表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/91

8話 時代に取り残された人達。

 




「ソウには尋問の経験はなかったな?」


 そう聞いてくるジャックの表情(かお)は、それがただの尋問ではない事を示していた。

 もちろんソウに普通の尋問も、拷問よりの尋問も経験はない。


「ないです。出来れば席を外したいくらいには耐性もないです」


「まぁ、そういうな。軍にいるならいつか必要になってくる。

 情報とは最大の武器だからな」


 それはわかっている。そう言いたかったが、尋問を拒否している手前言えなかった。


「わかりました。同席するだけですよ?」


「わかっている。聞きたいことがあれば言えよ?」


「その為ですもの。はぁ…非人道的な事は避けたかったのですが仕方ありません」


 生き残る為、手段は選ばないと決めた。そうであるならば尋問…拷問も一つの手段である。

 覚悟を決めて、捕らえた者に近づいていく。





「ど、どうしてこんな場所に連れてきた!?」


 こんな場所とは言っているが、同じ森の中だ。

 ただ隊とは少し離れた場所なだけである。

 縛ったまま抱えて運んでいた男をソウが地面に降ろした。


「話がしたかったからだ。まずはお前達の事についてだ。何者だ?どこの国に所属している?」


「な、何も言わないぞ!俺にお、脅しは通用しない!」


「大丈夫だ。脅すつもりはない」


 そう男に告げたジャックは持ってきていた鞄を降ろした。

 そして中から長さ15センチ程のアイスピックの様なモノを取り出した。

 アイスピックとの違いは針の細さだ。二回りは細く、とても氷は砕けそうにない。


「な!?脅さないって!?」


「脅しじゃない。話したくなったらいつでも喋っていいからな?…ちなみに俺は男の悲鳴は嫌いだ。叫んだら倍の苦しみを与える。よく覚えておけ」


 脅さないが痛みは与える。

 一々これを刺されたくなければなどと面倒な話は挟まない。

 喋らないなら喋りたくなるまで様々な行動をとるだけ。結局同じであった。


「えっ…?」


「まずは中指から行くぞ」


 勝手に始まる拷問。

 ジャックは後ろ手に縛られている男の手を取ると中指を握り、指先から針を爪の間に突き刺した。


 サクッ


「ぐがぁっ!?」


「…話を聞いていたのか?」


 グリグリ


 悲鳴を上げた男に対してジャックは針を爪の下で動かして応えた。


 その時ソウは耳を塞いでいた。

 ついでに目も。




「はぁはぁはぁ…もう許してください…」


 男は顔の穴という穴から水分を零して懇願した。


「それで?他に知っている事はなんだ?」


 この男は素性を明かした。

 自分達は北の山向こうにある集落から追い出されてここまでやって来たと。

 追い出された理由は若さからくる(ソウやジャックからすれば)つまらないモノだった。


「こ、故郷では二百人くらい住んでいる…ひっ!?います!」


 言葉遣いが反抗的だと感じたジャックは布をチラつかせていた。

 その布には触れた箇所に焼ける様な痛みを与える植物を煎じた粉が付着している。

 もちろんすでに使用済みである。


「国ではないのか?」


「は、はい…爺さん達から子供の時に聞いた話の内容が・・・・」


 その村は以前の魔物の大移動の時に生き残った人達がそのまま隠れ住んだ場所で、そのままそこは外部と一切の接触を絶っている集落であった。


「凄いですね。文字や言葉は大昔から同じなのですね」


 拷も…尋問が終わった事で、ソウが会話に加わってきた。

 男は尋問後すぐに話し出したが、ジャックはそれを聞かずに拷問(尋問)を続けた。

 最初に心を折らなくてはこの後に関わるからだ。


「魔物の大移動で一々リセットされるからな。いつからかは知らないが、大陸で言葉と文字は共通している。

 以前の大移動から閉ざされているのならこの者の故郷は何百年も外部と接触していないことになる。何故そんな事を?」


「そ、それは…聞かされているのは、人は醜いからそれで魔物が大陸を正しい道に戻すために暴れると。だ、だから、集落を出ないでここで一生を終える事が魔物が暴れない唯一の方法だと聞かされました…」


 ソウは開いた口が閉じなかった。

 まるで悪徳宗教のマインドコントロールじゃないかと。


 恐怖で人を縛る。

 集団で生きる人にとっては多かれ少なかれそれは使用されているが、そこには確固たる理由がある。しかしこの場合はそれに当てはまらないただのマインドコントロールである。


「馬鹿馬鹿しい。歴史上にそれを謳っていた宗教はあったが、今はない。

 それが答えだ」


 ジャックはその考えを一蹴した。

 集落の最初の生き残りはもしかしたらその宗教の関係者だったのかもしれない、と考えるがどうでもいいと思い直した。


「人は何かに縋らないと生きられない弱い生き物なのです。私達にとっての目的(アレ)が、彼らにとっては魔物の脅威から逃れることなのでしょう」


「一緒にはされたくないが…まぁそんなところなのだろうな」


「お、俺はこの後…」


「殺されるだろうな」


 ジャックは男に死刑宣告をした。


「い、いやだ!死にたくない!」


 男にとって地獄のような拷問(時間)を過ごしたのだ。ジャックの答えに反射で応えた。


「方法が一つだけある」


「えっ!?なんだ!?…いえ、なんですか?」


 ジャックのひと睨みで言葉を丁寧に紡いだ。


「俺の部下になる事だ。それもただの部下ではない」


「な、なる!なります!」


「奴隷だ」


「ど、奴隷?」「奴隷?」


 何故か疑問の声は二か所から上がる。

 そう言えばソウは常識がなかったな。とジャックは思い出した。


「奴隷とは帝国の身分の内の一つだ。立場は物と同じ扱い。意味はわかるな?」


「そ、それでも死ぬよりは…」


「遥かにマシだろう。俺の奴隷という事は他の者の好きには出来ない。

 この後に待っている俺の生易しい尋問とは違う本物の尋問も回避出来るだろう」


 その言葉が決定打となった。


「お願いします!私を奴隷にして下さい!」


「良いだろう。名は何という?」


「ルガーと言います!」


「よし。ルガー。お前は俺の奴隷だが、このソウがお前の教育係だ」


「えっ!?」


「しっかりと学ぶように」


 急に振られて驚きの声を上げるがスルーされる。


「まず帝国の奴隷制度についてだが・・・」


 ジャックの説明が始まる。その内容は複雑で長いものだったため、省略する。


 掻い摘んで説明すると、市民権が剥奪される。

 これは人ならざる物ということだ。一度剥奪された市民権が戻る事はない。奴隷はその主人が死ぬと財産として相続される。又は同時期に死ななければならない。

 そこはいずれジャックが死んでも相続されるようにするとは約束したが、信用を得るまでは出来ないと伝えた。殺されない為の予防線でもある。


 物である為、基本はどこへでも連れて行ける。

 奴隷の証として両手の甲へと焼印がされる。

 奴隷主は奴隷の管理をしなくてはならない。奴隷が犯罪を犯すと罪に問われるからだ。

 奴隷主であれば奴隷に何をしても問題とならない。

 契約時には奴隷となる者と主になる者の双方の同意(意思確認)が必要。


 などが列挙された。


「凄いですね。身分制度としての最下層という事ですか」


「そんなものだ。ルガー。了承するか?」


「焼印は痛いですよね?」


「残念だがそこは諦めろ。爪に針を刺すほどではない」


 そんな痛みの上位のものと比べられてもと思うが、奴隷になる前からルガーにはイエスという返事しか選択肢はなかった。





 街へと戻った一行は、ハルトマン大佐に説明は休憩の後にして欲しいと先に断りを入れて、役所へと向かった。

 もちろんルガーを奴隷とする為に。



 身分は帝国軍人の中佐が補償しているのだ。役所での手続きはすぐに終わる。

 焼印を入れる時にルガーが気絶してしまったが、それ以外問題はなく、兵舎へと戻った。


「それにしても気絶するほどか?」


「痛みはひとそれぞれなのでなんとも…ですが、故郷を飛び出したにしては、みんな覚悟が薄いというか…浅いというか…」


 ジャックはルガーの醜態に『本当に戦力になるのか?』と疑問を覚え始めた。

 ソウは確かに強くはあったが、戦っている最中に子供を相手にしているように感じていた。


「歳は18だと言っていたが、俺の傍には歴戦の曹長よりも太々しい未成年がいるから尚のこと子供に見える」


「誰のことでしょうか?私は繊細なので違いますね」


「…その発言がすでに太々しいだろ」


 ルガーは身体だけ大きな子供として見られていた。

 身長は今のソウと変わらない。帝国でも平民から見れば大柄である。

 貴族は食生活がいいので平民と比べると割と大柄が多い。特に軍人になるようなものは。


「それでなんと報告するのです?」


「なにも?このまま伝える。下手な小細工や嘘は足元を掬われるからな」


「…ルガーには使っていましたよ?」


 ソウの呟きは無視された。




 コンコンッ


「失礼します」


 兵舎の中の応接間へと二人は報告のためにやってきていた。


「ご苦労だった。それで?何かわかったか?被害は?」


 どうやらかなり気になっていたようだ。

 身を乗り出して聞いてくるハルトマン大佐に、ジャックは報告を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ