初めての☓☓☓☓
武器屋のヤキーブ爺さんと別れ、ルフェニャは請負中のクエストを確認した。
緑の石に指先を当てる。
【チュートリアル2:倉庫利用登録】
【チュートリアル0:この世界を知ろう2:スヴァンと話す】
【チュートリアル3:採集をしよう:スビーノ高原のフフワワ草を30個集める】
【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコを5体狩ろう】
視界を覆うクエストのうち、一番上の、チュートリアル2だけ点滅して見える。
すごく目が疲れる。
もう一度緑の石に触れてみると、そのクエストの文字が緑色になり、石から出た光線が、武器屋の隣の店を指した。
「自分がいるフィールドで達成できるクエストは点滅する」
淡々と解説してくれたのは、レオーンの傍らに現れた小柄な誰か。
口を開けた黒い狐の仮面で顔の上半分が隠れている。
えっと、名前は……、
あれ? 頭の上に名前が無い。
なんで? 名無し?
「ツクモ、久しぶり。生きてたのか」
レオーンが嬉しそうな声を上げる。
……ツクモっていう名前なのか。名前、表示してくれたらいいのに。
「今やお前が新人の世話焼きか、レオーン」
仮面の下に覗く口元が、ふっと笑った。
「お前、いつの間に剣術士99になったの」
レオーンが訊いた。
でも、ツクモの名前も職業レベルも見えない。
どうやって、レベルとかわかるんだろう。
「だいぶ前だ……今は魔術師のレベル上げ中だ」
この人、剣術士なのに? 魔術師もやってるの?
ツクモはルフェニャがどんどん首を傾げていくのを黙って見つめ、
「まずお前は、倉庫屋……クットスと話してこい」
しっしっと追い払った。
仕方なく、ルフェニャは隣の倉庫屋に行った。
ぼーっとしているクットスさんに声をかけると、“鍵”というカードを買わされた。
500ピヨとられた。
でも、これがあれば、今後手に入れたアイテム等を持ち歩かずに保管できるそうだ。
便利だなと感心していたら、
「鍵1枚に付き、30枠しか入らない上、物の出し入れはこの店でしかできない」
後ろでレオーンさんと何か話していたのに、僕のために、ツクモさんがぼそっと解説してくれる。
ツクモさん、無愛想だけどいい人なのかも。
「お前の鞄には10アイテムが限度だな」
言って、ツクモは掲示板の方へ歩いて行ってしまった。
「ルフェニャさえよければ、俺と一緒に行動しないか?」
レオーンが誘ってくれる。
ルフェニャが頷くと、レオーンは自分の鞄に引っ掛けている耳あてのようなものを操作した。オレンジ色の光が点滅している。
「ルフェニャ、君の帽子に付いているこれを貸してくれ」
言われて、被っている帽子を手で探ると、確かにそこに同じ耳あてがあった。
「このね、右横にある突起を2回押すんだ」
ルフェニャの耳あての右耳のところにオレンジ色の光が灯って、ちかちか瞬いた。
レオーンとルフェニャの耳あての光が同時に明滅し、同時に消えた。
【レオーンを友人に登録しました】
ルフェニャの視界をそんな文字が駆け抜けていった。
友人。
いい響きだな。
【初心者クエスト1:はじめての友人登録 達成】
【初心者クエスト2:パーティを組もう】
【初心者クエスト3:3ジョブ以上のパーティで戦おう】
【初心者クエスト4:最初の職業を選ぼう(達成条件、初心者クエスト3まで完了)(レベル10到達)】
うーん、クエストが急に増えた。
どうしよう。
パーティを組むのはレオーンに頼んでみるとして、3ジョブって。
そこへ、ツクモが戻ってきた。
レオーンの隣に来て、
「ルフェニャと友人登録したか? そのまま、初心者クエスト、やってやれよ」
と言っている。
え?ツクモさんが、レオーンさんに僕と友達になるよう頼んでくれていたの?
「うん。君は何を請けてきた?」
「スビーノ高原の幻、ルースタリオンの討伐」
レオーンが固まった。
「僕はソロで何度も討っている、問題ない」
ツクモはさらりと言った。
それからルフェニャに向き直った。
「ルフェニャ、レオーンをパーティに勧誘しろ。耳あての右の赤い突起を押すんだ。レオーンの名前が点滅したら、今度は左の緑の突起を3回。とっととやれ」
あたふたしながら、言われたとおりに操作して、
【レオーンをパーティ勧誘しました】
続いて、
【レオーンがパーティに加わりました】
という表示が流れてルフェニャはほッとした。
あれ?レオーンの右頬に赤い▲マークが浮かんでいる。
「あの、レオーンさん」
おずおずと呼びかけ、ルフェニャは自分の右頬を指した。
「あぁ、パーティの仲間の印だよ。君の頬にも同じ模様が浮かんで見えるよ」
と、突然、
【レオーンがツクモをパーティに招待しました】
【ツクモがパーティに加わりました】
流れてきた表示に、ルフェニャは思わずツクモを見た。
「……一緒に来てくれるんですか?」
「莫迦言え。お前が僕たちについてくるんだよ」
ふんと鼻を鳴らし、ツクモは言った。
いらいらしているのか、左手首の腕輪をいじっている。
ルフェニャの視界に、ぽんと映った文字列。
【ツクモから友人申請が届きました(10秒以内に、耳あて右突起2回押しで承認)】
ルフェニャは黙って耳あてを探り、素早く突起を2回押した。
「こんなクエスト、あったのか」
ツクモがふと呟いた。
それを聞きつけ、レオーンが驚いて聞く。
「ツクモ、お前がまだ達成してないクエストなんてあったの!?」
問われたツクモが言い淀む。
「……友人申請をしよう」