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28話 卒業試験。魔法編。

 





「父上はハルトマン大佐だぞ!?お前がどれびゃえっ!?」


 ハルトマン少年は地面を転がった。

 もちろんソウが殴ったのだ。


「何事かぁっ!!」


 そこに飛んできたのは見知らぬ壮年の教官。

 教官は倒れているハルトマン少年を見てから皆の視線が集まるソウへと近づいた。


「何があった?」


「はっ!こちらの少年の口の利き方がなっていなかったので、懲罰として指導しました」


「…君が外部の受験生の曹長か。悪いがここは軍学校であって軍ではない。

 …が、殆ど軍のようなものだ。

 幸い彼の父親を知っているから後は君とハルトマン家の問題にしたいがどうだ?」


 話のわかる教官でよかった。

 ソウは恐らくこうなると思っていた。ここへくる前にバハムート少将とジャックから耳が痛くなる程、トラブル対応について聞かされていたから知っていたのだ。

 今回のトラブルはバハムート少将の想定内。血気盛んな少年(貴族)がソウに絡むのは避けられないとすら思われていた。

『あまりにも舐めた態度をとられると軍の曹長という肩書きの格が下がります。その場合はソウ曹長の感覚でいいので、軍と同じ対応を』

 流石のソウでも多くの推薦してくれた人達の顔に泥を塗る真似はしない。

 今回は殴らない方が泥を塗る行為になる為、鉄拳制裁を下したのだ。


「ぎざまぁっ!?べったい(ぜったい)ゆるざない!」


 起き上がったハルトマン少年が鼻血を出しながらソウを睨む。


「学校は問題にしないようだ。どうだ?お前は父上のハルトマン大佐に泣きつくか?ん?」


「待て。問題にはしないが煽るな。彼はまだ子供だ」


「はっ!」バッ


 ソウは強い者には従うのだ。これも生き抜く為…だと思う。


「馬鹿にするなっ!!お前なんか父上に頼らなくともどうとでも出来る!!魔法の試験で勝負だ!点数の高い者が勝者で、負けた方は勝者の奴隷だ!」


 異世界テンプレートと言われるモブキャラからの絡みが遂に発生したが、残念ながらソウはラノベを知らない。


「俺は魔法の試験は受けない。これは軍の上層部の方針だから俺個人ではどうしようも出来んな。という訳で頑張って首席を目指してこい」


 テンプレを華麗にスルーした。


「ふざけるな!俺は殴られたんだぞ?!」


「口の利き方が悪いから仕方ないだろう?お前のご自慢の父上に伝えとけ。『ソウ曹長に舐めた口を叩いたら殴られた』ってな。

 ハルトマン大佐には謝罪は結構ですと伝えておけよ?」


「なんで父上が謝る事になっているんだよ!?」


 初めは北軍曹長としてここへやって来ていた為、問答無用で殴り飛ばしたが、ソウは少しこのやり取りを楽しんでいた。

 目上の人を揶揄う事は多いが、年下(階級下)で殴られてからもここまで生意気な態度を取る相手はいなかった。

 それが新鮮なのだ。


「仕方ないだろう?ハルトマン大佐とは知らない仲ではないんだ。

 それよりもお前。呼ばれているぞ?」


 ソウの反応を見て、教官は問題なさそうだと判断した。その為、尚も言い争っている二人をおいて、試験を再開させていた。


「く、くそっ!お前はここにいろよ!?逃げるんじゃないぞ!?」


「俺も受験生なんだ。逃げる訳ないだろう?早く行ってこい」


 ハルトマン少年は鼻血を拭うと、魔法試験を受ける為に去って行った。

 その場に残されたソウには好奇の視線が集まっている。

 その視線には何も動じず、ソウはその場で魔法試験を

 ()()する。










「軍学校で習う魔法はあんなものなのか?」


 ソウが聞いているのはハルトマン少年だ。本当は誰でも良かったが、ソウに近づいてくるのはこの少年くらいだった。


「何で俺がお前に説明しなきゃいけないんだよ!?」


「何だ…授業で何を習ったかも覚えていないんだな。どうやら聞く相手を間違えたみたいだ」


「はぁっ!?俺は魔法でも上位なんだ!馬鹿にするなっ!」


 試験で皆が多用している魔法は、ルガーの魔法を至近距離で見てきたソウにはつまらないモノに映っていた。

 この程度の魔法で意味があるのだろうかと聞いているのだが、半分以上はこの少年を揶揄うのが目的だろう。魔法試験を受けないソウは暇なのだ。


「じゃあその優秀なハルトマン少年に聞こう。あれが普通の魔法か?」


「あ、あんなのは低レベルだ!」


「お前が使っていたのも似たようなモノだったが?」


「お前程度には俺の高レベルな魔法技術はわかんないんだよ!!」


 もはや態と怒らせて遊んでいる。


「そうか。戦争では使えんな」


「…お前戦争に出たことがあるのか?」


 聞こえるか聞こえないか程度で呟いたソウの言葉にハルトマン少年が疑問を口にした。


「あるぞ。王国戦では前線で戦っていた」


「敵を殺したのか?」


「敵と言っても同じ人だ。気持ちの良いものでは無かったけどな。大勢殺した」


 多かれ少なかれ軍学校へと通っている学生は軍事に興味がある。その中でも戦争には興味を持っているのだ。


「ちっ。本当に実力で試験を受けに来た奴かよ」


「なんだ?実力以外で受けにくる馬鹿がいるのか?」


 続くハルトマン少年の言葉に、次はソウが疑問を口にした。


「何年かに一度はいるみたいだ。軍学校には行かず、学院に行ったはいいけど進路で行き詰まった奴がな」


「ああ…平民と同じ兵卒からは嫌だけど、下士官からならって考えの馬鹿な貴族か」


「そうだけど…お前変わってんな。貴族じゃないんだろ?」


 平民が貴族を馬鹿にすることなど聞いた事がないハルトマン少年は、ハッキリと考えを口にするソウに興味を抱いた。


「残念ながら平民も平民。田舎の山奥育ちだ。軍で身分は関係ないからな。階級が全てだ」


 ソウはこの生き方しか知らない。厳密に言うと前世と併せて二つだ。

 その為、身分制度には疎いが、階級制度には厳格なのであった。


「じゃあ俺を殴ったのも…」


「ああ。階級制度にならってだ。別に口が悪い奴は嫌いではないからな。

 お前が卒業試験を突破して、軍に所属したら殴りに行くから待っていろよ」


「何でだよっ!?」


 やはり遊んでいた。










 ソウがハルトマン少年と遊んで(?)いるといつの間にか魔法の試験は終わっていた。


「次の試験場は近いのか?」


「何で俺がお前を案内しなきゃいけないんだよ!」


 他の卒業試験を受ける受験生に着いていけばいいだけだが、何となくこの少年について行った。

 もちろん構っているだけだ。


「軍人は常に帝国民の為に動かなければならない」


「…軍規一条がなんだよ」


「俺も帝国民だ。そしてお前は帝国軍に入りたい。わかるな?」


「ちっ。すぐそこだ」


 ここまで来るとソウが揶揄っているのは、少年にもわかった。その為、まともに相手をしてはダメだと素直に答えたのだ。


「お前魔法を本当に受けなかったな。それで受かる気なのかよ?」


「当たり前だ。多くの将官方に推薦状を書いてもらったんだ。受からなければハルトマン大佐の首が…」


「えっ!?父上の部下なのか!?」


「いや。冗談だ」


 素直になった少年を更に揶揄う為にいじり方の趣向を変えていた。


「やめろよ!お前が言うと嘘なのか本当なのかわかんねーんだよ!」


「ははっ。まぁ受かる気があるのかの答えはイエスだ。直属の上官は剣技と筆記だけで受かると言っていた」


「は?前代未聞だぞ?」


「俺に言われてもな?まぁ結果はすぐにでも出るさ」


 同じ受験生のはず、そして年もそう変わらないはず。しかしこの余裕はどこからくるんだ?

 ハルトマン少年の口に出せなかった疑問は、直ぐに解消されることになる。

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