表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

001 プロローグ

 俺は王宮の広間に足を踏み入れた。

 玉座に腰掛けた国王と、その周りを固める重臣たちの姿がある。


「前へ」


 衛兵の声が響いた。


 俺はゆっくりと国王の前へと進み出た。

 深く頭を下げ、王の言葉を待つ。


「ユアン・ヴァイス」


 国王が厳かな声で俺の名を呼んだ。


「此度の戦における貴殿の働き、見事であった。その功績を称え、褒美を授ける」


 俺は顔を上げ、国王を見つめた。

 俺は隣国、ガルドールの敵将を打ち破ったのだ。

 事前に約束されていた褒美は、爵位と、相応の領地、さらに一生遊んで暮らせるだけの富だった。


 だが、国王の口から告げられた言葉は、俺の期待を完全に打ち砕くものだった。


「褒美として、貴殿には【嘆きの荒野】を与える。小さいが家屋も用意した。宮廷のメイドを一名つける。そこで余生を過ごすがよい」


 国王の言葉が理解できなかった。

 嘆きの荒野。王都から遠く離れた、見渡す限り岩と枯れ草ばかりの不毛の地。

 人が住むには適さない場所だ。


 それはつまり、事実上、国外への追放を意味していた。


「陛下、それは、どういうことでございますか? 約束と違うではありませんか」


 国王は俺を冷たい目で見下ろしている。


「約束? 何のことだ? 貴殿には、十分に褒美を与えたではないか。身の程をわきまえよ」


「身の程をわきまえよ、だと?」


 俺は怒りを通り越して呆れ果てていた。こいつは、一体何を言っているんだ?


「陛下! 俺は、この国をガルドール帝国の侵略から救ったんだ! 敵将を討ち取り、奴らの軍勢の八割を壊滅させたではありませんか!」


 俺の声は広間に響き渡った。


 国王の周りにいる重臣たちが顔を見合わせている。

 中には、あからさまに嘲笑を浮かべている奴もいた。

 特に、宰相のギルフォードの目は軽蔑と嘲笑に満ちていた。


「下がれ。これ以上、無礼を働くようなら……」


 国王は、それ以上何も言わなかった。

 だが、その目は明らかに俺を脅していた。


 怒り?

 いや、もっと深い、絶望にも似た感情が、腹の底から込み上げてくる。


 俺は、言葉を失い、ただ国王を睨みつけることしかできなかった。


「下がれ」


 俺は、わざとらしく深く息を吐く。

 無言で退くことにした。


 この俺への仕打ち。

 いつか、絶対に後悔させてやる。


 王宮の広間を出ると、メイド服を着た女性が頭を下げた。


「クララと申します。国王陛下の命により、ユアン様のお世話を仰せつかりました」


「……嘆きの荒野だぞ。良いのか?」


「はい。覚悟はできております」


 その目には強い意志が感じられた。


 それから私とクララは馬車に乗り、嘆きの荒野へと向かった。


「ユアン様は、国王を目指しておられたのですか?」


「なにをバカなことを」


「家臣たちが、そう言っていました」


「国王の腰巾着どもが、何をほざいているのやら。俺が王位など欲しがるものか」


 確かに、俺はガルドール帝国との戦いで英雄と称えられた。

 民衆の中には、俺を王に推す声もあったかもしれない。

 だが、それは俺の本意ではない。


「では、なぜ国王陛下は、ユアン様を追放されたのでしょう? 戦の英雄を冷遇すれば、民の不満を買うことになりかねませんのに」


 クララは疑問を口にした。その瞳には、嘘や偽りは感じられない。


「俺の力が、邪魔になったんだろう」


 俺は吐き捨てるように言った。


「力が、邪魔……?」


「そうだ。強すぎる力は、時に為政者にとって脅威となる。俺は、その力を戦場で示しすぎた。国王は、俺がその力で王位を奪うのではないかと恐れたんだ」


 クララは、黙って俺の言葉を聞いている。


「それに……」


 俺は、言葉を続けた。


「国王の周りには、俺を快く思わない連中が大勢いる。奴らは、俺の功績を妬み、国王に讒言したんだろう。『ユアンは危険だ』『民衆を扇動している』『反逆の意思がある』……とな」


 馬車が、ガタゴトと音を立てて揺れる。

 窓の外には、荒涼とした景色が広がっていた。


「本当に、良かったのか。俺についてきて」


 俺の問いかけに、クララは少し間を置いてから、静かに、しかしはっきりと答えた。


「はい。私は、ユアン様についていくと決めました」


 その声には、迷いがなかった。


「私は……貧しい家の生まれです。母は病気がちで、いつも寝込んでいました」


 クララは、窓の外に目をやりながら語り始めた。


「兄が三人おりましたが、先のガルドール帝国との戦争で、全員亡くなりました。皆、国のために命を捧げたのです」


 俺は、何も言えなかった。

 戦争は、いつも弱い者たちにしわ寄せがいく。


「私は家族を養うために宮廷でメイドとして働くことになりました。でも、宮廷での暮らしは決して楽ではありませんでした。貴族たちは、私たちのような下働きを人間扱いしません。毎日、理不尽な要求や嫌がらせに耐える日々でした」


 クララは一度言葉を切り、深く息を吸った。


「そんな時、ユアン様の噂を耳にしたのです」


 クララの瞳に光が宿った。


「戦場で敵を蹴散らし、民衆を鼓舞する英雄。どんな相手にも臆することなく、正義を貫く勇者。ユアン様は、私にとって希望の光でした」


 俺は照れくささを感じながらも、クララの言葉に耳を傾けた。


「だから、国王陛下からユアン様のお世話を命じられたとき、私は迷わず引き受けました。たとえ、それが嘆きの荒野への追放であっても……」


 クララは俺の目をまっすぐに見つめた。


「私はユアン様を尊敬しています。ユアン様の強さ、優しさ、そして正義を信じています。だから、どのようなことがあっても、私はユアン様の傍を離れません」


 その言葉は俺の心に深く響いた。


 追放され、絶望の淵にいた俺にとって、クララの言葉は一筋の光だった。


「クララ……」


俺はクララの手をそっと握った。


「ありがとう。お前がいてくれて、本当に助かる」


 クララは少し顔を赤らめながらも俺の手を握り返した。

 その手は小さく、そして温かかった。


 馬車は音を立てながら嘆きの荒野を進んでいく。


 この荒野で生き延びてみせる。

 そして、いつか必ず復讐してやる。


 俺は、そう決意した。

新作です!


日間ランキング入り目指してます!


「面白かった」


「続きが気になる」


「ユアンの活躍が読みたい」


と思ったら


・ブックマークに追加


・広告下の「☆☆☆☆☆」から評価


(面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ!)


をして読み進めていただけると大変励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ