り、辛そうに顔を歪めた。
「ガルドール帝国が……再び侵攻を開始しました。今度は、以前の比ではありません。帝国の総力を挙げた攻撃で、我が国の騎士団は……ほぼ壊滅状態です」
姫の言葉に、俺は眉をひそめた。
「王都も包囲され、陥落寸前。民は虐殺され、女子供は奴隷として連れ去られています……。このままでは、エルデ王国は滅びます」
姫の声は震えていた。
その瞳には、深い悲しみと絶望の色が浮かんでいる。
「……だから、俺に助けを求めに来たってわけか」
「はい……ユアン様だけが頼りなのです」
「断る。俺はもう、英雄ごっこには飽き飽きしたんだ」
タレア姫は何も言えずに俯いた。
「……まあ、どうしてもって言うなら、考えてやらなくもないけどな」
俺は、わざとらしく、もったいぶった言い方をした。
「本当ですか!?」
タレア姫は、顔を上げ、期待に満ちた瞳で俺を見つめた。
「ああ。ただし、条件がある」
「条件……?」
「前払いだ。報酬を先に貰う。それなら、考えてやらなくもない」
俺は、ニヤリと笑った。
「……どのような報酬をご希望でしょうか?」
タレア姫は、真剣な表情で尋ねてきた。
「そうだな」
俺は顎に手を当て、考え込むふりをした。
そして、タレア姫自身を指で示した。
「金なんか要らない。俺がほしいのは、姫様、あんたの体だ」
「……え?」
タレア姫は、一瞬、何のことか分からない、というような顔をした。
だが、すぐに俺の言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にした。
「それも、前払いだ。いま抱かせろ。前みたいに……あんたの親父みたいに、払ってもらえない可能性があるからな」
「貴様! 姫様に対して、何たる無礼を!」
タレア姫の後ろに控えていた女騎士が、激昂して前に出た。
腰に下げた剣に手をかけ、今にも抜かんばかりの勢いだ。
肩まで切りそろえられた栗色の髪、意志の強そうな瞳。
「無礼だと? どっちの台詞だ? あの時だってそうだ。俺を英雄だともてはやしておきながら、いざ戦争が終わったら、手のひらを返しやがった。約束の褒美は反故にされ、こんな荒野に追いやられて……」
俺は、吐き捨てるように言った。
女騎士は、さらに激昂する。
「黙れ! 貴様が国家転覆を企んでいたんだろう!」
「やめなさい、リリア」
タレア姫が、静かな、しかし凛とした声で制止した。
「ですが、姫様……!」
「下がりなさい。私たちはお願いをしに参っているのです。ユアン様が国家転覆を企んでいるなど、根も葉もない噂です」
リリアと呼ばれた女騎士は、渋々といった様子で剣を収めた。
だが、俺に対する敵意は消えていない。
「……ユアン様」
タレア姫は、俺を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、怒りも、軽蔑も、そして恐怖もなかった。
ただ、静かな決意が宿っている。
「私の体で良ければ、捧げます。ですから、どうか国を救ってください」
タレア姫の言葉に、俺は耳を疑った。
「……本気か?」
俺は思わず聞き返した。
タレア姫は、深く頷いた。
「はい。この身を捧げることで、ユアン様が再び剣を取り、この国を救ってくださるのなら……喜んで」
タレア姫の瞳は、真っ直ぐに俺を見据えている。
嘘偽りのない、純粋な決意がそこにはあった。
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