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3話 長旅の果てに。

 

 大陸暦1315年夏の時初旬







「よく来られた。久しいな」


 ディオドーラ将軍と固い握手を交わすのは、南軍大将であるナタニエル・ヴァンガード将軍である。

 短く刈り込んだ赤髪と巨漢がディオドーラ将軍と対比して見える。南軍の赤鬼と呼ばれるヴァンガード将軍はディオドーラ将軍の来訪をことの他喜んで見えた。


「肩を並べるのは軍学校以来だ。会ったのも…」


「10年振りだな」


 どうやら同窓生のようだ。


「立ち話もなんだ。席を用意してある。着いてきてくれ」


「相分かった」


 ヴァンガード将軍の案内でディオドーラ将軍は帝国南方に築かれている砦内へと案内された。












「凄いです。凄く何もないです…」


 南軍の守る国境砦へと着いたソウは感想を述べる。

 ここは岩場で辺りには草木すら見えない。

 赤い岩肌を晒す大地は、大小様々な岩がゴロゴロとしており、とても大軍の進軍には適しては見えない。


 唯一平らな地面の先には、灰色の砦が築かれており、国境を越える為にはここを通る他なさそうに見える。


「聞いた話によると、井戸も通常の倍以上の深さがあるらしいな。これからここで過ごす事になる。すぐになれるさ」


「逆に、よくここだけ道がありますよね…道というか、岩場じゃないところが」


「大蛇の通り道と言われている。ここ以外は岩場で、まともに通る事は出来ん」


 神話の魔物。その名前を聞いて、ソウは辺りを見回した。


「よかった…いないみたいですね」


「大昔の話だからな。居たら俺達は生きていない」


「本当に魔物の仕業でこうなったのなら、その魔物はかなりの巨体だったのですね…」


 少し先の砦までの道は、幅が100m程もある。

 もし、本当に魔物の仕業であるのならば、その姿は大型のタンカー程の横幅はあるということ。

 想像を絶する魔物のスケールに、ソウは改めて出会わない事を祈った。





 長い道のりを経て、北軍は帝国南方の国境へとやって来ていた。季節は夏へと変わっている。

 そんな長い行軍を終えたソウ達、第四大隊は砦の一つのスペースを南軍から与えられていて、そこで休んでいた。

 そこへ、全体軍議からジャックが戻ってきた。


「お疲れ様です。粗茶ですが、どうぞ」


「粗茶って…白湯だろう?ここにそんな気の利いたものはないはずだ」


 ソウのボケに真面目に返したジャックは、用意されていた椅子へと腰掛け、話を始めた。


「北軍で行った軍議の結果と同じく、俺達は後方支援に回る事になった。

 ただそれだけだと反発があるから、反発していた者たちには南軍と共に最前線が贈られた」


「それは良かったですね。後方支援に反発された方も、私達もwin-winです」


「ういんういんはわからんが、青褪めていたな」


 北軍の軍議では後方支援で纏まっていた。

 恐らくバハムート少将の差し金により、反発分子には最前線が急遽命じられたのだろう。

 反発していた者達も、戦いたくて反発していた訳ではない。ただジャックやバハムート少将の足を引っ張りたかっただけなのだ。


「戦場はここから離れているのですか?」


「大軍でも一刻の距離らしい。ここと同じ様な平らな大地が広がっている場所があるみたいだな」


 ここはあくまでも広い道程度である。大軍が展開するには狭い。

 ジャックが言っている場所は、平らな大地が広場のようになっているのだろう。もしくはこの岩石大地がそこで終わっているのか。


「連邦軍は四万に届かないくらいの軍勢でこちらに向かっているようだ」


「南軍は二万ない程度。北軍の一部が援軍として最前線に加わるとしても数的不利は明らかです」


「それでも南軍は勝てると考えているのだろう」


 帝国軍は常勝軍団である。これまでそれで国土を拡げてきたのだ。

 また勝つ。根拠もなく、戦場では皆がそう思っていた。それが帝国軍の強さでもあり、不安要素でもある。


「いよいよ瓦解した時の準備を進めないとな」


「南方はそれでいいでしょうが、北方はどうですか?何か動きはありましたか?」


「…何も出来ないと言っていたのは二人だろう?」


 ハーレバーが攻められても何も出来ないと、ソウとレンザ大尉は結論付けていた。

 その事をジャックはつっこむが、二人はどこ吹く風だ。


「何も出来ないのと、何も情報を得ないのは全くの別物ですよ?

 軍議でその話題はあがらなかったのですか?」


 ああ言えばこう言う。

 揚げ足取りでこの二人と争う気がサラサラないジャックは、ソウの言葉を無視して話を進める。


「都市連合国の動きは不明だ。分からないということは、その程度の動きしかないはずだ」


 帝国が南部に兵を集めていることは、都市連合国も周知していることだろう。

 すぐに攻めてくるのであれば、その動きを秘匿することは難しいはず。ジャックはそう考えていた。


「…まずいです。予想以上に帝国は他国に嫌われているみたいですね」


「何故だ?」


「都市連合国は帝国の邪魔をしたい。あわよくば領土を切り取りたい。そうですよね?」


「そうだ」


「それは間違いだったという事です」


 都市連合国は帝国の躍進を脅威に思ってきている。

 それは同じなのだが、ソウは帝国側が思っている事と、都市連合国が思っている事の温度差を感じた。


「どういう事だ?」


「都市連合国は帝国を滅ぼそうと考えています」


「なに…?」


 ジャックはソウの発言に言葉が続かなかった。

 確かに都市連合国と隣接したからには、敵国か友好国にしかなり得ない。

 ここでどちらの方策も取らない国家は、この戦乱の大陸で生き残ることは出来ないからだ。

 しかし、敵国といえどいきなり滅ぼすには国力があまりにも近すぎる。戦争が勃発したとしても結果は長い時の先にあること。そう考えているのはジャックだけではないはずだ。


「もし都市連合国が帝国の国力…力を削ぎたいと考えているのならば、ここで挙兵しないことはあり得ません。

 ただ兵を国境付近に展開するだけで、帝国は無視できず、体力を削れます。

 さらにはそれが帝国南方にある連邦の手助けにもなり、放っておいても帝国はその領土を、力を削られます。

 それを行わない理由は一つ。

 都市連合国が帝国戦に踏み切る時のみ」


 実際に攻めるのであれば、公にせずに隠していた方が得なことが多い。

 例えば防衛の準備を整えさせないなどだ。

 偽装の挙兵すら行わないという事は、都市連合国は実際に帝国攻めをする可能性が高いという事。


「私もソウ少尉と同じ考えですね。ここにきて何もしないはあり得ません。隠れてコソコソと行う事は一つ。北方攻めです」


「…それを上に伝えたらどうなる?」


「何も。ここに来て出来る事などありません。防衛に残した自軍を信じる他ありませんね」


 そこから天幕内はお通夜の空気が流れた。

 ソウとレンザ大尉曰く『これは仕組まれたモノ』と結論付けた。

 帝国包囲網を仕組んだのはもちろん・・・・














「都市連合国から軍務大臣を含む大使方がご到着なされました」


 連邦議会場である首都『エーミール』に都市連合国からの使者が訪れたのは、まだ冬の季節の始まりだった。


「通しなさい」


 報告に応えたのは、円卓の上座に当たる部分に立っていた初老の男性だ。


「バザール。どういう趣きだと思う?」


 上座に座っている中年の男性が、バザールと呼ばれた初老の男性に問いかけた。


「恐らく先のハーレバー王国とターメリック帝国の戦争の話かと」


「小国の戯れ…では片付けられなくなったか」


「はい。王国を呑み込んだ帝国ではありますが、依然我等の敵ではありません。

 しかし、都市連合国までをも呑み込めば、国力差は忽ち詰まります。恐らく連合国はそれを持ち出して話を進めるかと愚考いたします」


「相分かった。では、ここへ使者が到着する前に連邦としての答えを決めてしまおう。良いな?」


「「「「はい」」」」


 上座の男性の言葉に、円卓に居並ぶ者達が声を合わせて応えた。

 そして会議の結果、都市連合国と連邦での『帝国包囲網』を取る事が決まった。

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