ミユとキツネの宝探し。
ミユはおとなしくて内気な女の子でした。
家族いがいの人あいてだと、「こんにちは」すらまともに言えないのです。
小学一年生になった年の夏、田舎にあるおばあちゃんの家に来ました。お父さんとお母さんがお仕事で家をあけるので、三日間のお泊りです。
「せっかく自然ゆたかな町なんだから、外であそんでみたらどうだ」なんてお父さんが言いましたが、ミユは家の中でしずかに本を読んで過ごすのが好きでした。
一日目の朝、おばあちゃんが言いました。
「ミユ、おしょうゆがきれてしまったんだ。おつかいに行ってくれないかい? お昼ごはんをつくるのにどうしてもひつようなんだ」
ミユは不安でしたが、おばあちゃんが困っているから助けたくて、うなずきました。
リュックにお財布とメモを入れ、山道を歩いてコンビニに向かいます。
一本道を歩いて一〇分くらいのところにポツンとあるコンビニ。
いなかなので、お店はここしかないのです。
道を歩いていると茂みの中から何かがガサガサと動く音が聞こえてきました。
立ち止まってじっと見ていると、金色のキツネが姿を現しました。
「こんにちは、おじょうさん」
キツネが話しかけてきました。
「……こ、こんにちは」
ミユは小さな声で返事をしました。
キツネはコンコンないてうったえます。
「ぼく、とっても大切なものを落としてしまって困っているんだ。一緒に探してくれない?」
おばあちゃんにたのまれたおつかいをしなきゃ、と思ったけれど、キツネが悲しそうなので、勇気をだして聞きました。
「どんなものを探しているの?」
「青く光る石だよ。お母さんがくれた宝物なんだ」
「わかったわ。いっしょにさがしましょう」
ミユはキツネと一緒に山に入りました。
途中、白いフクロウや、足元をすばしっこく走る小さなリスたちに会いました。
「フクロウさん。青い石をみていない?」
「リスさん。青い石を知らない?」
と、ミユはキツネのために動物たちに聞きます。
リスがベンチの下で見たと言うので、山道の途中にあるベンチの下をのぞいてみます。
ふりつもった木の葉の中に、キラキラと光る青い石がありました。
「 キツネさん。これ?」
ミユが差し出すと、キツネは大喜びしました。
「そう! これだよ! ありがとう、ミユちゃん」
キツネはお礼に、ぼうしをかぶったドングリをくれました。
「ぼくのために探してくれてありがとう。お礼だよ」
「わぁ。かわいいドングリ。ありがとうキツネさん」
それからキツネに案内されて、丘を下った先はコンビニでした。
ミユは無事におしょうゆを買い、おばあちゃんの家に帰りました。
おばあちゃんに森での出来事を話すと、「ミユが優しい子だから、キツネが助けを求めたんだね」と優しく言いました。
キツネがくれたドングリはおばあちゃんの家の庭に植えました。
冒険した日から、ミユは外の世界に出ることを怖がらなくなりました。
毎年夏になるとおばあちゃんの家に泊まります。
あれ以来キツネに出会うことはなく、キツネと冒険した道を探しても、不思議な道もベンチもどこにもありませんでした。
夢だったのかと思ったときもあったけれど、育ったドングリの木が、あれは本当だったと教えてくれます。
勇気の証であるドングリの木は、今日も成長しています。
おわり