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国を救った最強の英雄なのに荒野に追放された。二年後、戦争に参戦しろと言われたので、報酬として姫の体を所望した。  作者: 河東むく
第一章

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010 追加の報酬

 ギルフォードは血まみれの玉座に深く腰をおろしていた。

 その顔には狂気じみた笑みが浮かんでいる。

 全身から禍々しいオーラを放っていた。


「ギルフォード……なぜ、こんなことを……」


 タレアの目元からは涙がこぼれていた。

 しかし、その瞳にあるのは、悲しみではなく怒りだった。


「タレア姫……いや、もう姫ではないか。あなたには失望した」


 ギルフォードは嘲笑を浮かべながらタレア姫を見下ろした。


「私との婚約を破棄し、あろうことか、あんな男に……」


 ギルフォードは、俺を蔑むような目で見た。


「問おう」俺はギルフォードに言った。「お前の目的はなんだ?」


 俺は言葉をつづけた。


「こんなことをして、なんになる? ガルドール帝国と内通し、エルデ王国を壊滅寸前にまで追いやり……。民のいない国の王になって、なんの意味がある? なぜ、国王を殺した?」


「ユアン、貴様にはわからないだろう。弱き者の気持ちが。持たざる者の気持ちが!」


 俺は、ギルフォードが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。


「何を言っているんだ。俺は、爵位も、領地も得られなかった。何も……」


「貴様を追放したとき、私は勝ったと思った。これで、タレア姫を手に入れることができると。私が、次期王になれると……。だが、違った」


 ギルフォードは俺をにらみつけた。


「皆、貴様の力に惹かれていた。兵士も、貴族も……。屈辱だった。私には力が足りなかった」


「だからなんだ。それがどうした」


「貴様に勝ちたいと思った……思ってしまったんだ!」


 ギルフォードが、叫んだ。


 黒い靄がギルフォードの体を包み込む。


 ギルフォードの姿が、徐々に変化していく。


 体は巨大化し、筋肉は隆起し、目は赤く光り輝く。


 まるで、悪魔のような姿だ。


「……これが、私の力だ!」


 ギルフォードが、咆哮した。


 俺は心眼を発動し、ギルフォードの動きを見極めた。


 ギルフォードは巨大な拳を振りかぶり、俺に殴りかかってきた。


 神速で攻撃をかわし、ギルフォードの懐に飛び込んだ。


 そして、剛力を込めた剣を、ギルフォードの腹に突き刺した。


「……ぐっ……!」


 ギルフォードが苦悶の声を上げた。


 しかし、傷はすぐに塞がってしまう。


「……無駄だ、ユアン。私の体は、この場にある屍、全ての魂を取り込み、強化されている」


 ギルフォードは、嘲笑した。


「この部屋にいる、王、重臣、兵士……。皆、私の力となったのだ」


「外道だな」


 思わず、自分の言葉に笑いが漏れた。

 外道は、どっちだかわからない。

 俺だって外道だ。


 俺は剣を構え直した。


「……ならば、何度でも斬り刻んでやる」


 俺はギルフォードに斬りかかった。


 剣と拳が、激しくぶつかり合う。


 火花が散り、衝撃波が部屋中に吹き荒れる。


 俺は、何度も、何度も、ギルフォードを斬りつけた。


 しかし、ギルフォードは、倒れない。


 傷はすぐに塞がり、何度斬りつけても、立ち上がってくる。


「無駄だと言っているだろう、ユアン!」


 ギルフォードが、嘲笑しながら言った。


「貴様では、私には勝てない!」


 ギルフォードの拳の一撃で、俺の持っていた剣が弾け飛ぶ。


 俺は自分の手を見た。

 そして、思わず笑ってしまった。


「どうした? 死を目前に、現実が見えなくなったか」


「いや……。やっと、戦いの勘が戻ったんだ」


 二年に渡る穏やかな生活で、俺の強さは、すっかりなまっていたのだ。

 あまりにも自分が最強すぎるので、そのことに気づくのが遅れてしまった。

 だから笑ったのだ。


 ギルフォードと戦って、ようやく体が目を覚ましつつあった。


「悪いが、ここから先は一方的な戦いになる」


 俺はそう宣言した。

 弾け飛んだ剣を拾うこともせず、ギルフォードに向き直った。


 拳を軽く握り、構えを取る。


「……剣を捨てた? 正気か?」


 ギルフォードは嘲笑を浮かべた。


 俺は言葉を返す。


「この拳で十分だ」


 ギルフォードは咆哮し、再び巨大な拳を振りかぶってきた。


 しかし、今の俺には、その動きは遅すぎる。


 心眼で全てを見切り、神速でその拳を躱す。


 がら空きになったギルフォードの脇腹に、剛力を込めた拳を叩き込んだ。


「ぐ……!」


 ギルフォードの巨体が揺らぐ。


「効いているようだな」


 俺は、間髪入れずに追撃を加える。

 右の拳を、ギルフォードの顔面に叩き込む。


 ギルフォードの顔が歪み、鼻血が噴き出す。

 しかし、傷はすぐに塞がっていく。


「しぶといな」


 俺は、さらに攻撃を続けた。

 左の拳を、ギルフォードの腹に叩き込む。


 ギルフォードの体が大きく後退する。

 しかし、それでも倒れない。


「無駄だ……! 何度攻撃しても、私は死なない……!」


 ギルフォードは、息を切らしながら、叫んだ。


「そうかな?」


 俺は、冷たく笑った。


「お前の体は、確かに再生している。だが、その速度は確実に遅くなっている。そして、お前の魔力も……確実に減っている」


 俺の言葉に、ギルフォードの顔に焦りの色が浮かんだ。


「黙れ……! 黙れ……!」


 ギルフォードは、再び拳を振りかぶってきた。

 しかし、その動きは、最初と比べて明らかに遅く、弱々しい。


 俺は、その拳を簡単にかわし、ギルフォードの顔面に、渾身の右ストレートを叩き込んだ。


 ギルフォードの体が大きく吹き飛ぶ。

 そして、壁に激突し、床に崩れ落ちた。


「終わりだ、ギルフォード」


 俺は、全身の力を乗せた、最後の一撃を放った。

 その拳で、ギルフォードを打ち砕いた。


 静寂が場を支配する。


 背後を振り返ると、リリアとタレアの姿があった。


「……ユアン様。ありがとうございます」


「すまなかった」


 俺の謝罪に、タレア姫は不思議そうな顔をしていた。


「なぜ謝るのですか? あなたは、この国を救った英雄です」


「王を守ることができなかった。それに……」


 俺が本当に謝りたかったことは……。


「あんたの弱みにつけ込んで、無理やり抱いた。すまなかった」


 タレアの表情が、緩んだ。


「良いんですよ。そんなこと。ユアン様は、私たちを……この国を救ってくださいました。本当に感謝しています。ありがとうございます」


 戦いは終わった。

 体は、未だに戦いの熱を帯びていた。

 震える手。恐怖からではない。

 俺の体は、さらなる戦いを。

 そして、さらなる血を求めていた。

 自分が恐ろしい。

 このまま、意思を失い、戦いつづけてしまうような、そんな気がしてならなかった。


「……すでに前払いでいただいたが、追加の報酬をもらっても良いか」


「ええ、なんなりと」


「……俺のことを、抱きしめてくれないか」


「え?」


「……いや、やっぱり良い。忘れてくれ。いまのは、気の迷いだ」


 タレアは、しばらく黙っていた。

 しかし、ゆっくりと歩いてきて、俺のことを抱きしめた。


 タレア姫の体は、温かく、そして柔らかかった。


「頑張りましたね。本当に」


 戦うことしかできない俺だが……。

 少しだけ救われたような、そんな気がした。

日間ランキング入り目指してます!


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