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27話 卒業試験。筆記編。

 





「この紹介状に書かれている人達は元気かな?」


 ライメルン学校長はソウに尋ねる。


「はっ!大将閣下も他の方々もお元気です」


「そうか。あの三人とは昔…それこそ私がまだ軍に所属していた時の知り合いでね。紹介状を見ればわかるよ。一人でいい推薦者のところに三名もの将官が名を連ねる。ソウ曹長は愛されて…オモチャにされておるのう」


「可愛がっていただいております」


 ソウが学校長と話をしている時、隣ではバッケンザーガの耳元にレビュウ教官が口を寄せて何やら尋ねていた。


「ねぇ…もしかしてあの子って誰かの隠し子?」


「やめてください。ソウ君は能力から推薦されています。そんな事を勘繰っているのがバレると事ですよ?」


 どうやら推薦者のあまりの名前に変な勘違いをしている様だ。


「そうか。北軍は大変だったようだから、少し心配していたのだよ。

 でも、ソウ殿のような人がいるのならあの三人は大丈夫なようだのう」


「私は特に何かをしたわけでは…」


「そうそう。卒業試験の受付は問題なく処理できた。これが受験に必要な札になっておる。三日後に待っておるからのう」


「ありがとうございます!」


 年寄りは他人の話を聞かない。それはこの世界でも同じ様だ。

 学校長は自分が話したい事を話し、紹介状の代わりに札を渡すとその場を後にした。


「ソウ曹長って何者なの?」


「ん?何でしょうか?何者とは?」


 バッケンザーガ中尉にまだしつこく聞いていたレビュウ教官の言葉をソウが耳聡く拾った。


「えっ!?な、なんでもないわ!おほほっ!それじゃあ私は仕事があるから!」


 レビュウ教官は風の様に去って行った。


「何なのでしょうか?」


「気にしなくていいよ。あの人は噂好きなんだ」


「よくわかりませんが、私には噂されるような事はないので関係ないですね」


 疑問はあるがどうでもいい。

 ソウはバッケンザーガ中尉と共に用が済んだ軍学校を後にした。











 受付を終えたソウは試験当日まで、普段通り過ごしていた。

 試験当日もいつも通り目覚めて、朝の運動をしてから朝食を頂いていた。

 バッケンザーガ中尉が送り迎えをするといって聞かなかったが、何とか断った。

 その代わり、合格発表の時は着いてくる事になったが…そもそもソウが落ちていたらどうするつもりなのだろうか?


「卒業試験を受けたいのですが…」


 学校に着いたソウは両開きの玄関に立っていた職員と思われる人に札を見せながら声をかける。


「外部の受験生ですか?今、案内の人を呼ぶので少々お待ちを」


 どうやら玄関には立っている人が必要みたいだ。

 ソウの様に外部の受験生は少ないだろうが、関係ない人が入らない様にする為でもあるのだろう。

 人を呼びに行った職員はすぐに戻ってきた。


「レビュウ教官。よろしくお願いします」


 戻ってきた職員が連れてきたのは初めて会った教官だった。


「久しぶりね。今年の外部の受験生はソウ曹長だけよ。私が案内するから着いてきて」


「はっ!」バッ


 ソウの敬礼に返礼をするとレビュウ教官は建物の中へと歩を進めた。


「その札は試験中は机の見えるところに置いておいてね。実技の時は、自分の番以外の時は自分で保管。自分の番の時は担当の教官に渡すの。いい?」


「はっ!わかりました」


「それと試験は座学からよ。それが終われば次に魔法、その次に剣技ね」


 剣技が最後なのは怪我をする可能性が高いからだろう。

 なるべく公平になるように試験の順番が組まれている様だが、ソウにとってはやや面倒だ。


「レビュウ教官。質問があります」


「どうぞ」


「私は魔法の試験は受けません。その時はどうすれば良いのでしょうか?」


「…本当だったのね。冗談かと思っていたわ…」


 そんな冗談を教官に言う人はいないだろう。ここは単なる学校ではなく、上下関係に厳しい軍学校なのだから。


「学校長も将官達の悪ふざけだと思っていたわ。本当に受けないの?一点でも加点した方が得よ?」


「ありがとうございます。ですが、そういう取り決めですので。受けない理由は軍事機密ですので詮索も噂もご勘弁ください」


「し、しないわよ?…その時間は一応みんなと行動を共にしてね。終わり次第剣技の試験場にみんなで移動しちゃうから」


 本当に大丈夫だろうか?そう思うが、こればかりは教官を信じることしか出来ない。

 少し不安になるソウであった。


「ここよ」


 着いたのは普通の教室だ。前世との違いは床がタイルか木かの違いくらいだった。


「あそこがあなたの席よ。頑張ってね」


「はっ!ありがとうございました」


 そういうとレビュウ教官は教室を出て行った。

 それを確認してからソウは振り返る。振り返ると幾つもの視線が逸らされたのを感じた。しかし、ソウが振り向いても視線を切らない者達も何人かいる。

 そんな視線には気付かないフリをして、ソウは自分の席に座った。


「誰だアイツ?」「えっ!?カッコよくない!?」「あんな奴いたっけ?」「デカいな…」「み、見掛け倒しだろうよ」


 騒然となる教室。一部数少ない女生徒が黄色い声を上げるが、殆どが興味深々な声だった。

 その噂の的であるソウは、全く関係ない事を考えていた。

『今から筆記があって…その後魔法の試験が一刻…剣技が終わる頃にはお昼を大幅に過ぎるな…お腹は持つだろうか?』

 空腹の心配をしていた。







「では始め!」


 初めて見る試験官が教室に入ってくると紙を配り筆記試験が始まった。

 内容は帝国の歴史から始まり、軍事、計算、魔法、武具の管理の仕方など、多岐に渡る。

 この中で前世の知識が使えるのは計算くらいだ。後はソウがどれだけ頑張ったかに掛かっている。


(なぜか教官が横に張り付いているぞ?気が散るから何処かに行ってくれ)


 カンニングを疑っているのか、はたまた学力に興味があるのか…

 ソウが歴史を終えてキリが良くなったタイミングで、顔を上げると居なくなっていた。


(違う…後ろから視線を感じる…それも何故か複数人の…)


 いなくなったのではない。後ろに回ったのだ。そして何故か視線の数は増えていた。


(流石に試験中に後ろは振り返れないな)


 気を取り直して筆記試験に臨んだ。









「えっ!?歴史の試験で満点の生徒がいる?!」


 驚いている教官はどうやらこの試験問題の作成に携わっていたようだ。

 伝えたのは先程ソウを覗いていた教官である。


「間違いないですぞ。今、他の職員も見に行っておりますな」


「例年通り、わざと満点が取れないように工夫したのですけど…おかしいですね」


「前から見ておったのですが、おかしな仕草は見られんでしたぞ」


 何もしていないのであるから当然だ。


「わ、私も見に行きます!」


「うむ。私も他の科目の出来が気になる。一緒に行きましょうぞ」


 こうしてギャラリーは増えていった。









「ふぅ…やっと解放された」


 試験からではない。見にきていた教官達が、筆記試験終わりにソウを質問攻めにしていたのだ。


「お疲れね…それじゃあ案内するわ」


「はっ!お願いします」


 レビュウ教官がまたも案内をしてくれるようだ。

 元々ソウは他の生徒と共に移動するつもりだった。しかし、筆記試験終わりに名も顔も知らない教官達がソウを質問攻めにしてきた。

『私は外部受験生ですので、移動先がわからなくなります』

 そう断ったが、案内はレビュウ教官に頼むから質問に答えて欲しいとお願いされてそれが漸く終わったのだ。

 質問の内容は歴史でいうと、この前終わった王国戦についてだった。

 これはレンザ大尉の歴史の講座の中でも聞いていない問題だったが、ソウには関係なかった。なにせ当事者であるからだ。

 他の生徒は習っていない為、答えは全て勘になるだろう。万が一とてつもなく優秀な者が居れば、王国戦の情報を仕入れて答えられるかもしれないが、極めて難しい。


 満点を取らせないのは失敗したほうが人は学べるからだ。

 もちろん調子に乗らせない為でもある。が、教官からすればこの筆記試験で、どれか一つでも満点が取れれば調子に乗って良いとすら思っているほどの難問だ。


「筆記試験は満点だそうよ?」


 ソウを魔法の試験会場へと案内している最中、レビュウ教官がとんでもない事を言ってきた。


「…それって伝えたら拙いのでは?」


「そうね。ソウ曹長だから大丈夫でしょう?」


「まぁ、言いませんが…」


 今も現在進行形で世話になっている為、あまり強くは言えない。

 それに別に知ったところで不利になる事でもない。


「推薦者の数は伊達じゃなかったわね」


「偶々今回の筆記試験が簡単だったのですよ」


「…他の生徒には言わないでよね?嫌われるわよ?」


 どうやら筆記試験のレベルは例年通りのようだ。




 レビュウ教官の案内で、無事に魔法の試験会場に到着した。

 暫く自分の待機場所で静かにしていたソウだが、トラブルが向こうからやってきた。


「筆記試験で教官達の話題になったのはアンタか?」


 青髪短髪の少年がソウに尋ねてきた。


「さあ?」


 無視は良くないと考えて無難に答えた。問いがあまりにも抽象的だったからだ。


「調子に乗るなよ!俺が必ず首席で卒業するんだからなっ!」


「好きなようにすればいい」


「はっ!どうせ座学だけなんだろ!?まっ。精々魔法と剣技で恥をかかないようにな!」


 そもそもソウは魔法の試験は受けない。

 そして軍に染まっているソウは少し怒っていた。


「お前、まだ学生だろ?そしてこの試験を通過して無事に卒業出来れば軍に入隊してくる新兵だ。口の聞き方に気をつけろ。俺はお前が軍に入れば上官だ。学生だから一度目は許すが次はないからな」


「はぁ!?ふざけんなよっ!誰だよお前!俺はギース・ハルトマンだぞ!?」


 また知り合いの親族か…あれ?他にもハルトマンって名乗った人がいた様な…まぁ俺には関係ないか。

 その家名は流石のソウでも覚えていた。

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