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象徴

作者: 書棚の片隅
掲載日:2023/08/03

 地中海世界はローマ帝国の支配下にあった。ローマ皇帝は世界の富と権力の頂点に立ち、世界は彼の手の中にあった。彼は金貨を通貨とし、金貨には彼の肖像を刻ませた。金貨は彼の富と権力の象徴であった。

 それから何百年か経ち、別の文明によってローマ文明は滅亡した。その文明もまた別の文明に、そしてその文明も…

 しかし、唯一変わらないものがあった。それは、富と権力の象徴がカネであることだった。常にカネをめぐって人々は争い、苦しみ続けた。


 それから何万年か経って、考古学者のチームが乗った宇宙船がある惑星に着陸した。地球はもはや神話の中の存在となり、それがどこにあるのか知るものはいなかった。

 考古学者のチームは、大規模な遺跡を発見し興奮に湧いた。遺跡からは数えきれないほどの遺物が見つかった。その中に、考古学者達には用途が全く分からないものがあった。それが日用品であったのは間違いないにも関わらず、何に使われていたのか誰にも分からなかった。それは円盤状の金属片で、表面には何かの模様が刻んであった。

 その頃には人類は銀河系全域に版図を広げ、他の知的生命体とも共存し、文明と文化の発展はとどまることを知らなかった。人間の寿命は実質上永遠となり、貧困も争いも格差も収奪も無かった。人類は永遠の春を迎えたのであった。

 そのため、この時代の人間にはカネという概念をもはや理解できなかったのである。


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