14話 玉石混淆。
ルガーの魔力測定を終えた二人は結果を話し合っている。
「簡単にいうと化け物だな」
「他人事ですがあんまりだと思います…」
「その化け物が放った魔法を無効化する化け物の上の奴がいるんだが、なんて表現すればいいと思う?」
「化け物の上なら神じゃないですか?」
しれっと自身を神格化した。
ルガーから化け物の称号を取ると、もれなくソウにその称号はやってくる。その為ソウはジャックの言葉を否定できなくなっていた。
「よし。聞かなかったことにしよう」
「…助かります。それにしても250という値はそんなに凄いモノなのですか?」
「俺が35程でギリギリ才能あるくらいと言われていた。そしてソウも会ったことのある北軍魔法部隊隊長のリゲル・ナイーブ大尉が110で北軍最大と言われている。もちろん教養の無い平民出の隊員は除いてな」
リゲル・ナイーブ大尉は王国戦中にソウの魔法無効を証明する為に呼び出された人である。学が無ければ魔法は使えない為、態々平民の魔力を測ったりはしない。ソウが特別だっただけである。
「それは…確かに人外と言われても否定は出来ない数値ですね。ルガー。故郷の人達は皆同じ様に魔法が使えましたか?」
「はいっす。特に俺が魔法が得意だって事ではなかったっす。飛び出した幼馴染達の中でも上から数えた方が早いくらいで飛び抜けてはいなかったっす。普通っすね」
それを聞いてジャックとソウは顔を見合わせて頷いた。
「引き篭もってくれていて良かったですね」
「あんな威力の魔法を二百人が並んで撃ってきたならなす術がない。ベランバザールを滅ぼした後、南進してきたら次はここか」
「あのお肉の町はスルーしてもらえるでしょうか?」
二人が冗談を言い合えるのも、ルガーの故郷の者達が集落から出てこないと知っているからだ。
「無理だろう。良くても魔物への生贄に連れていかれるだろうな。俺はソウを盾にして生き延びるから頑張って死ぬなよ?」
「魔法が効かないといっても、魔法の衝撃で飛んでくる岩などが直撃したら死んじゃうのでダメです」
ソウに魔法は効かない。しかしその魔法の副次的に起こる物理的な力は普通に受けてしまう。ルガーの魔法のせいで起こった爆風も普通に浴びていた。
つまり魔法に対して完全に無敵なわけでは無いのだ。
魔法でソウは燃やせないが、魔法で燃やしたモノを浴びると火傷もする。ソウの特性は知ってしまえばいくらでも対策されてしまう。その為も含めて広めていないのだ。
「ソウくらい目が良ければいくらでも叩き落とせるだろう?頼んだぞ」
「前も言いましたが死地以外でお願いします。ただ…何故か嫌な予感がするのですよね…」
「やめろ。俺も引っ掛かっている事はあるが、口に出して現実になっては拙いと思い、言わなかったんだから」
二人には何か気になる事があるようだ。ルガーは話がわからない為、早く夕食にならないかな?と平和的な思考に浸っていた。何時ぞやのソウの様に。
〜別視点〜
「それはどこまで報告した?」
ここはベランバザールの街にある兵舎の中の応接間である。
そこにはハルトマン大佐とベルガルド・ラスプーチン中将の姿があった。
ラスプーチン中将はハルトマン大佐からの報告を受けてすぐにこの地へとやって来ていた。
「はっ!ディオドーラ大将に文を出しました。中身は今話した事になります」
「奴隷の事は?」
「…エルメス中佐との取引で報告していません」
それを聞いてラスプーチン中将の口角が上がった。
「中将閣下。あの奴隷の身元はすでに登録されています。それを脅しに使う事は不可能かと…」
「ちっ。そんな事はわかっておるわ!あの狡猾なジャック・エルメスがそんなヘマをするわけがなかろう!」
「はっ!申し訳ありません!」
「…しかし、その奴隷の故郷が人材の宝庫なのは間違いない。もし強力な魔法部隊を中隊規模で揃える事が出来たなら…陛下の覚えも良くなり…ゆくゆくは高位貴族へ…」
ラスプーチン中将の独り言は続き、ハルトマン大佐は置いてけぼりとなっていた。
「父上!何事でしょうか?」
線は細いがどこかジャックに似ている銀髪の青年が声を掛けるのは中年の銀髪の男性。
この男こそジャックの父であり、現エルメス家当主ヴィクター・ド・エルメス伯爵その人であった。
「お前の叔父からの手紙だ。読んでみろ」
「お預かりします」
エルメス伯爵から手紙を恭しく受け取ったのはウィリアム。ジャックの腹違いの兄であった。
「これは…!」
手紙の内容は『軍事機密故細かくは言えないが、大きな功績を得る目処が立った。それには人手が必要な為、私兵を借り受けたい』と記載されていた。
「貸し出すのでしょうか?」
「あの男に貸しを作るのは悪くない。お前の弟の件もあるからな」
「ジャック…目障りな…」
「ふん。私はどちらでも良かったのだ。だが今となっては引き返せん。失望させるな」
「も、勿論です!」
ウィリアムは返事をした後、部屋を出て行く。
その足で自室へと戻ってきたウィリアムは執事見習いの青年に暴力を振るいうさを晴らした。
「ジャックめ…最年少で中佐だと?叔父上は何をしているんだ!!上官ならさっさとアイツを閑職に移動させるべきだろ!!」
うっぅぅ…
「黙れっ!」ボグッ
「ぎゃっ!?」
痛みで呻き声をあげる執事見習いをさらなる暴力で黙らせる。
幼いジャックにしていた事をジャックがいなくなってからは別の者へと向けていたようだ。
「父上も父上だ!何が失望させるなだ!元々はお前の下半身がだらしないせいだろうがっ!」
親も親であれば子も子である。
「二人に任せていたらいずれあの事がバレる…俺がどうにかしないと…」
目の奥に怪しい光を宿した男の奇行は終わらない。
〜視点戻る〜
「ありがとうございました」
ルガーを伴い街に出ていたソウはメンテナンスに出していた魔剣を受け取ったところだ。
特に不具合はなかったが、小銭を惜しんで命を失えば事だ。石橋を叩いて渡る気持ちを常に心の片隅に置いているソウらしい行いだ。
「今日はこれからディオドーラ大将の食事会にお呼ばれします。ルガーは私の部屋で自由に過ごしていてください」
「了解っす。どんな食事が出るっす?」
「よくぞ聞いてくれました!ルガーも食事の喜びに目覚めた様ですね!指導の甲斐があったというものです」
何の指導だろう…ジャックが聞けばもはやスルーされる会話である。
「大将閣下は私が客なのだから好きなモノを言えと仰ってくださいました!神様の様な方ですが、一先ずそれは置いておいて、料理は牛肉のコース料理を所望しました!」
「牛肉良いっすね!コース料理がなんなのか知らねっすけど、楽しんできてくださいっす!」
教育は間違っていなかった。まさにそんな風にソウは鷹揚に頷くのであった。
「す、凄いです!ありがとうございます!」
ハーレバーの街でもさらに一等地にある立派な店の中で大きなテーブルに並べられた料理を見て、喜びの声をあげる子供が一名。もちろんソウだ。
「馬鹿者!先ずは長旅を終えられて帰還なされた大将閣下への挨拶が最初だろうが!」
端ない行いをする馬鹿を叱りつける声が店内に木霊した。
店に他の客はいない為、ジャックの声は迷惑にはならない。
「良い良い。若者に元気があるのは良い事だ」
見た目は近寄り難い武人そのものであるディオドーラだが、その表情は好々爺そのものであった。
「はっ!長旅お疲れ様でございます!本日はお招き頂き恐悦至極にございます」
「うむ。エルメス中佐も息災なようでなにより。此度はベランバザールでの労を労う会である。ゆっくりと寛いで欲しい」
「「はっ!」」
高級店に最上位者相手。寛げるわけもないが、ジャックが気がつけばソウは既に着席していた。
自分が可愛がられていると認識したソウに怖いものはない。




