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11話 歴史に名を刻む戦ではあるが、その者は主人公ではない。






「凄い音ですね…」


無事に追っ手を撃退したソウ達は、特殊部隊が見つけた帰還ルートを辿っていた。


岩場は地球にあるテトラポットのように簡単に昇り降りできる様なものでは無い。

確かなルートを通らなければ、すぐに行き詰まってしまう。

特殊部隊はそんな初めて通る岩場を、我が道の如く案内している。


ソウは自分達のいる岩場まで聞こえる戦闘音に、少し敏感になっていた。聞こえる音が大きい分、戦場が近く感じられて、自分達が見つかるのではと、心配になっているのだ。


「ここで数を討たなければ、我々の負けだからな。必死にもなるさ」


「後は皆さんの頑張りに掛かっていますね」


「いや、俺たちも楽ではないぞ?」


岩の亀裂に手を掛けながらジャックがソウに答える。

難易度はロッククライミングほどでは無いが、滑り落ちれば無傷では済まないだろう。

特殊部隊員はもちろんの事、ソウとルガーもスイスイと昇り降りしており、苦労しているのは自分だけとなっている事に、ジャックは今更気付いた。


「…剣を持ちましょうか?」


「いやいい。その代わり、戻ったら俺も調練に混ぜろ」


「何の代わりかわかりませんが……落ちないで下さいね」


ジャックは自身の身体的な衰えに思うところがある様だ。

ソウは兎に角怪我だけはしてくれるなと、ジャックに釘を刺した。


そんな一幕がありながらも、ソウ達は本隊への合流を目指す。












砦からかなり離れた位置へと、指揮台は移動していた。そんな指揮台の上で戦を見守っているディオドーラ将軍の元へと、矢継ぎ早に伝令がやって来ていた。


「報告!連邦軍さらに撤退!」


「報告!連邦軍一個小隊を捕虜としました!」


「報告!前線が入れ替わった部隊の損害は軽微!」


訪れる報告は全て帝国優勢を告げるものばかりである。

それを聞いたディオドーラ将軍とサザーランド副将軍は、活き活きと会話を紡いだ。


「やってくれたわっ!」


「ですな!問題があるとすれば…帰還の報告が未だに来ていないということくらいですな」


「なに。たったの二十人足らずの隊で、四万からの軍勢を相手取っていたのだ。無事に帰ってくる。それが道理というもの」


そんな二人に唯一落とす影は、ソウ達の安否であった。

もし、許されるのであれば、二人の望むものを全て叶えてやりたい。

ディオドーラ将軍はこれまでも、そして今も、二人に多大な恩を感じていた。

もちろん二人が望むモノは、()()()将軍には叶えられるモノではない。ジャックの昇進ですらいくら自軍の人事とはいえ、これ以上あからさまな事は出来ないのだ。


そんな二人の安否を気遣うサザーランド副将軍に対して、心の中では恩に報いるまでは死んでもらっては困ると思っている事を伏せて、将軍らしく大きく構えた。


「英雄は死なない。ですな。また孫娘に語る物語が出来ましたぞ」


「…程々にな?」


「はっはっはっ!程々で済む話にはなりますまい!」


自身の孫の様なソウの活躍をサザーランド副将軍は手放しで喜ぶ。

そんな副将軍に釘を刺すが、この40年この者が人の言う事を聞いたためしがない事を思い出し、ディオドーラ将軍の声は次第に小さくなっていった。


そんな二人の元に、待ちに待った報告が上がってくる。


「報告!エルメス隊、帰還!」


「よし!休息を与えた後、連れて参れ!」


「はっ!」


ディオドーラ将軍は伊達に出世街道のトップに君臨していない。

早く無事を確かめて、報告を聞きたい所ではあるが、それはすぐでなくてもいい。

ならばここは器のデカさを見せて、充分な休みを与えてから呼んだ方が、誰から見ても不満の声は上がらないだろう。


こういった事が自然に出来るからこそ、将軍として皆がついて行っているのだ。

細かい事は優秀な、それこそバハムート師団長辺りに任せて。

割を食うのはいつの時代も、どんな場所でも、優秀なモノなのかもしれない。


閑話休題。



「エルメス特別任務隊、十八名!全員無事帰還しました!」


四半刻後、待ちに待った二人が報告の為に指揮台を訪れた。


「よくぞやった!そして、よく無事に帰ってきた。戦場は見ての通りだ。最早連邦軍になす術なし!ギリギリまで追うが、それも以前の戦場までのこと。もう少しで方が付く」


「はっ!有り難きお言葉。我等帝国軍に破れぬものはありません」


「はっはっはっ!流石エルメス中佐!また孫娘に語る名言が出たのう!」


ジャックはしまった!という顔をしたが、時すでに遅かった。

そんなジャックの横では、ソウが項垂れていた。黒歴史が増えると。


「サザーランド副将軍、まあ待て。積もる話もあるだろうが、まずは戦果を聞こうではないか」


「おっと。そうでしたな!では英雄譚を聞かせてくれ!」


中将の余計な言葉に、ジャックとソウの口は動きが悪くなった。





「なるほどな…よくぞ三人で追っ手を倒した。では、後詰も五体満足ではないということか?」


恐らくすでに連邦軍は後詰と合流しているはずだ。その事も踏まえてジャックとソウは報告を終え、それに対しての質問に変わっていた。


「はっ。それは私から。後詰の被害は、負傷兵も併せて一割程度です」


ジャックは見ていない為、ソウが代わりに報告をする。


「一割か。さすれば、後詰に一割の荷物を背負わせたのと同位。撤退速度も自然と遅くなるだろうな」


「はっ。同じ考えにございます。挟まれるギリギリまで妨害はしましたが、力及ばず」


「なに。問題があるどころか、最上の戦果よ。何よりも、二人が無事に帰ってきた事が大切。これで北軍は剣と盾を失わずに済んだ。

二人に命じる。これより砦へと帰還し、明日の朝までの休息を命じる!特別任務隊の皆にもそう命じよ」


「「はっ!」」バッ


軍の剣と盾とは要の人物を指す言葉である。ディオドーラ将軍は二人に対して、最大限の評価を持って労ったのだ。

そして粋な命令。

どちらかというと、サザーランド副将軍のオモチャにされないように計らっていたのだか、当の本人は嬉しそうに頷いていて気付いていなかった。


かくして、二人の…いや、三人と特殊部隊の長いようで短い特別任務は終わりを迎えたのであった。














「もうそれくらいにしておけ」


ジャックがドン引きして伝えている相手は、ソウとルガーの二人だ。


まだ食べれますよ(まふぁたれれまふよ)?」


「口の中のモノをしまってから喋れよ…」


将軍の…いや、恐らくはバハムート師団長の計らいで、ソウ達には豪華な食事が振る舞われていた。


「むぐっ。ルガー?まだ食べれますよね?」


コクコク


「やめろ。煽るな。それよりも寝るぞ。しっかり休んでおけ。明日から忙しくなる」


「まだ日が高いですよ?」


「起きていたら戻ってきたレンザ大尉にこき使われるぞ?」


「ルガー。寝ますよ」


ソウの変わり身は早い。

これがソウの処世術なのかもしれない。


実際、ソウもルガーもクタクタではあった。

体力的なものも勿論あるが、それよりも精神的に疲れていた。

戦場でのジャックの危うさにソウは生きた心地がしなかったのだ。

ルガーは魔力的に疲れていたが、何よりも食べ過ぎで動きたくなかったようだ。


三人が夢の世界にいる間に、この戦場は幕を下ろす事になった。


ソウはこの戦場では主役にならなかった。

どの戦争でもそうあるべきなのだが、今回の主役は最前線にいる兵と指揮官である。

ソウはバチバチの裏方に回っていたのだが、この方が性に合っていると、夢心地に感じていたのであった。

話の途中ですが、少し投稿を休みます。

また書き溜めを作れたら続けて投稿します。


流石に三作同時進行は無理がありました…

他の小説に目処がついたらこちらに集中します。

(でも恋愛小説も書いてみたい…)


良ければブックマークして待っていて頂けると嬉しいです。

評価もよければ…


『クリスの魔法陣』という小説を始めに終わらせる(?)予定なので、良ければ暇つぶしに見てやってください。


では、またこの小説で皆様にお会いできる事を祈って。多謝。


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