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あこがれ
情報が少なくて、想像するばかりだったころの世界は、驚きと憧れに彩られていて。
本を開くのは、魔法の扉を開くことと等しかった。
知らない国の知らない場所。不思議な風習。
カタカナで名前を綴られた食べたことのない料理の数々。
奇妙な姿の動物たち。艶やかに咲く花の色。
描写されたたくさんのものを、自分の中にあるわずかな知識で色づけしていく日々。正確さには欠けていたと思うけれど、それはそれは楽しい作業で。
物語の王子さまは正しく勇敢で、お姫様は心優しく可憐。
それを信じて心を震わせた、短くも幸せな時間が確かにあったのに…
情報の多い、今の世界は
どんなものでも目の前に差し出してくれる
想像の余地のないほどに、くっきりとした姿で。
行きたかった場所も、食べたかったものも、未知の動物達も、見慣れた映像や聞き慣れた情報のひとつに置き換えられてしまい
憧れは、たやすく色褪せて
いつしか…
手品のタネを知ってしまった観客のように
冷めた眼差しで世界を眺めていることに気がつく
知りすぎることの悲しみはあるのです




