いざ、出陣
スビーノ高原へは、転送で移動できるという。番人トヴァスのところに行き、
「スビーノ高原」
ツクモが告げるや、ふわっと体が浮き、
【ランダム転送:スビーノ高原、区画221に到着】
という表示とともに、目の前には青々とした草原が広がっていた。
「お前は草むしりでもしていろ」
言って、ツクモは1人、すたすたと歩いていく。草の丈が長くて、ツクモの姿が隠れてしまった。
ルフェニャは自分の受注したクエストを確認する。
【チュートリアル3:採集をしよう:スビーノ高原のフフワワ草を30個集める】
【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコを5体狩ろう】
どれがフフワワ草なんだ?と、辺りを見回す内、
【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコをあと3体狩ろう】
突然、クエスト内容が視界をよぎった。
しかも狩る数が減っている。何で?
「5体が急に3体に……」
「あぁ、ツクモだよ。パーティ加入者の狩りも反映されるから」
レオーンにも、僕の受注しているクエストと進行状況がわかるようだ。
あ、あと1体。……0体。
【ツクモが獲得:コボボコの皮5個】
【ツクモが獲得:コボボコの大皮3個】
【ツクモが獲得:グレートボボコの蹄】
【ツクモがレア獲得:グレートボボコの核】
【ツクモがレア獲得:グレートボボコの金毛】
【ツクモがレア獲得:グレートボボコの大角】
「戦利品すごいねー」
レオーンが苦笑している。
グレートボボコって、何?
コボボコとどう違うの?
その前に、コボボコってどんな生き物?
戦利品って、何?
「草は毟っただろうな」
そんな声とともにツクモが帰ってきた。
「フフワワ草、どれですか?」
尋ねるルフェニャをツクモはじっと見、それからレオーンを睨んだ。
「何のためにお前はここに来たんだ」
「超希少モンスター、ヨーモーグイの狩り」
「この初心者に、採集の仕方を教えるためだろうが」
呆れ返ったツクモは、ルフェニャに向き直った。
「腕輪の緑の石の上下左右に三角の突起があるだろ、下の三角を押して……フフワワ草のクエストが点滅したら、緑の石を押す」
緑の石から、赤い光線が出た。
何だこれ。
光線は左右に揺れながら、どんどん前方遠くの方へ伸び、途切れてしまった。
「赤い光が指す辺りに、クエストの対象物がある。……なんだ、あの辺り、僕がグレートボボコを狩っていた場所じゃないか」
赤い光線が伸びていった方角をツクモが指す。
そこへ3人で連れ立って移動する。
草はルフェニャの肩の高さまで伸び、足元も全然見えない。
「……ルフェニャ、これだ」
1本だけ見つけたフフワワ草を、ツクモが短刀で刈る。根本から先まで真白の綿毛で覆われた、30cmほどの植物だ。
「僕は左、ルフェニャは直進、レオーンは右を。フフワワ草は群生しないからな」
ツクモの指示で、手分けして探す。
全然見つからず、ルフェニャはひたすら前に進んだ。
他二人も芳しくないようだ。
フフワワ草、残り24個。
そこから一向に減らない。
装着していた耳あてからレオーンの声がする。
「ルフェニャ、どこだ?」
「どこって言われても……」
【ツクモから受信:合流しよう。ルフェニャ、そこから動くな】
視界にそんな伝言が表示された。
ルフェニャはちょうど、ぽっかりと草のない空き地に出たところだった。
そこで立ち止まる。
「あれ?」
さっきまで何もなかったのに。
目の前に大きな翡翠色の岩が出現した。
周囲の草丈を越すほどの高い岩によじ登り、その上に立って辺りを見渡した。
「おーい、レオーン、ツクモー!!」
手を振って呼びかけると、二人が物凄く慌てて駆け寄ってきた。
足元の岩がぐらぐらと揺れ始める。
「え?」
ルフェニャは、動く岩から吹き飛ばされ、地面に投げ出された。
痛みに体がしびれて動けない。
「初心者の、強敵遭遇運、半端ないね」
頭上から聞こえるレオーンの声が震えている。
「本当に……よりにもよって、こいつに出くわすとは」
答えるツクモの声も緊張している。
「……レオーン、今のスキルセットは物理火力どのぐらいだ」
「底上げすれば15万」
「上げずに」
「7万」
「僕が剣術士で行く」
ようやく身を起こしたルフェニャが振り仰いで見たものは。
翡翠色の鱗に覆われた、竜だった。
「お前に踏みつけられて、竜が起きてしまったじゃないか」
その竜の体高は人の背丈の2倍ほどで、多分きっと、竜の中ではそう大きくはないとはいえ……岩に擬態して、そのへんに転がっていていいモンスターではない。
【ツクモが難関クエストを1万ピヨで遠隔受注しました:Sランク・怒れる宝石ソニーリューの討伐】
この緊迫した状況で、クエストを受注したようだ。
くわりと牙をむき、翼と尾を震わせる竜と対峙しているというのに、呑気な。
「一度でもソロで完了したものであれば、難関クエストはいつでも受注できる」
「はぁ!? こいつをソロで討ったの⁉」
レオーンがびっくりしている。
「剣術士99の体力を舐めるなよ。持久戦には強い」
鞄をごそごそ漁っていたツクモが、
「最終強化済み、レベル40から使える永続回復ネックレスを、ルフェニャに貸そう」
【パーティ効果:ルフェニャの装備可能レベル40に補正】
【所持者ツクモ:レアネックレス:癒しの首飾り:ルフェニャを所持者登録しますか?】
【しない】とツクモが即座に答える。
赤い石の連なる首飾りを渡され、ルフェニャはそれを身に着けた。
これを着けている間は、軽い傷なら自然と治り続けるのだそうだ。
「レオーン、念のため、治癒円陣と防護壁を頼む」
「俺、そーゆーのからっきし駄目」
「いいからやれ」
ツクモに睨まれ、レオーンは降参と言わんばかりに両手を上げた。
翡翠色の竜が、ツクモ目掛けて尾を振り下ろす。それをひょいと躱して、ツクモはその後ろへ回り込む。
竜は首を捻じ曲げてツクモに噛みつこうとする。また避ける。
竜が翼をうち、ツクモに幾度も襲いかかる。
ツクモは特に何もせず、ただ逃げ回っているようにしか見えない。
「あれ、何をやってるんですか?」
「攻撃の隙を窺っている」
レオーンは半眼になって竜とツクモを眺めている。
竜が、逃げ続けるツクモを見据えて動きを止める。
突如、竜は猛然とレオーンとルフェニャの方へ滑り込んできた。
「まずい、耐えられない」
レオーンの防護壁を破って、竜の牙が二人に迫る。
【身代わり発動】
【挑発:標的固定:単体】
立て続けに流れる表示。
竜の開いた顎を、ツクモが盾でぎりぎり受け止めている。
でも、上牙はその肩に食い込んでいる。
【光弾】
竜の眼前で光の球が弾けた。
突然の閃光に驚いた竜が、目玉をきょろきょろさせて退く。
【ツクモからレオーンに支援要請:回復】
「レオーン、悪い、回復術頼む。魔力を温存したい」
ツクモが肩の深手を指して言った。
【レオーンが治癒を行いました:貢献認定】
表示の合間にも、竜はツクモだけを標的に定め、襲撃してくる。
それをツクモは盾と剣でいなす。
「しょうがない、そろそろやるか」
ツクモは不敵に笑うと武器を構えた。
「武装、展開」