こんにちは、ここはどこ?
赤いレンガの敷かれた広場の中央で、年の頃は10代半ばの男子が一人、その場から動かず突っ立っている。
オレンジ色の髪に緑の目を持つ彼は、帽子から靴まで全部ベージュ一色の衣類を身に着け、腰には一振りの剣を下げている。
彼は途方に暮れていた。
目が覚めたら、自分はここに居た。
そもそも、それ以前にどこに居たのかも思い出せない。
僕は誰で、ここはどこだろう。
知らない人々がみんな、彼に向かって
『〇〇〇○、ルフェニャ』
と話しかけてくるので、
『ルフェニャ』というのが自分の名前だろうということは分かった。
……なんでみんな僕の名前を知っているんだろう?
ルフェニャの正面には大きな掲示版があって、周りに人集りができている。
人間ではない容貌の者もいる。
羽があったり、獣の姿をしていたり、様々だ。
「@#$%%、ルフェニャ」
犬の頭を持つ誰かがルフェニャを手招いてくる。近寄ると、犬の誰か(とりあえず、イヌと呼ぶことにする)は、今度は広場の隅の屋台を指さした。
そこへ行けということか。
ルフェニャはイヌに手を振り返し、教えられた店へ行った。
「?~||+--}<¿、ルフェニャ」
恰幅の良い、店主のおっさんに声をかけられたが、やっぱり何を言っているのかわからない。
店先には、革紐で括られた羊皮紙の巻物がたくさん並んでいる。
何の気無しに一つ手にとり、紐を解こうとしたら
「うわぁ!?」
巻物の留め具から火花が散って、ルフェニャの手に刺すような痛みが走った。
店の主が笑って何か言いながら、1本の巻物を差し出してきた。
その留め具に恐る恐る、指先で触れてみる。
……良かった、火花は散らなかった。
内心、胸を撫で下ろして、ルフェニャは巻物を開けた。
青く光る、文字と思しき知らない記号がたくさん並んでいる。
なぜ文字が光っているのだろう。
好奇心から、文字を指で辿ってみた瞬間。
「え!?」
羊皮紙に書かれていた文字が消えた。
ただの皮になってしまった。どうしよう。
慌てていると
【チュートリアル1達成:言語習得】という文字がルフェニャの視界をよぎった。
【チュートリアル1報酬:ステータス・スキル・クエストウィンドウオープン(右手のブレスレットを見よ)】
【クエスト開放:チュートリアル2:倉庫利用登録】
【クエスト開放:チュートリアル0:この世界を知ろう1:リリンと話す】
立て続けにそんな文章が浮かんで消えた。
ルフェニャは瞬きをし、この状況、それから今しがた見た文字列について考えた。
この異世界(仮)に来たばかりの自分は、言語の技能書を読み、異国語が分かるようになった。
その上、この世界特有の仕様であろう自分の身分や技能、業務を把握できるようになったらしい。
……チュートリアル、1をクリアしてから0開放って何なんだ。
「言語習得スキルの書の代金を貰おうか」
スキル屋のおじさんがにこにこしながら手を差し出してくる。
初めて聞き取れた会話が、料金請求とは。
「100ピヨだ」
ピヨ。可愛らしい通貨単位だ。いやいやいや、そんなことを言っている場合ではない。
服のどこを探っても、硬貨1枚出てこない。
「何だ、金が無いのか。仕方ない。クエストを達成してこい」
おじさんの言葉とともに、
【チュートリアル3:採集をしよう:スビーノ高原のフフワワ草を30個集める】
【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコを5体狩ろう】
視界を覆った文字列に頭がくらくらするルフェニャであった。