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7話 魔法を断つ。

 





「ば、馬鹿な…」


 ドサッ


「ふぅぅぅ」


 名も知らぬ敵が倒れた事を確認すると、止めていた息をゆっくりと吐き出した。


 敵はかなりの速さだった。だが、過集中状態のソウの目には慣れた速さであった。


「まさかコイツら全員この強さなのか…?」


 嫌な予感が頭をよぎった。

 もし、ソウが相手をした敵が、敵の中で普通の強さであれば、人数というアドバンテージは瞬く間になくなる。


「いや、可能性は高いな。考えるのは終わってからだ」


 そう呟くと隊員達がいる方角へと急いだ。





 相手が皆強い可能性が高いと思ったのは、これまでの状況からだ。

 まず身の隠し方。

 そして帝国兵の誰の剣にも相手の血油がついていなかった事。


 答えはすぐに目にすることとなった。




「ぐはっ!?」


 ソウは隊員達の戦闘場所に行くと、敵が背を向けていたのでこれ幸いと斬り伏せた。

 そのソウが目にしたのは何とか立っているものの、満身創痍の隊員達だった。


「くそ!ミギーがやられた!」


「ジレはなにしているんだ!?」


「まさかやられたのか!?」


 敵が何やら騒いでいるがソウは構っていられない。


「ハッ!」


 近くにいた敵へと迫り、スピードよりもパワーを重視した斬撃を放った。

 隣にいた仲間を急に失い動揺している敵は、その剣をナタのような刃物で受けるが…


 ザシュッ


「グボアッ」


 ナタごと喉を斬り裂かれて血を噴き出しながら倒れる。


「ゼレ!くそっ!コイツ強いぞ!」


 八人いた敵は残り五人。

 しかし、精鋭部隊で戦闘が可能なのはソウのみ。


 ソウは瞬時に状況を判断して、最善の方法を実行する。


 兎に角敵を減らさなければならない。

 まずは近くにいるものからだ。


「く、くるなぁ!」


 キンッ


 ソウの剣は相手の必死の抵抗に阻まれた。武器ごと斬り裂こうと剣を振るうが、うまくいなされていた。

 動揺はしているが、ポテンシャルは高い。

 守りに入られると人数の多い向こうに有利に働く。


 二、三回と何とかソウの剣をいなしていた敵が急に動きを止めて、ずるりと崩れ落ちた。

 敵の背後からは大剣を振り下ろした精鋭部隊員の姿が。


「ちゅ、中隊長ばかりにいい格好をさせるな!俺達は大陸最強の帝国軍だ!」


「「「「おうっ!!」」」」


 一人の掛け声に呼応して満身創痍だった精鋭部隊員に気力が漲った。こういう状況での立ち直りは敵よりも帝国兵の方が早かったようだ。


 息を吹き返した帝国兵を見て、敵に新たな動きが出る。


「くそっ!アレを使うぞ!」


「わかった!」


 何をする気かわからないが、好きにさせる訳にはいかない。

 ソウは剣を握りしめて敵へと駆けて行く。


「ゲラ!ジル!二人掛かりでそいつを止めろ!」


「わかった!」「くそっ!早くしろよ!」


 敵は固まっている。後方の二人が何かしようとして前方の二人が時間稼ぎをしようと前に出てきた。

 ソウは一人に斬りかかる。


 キィン


 甲高い音を残して敵の武器を真っ二つにした。


「げっ!?」


 まさか一太刀も合わせられないとは思っていなかった敵は驚愕に顔を染める。


「こっちだ!」


 もう一人の敵がソウの横合いから味方の援護の為に斬りつけた。

 ソウは武器破壊を行った状態から剣を返して斬り上げで迎撃に向かう。


 ギィン


 体勢が悪く力が入らなかったため、真っ二つにはならなかったが、相手の剣はかち上げられた。

 両腕が上がって万歳の形になった隙だらけの胴体に蹴りを入れて引き離すと、剣を無くしたもう一人の敵に刃を振り下ろした。


 ザシュッ


「グキャ!?」


 断末魔を聞きながら先ほどの敵へと視線を向けると精鋭部隊が袋叩きにしていた。


「この野郎!」「さっきはよくもやってくれたな!」「ま、まて…プギャッ!?」


 放っておいても大丈夫だと確認したソウの背筋に冷たいモノが流れた。


「死にやがれ!」「仲間の仇っ!」


 その掛け声と共に残りの二人が白く発光する。


「魔法だ!」


 後ろの精鋭部隊の誰かの声が聞こえる。


 ダッ!


 ソウは駆け出した。


「ちゅ、中隊長ぉおっ!?」


 またも後ろから声が聞こえるが気にしていられない。

 ()()はソウにしか止められないものだからだ。


 二人に向かい駆け出したソウの視界が白く染まる。

 その光に向かい、ソウは全力で剣を振り下ろした。


 ブンッ


 あまりの斬撃の速さに音が遅れて発生した。


 その斬撃は魔法と呼ばれる超常現象を打ち消し、全てをなかった事にした。


「は…?」「なんで?」


 呆気に取られている二人の元にソウがたどり着く。


「ま…」


 ザシュッ


 一人を物言わぬ骸へとかえる。


「こ、降参する!」


 もう一人に剣を突きつけると決着が着いた。


 辺りは血の匂いが充満している。


「し、死ぬかとおもった…」


 誰の呟きかわからない声に、精鋭部隊の隊員達はその場に腰を下ろした。






「他には居なかったのだな?」


 ソウは戦いの後、すぐに合流してきた特殊部隊に聞き取りをしていた。


「は!我々が確認したのもこれで全てです」


「そうか。アイツはお前達に任せる。運んでくれ」


 アイツとは生捕りにしたアイツの事だ。

 魔法やおかしな事が出来ないように、縛り上げて転がされたアイツに視線を向けて指示を出した。


「もう少しで本隊がやってくるので待ちませんか?」


「連絡が取れたのか?」


「はい。敵を発見した時点で隊員に狼煙を上げさせました。その隊員から返事の狼煙が上がった報告がありました」


「わかった。では周囲の警戒を頼む。精鋭部隊の者達は怪我の治療を」


「「「「「はっ!!」」」」」


 指示を出したソウは縛られている男へと向かった。

 魔法を使う仕草に(いざと)なれば首を斬り落とすためだ。





「はぁ……」


 ジャックは盛大な溜息を零した。横には落ち込んでいる少年が一人。


「いえ…仕方なかったのですよ?」


「わかっている。だが逃げる事を念頭に置いてなかっただろう?」


「はい…」


「まぁ、結果良ければだ。精鋭部隊の実践訓練にも、特殊部隊の訓練にもなったことだろう」


 ジャックはソウにもう少し警戒して欲しかったが、結果良ければ全てよし。それが帝国の在り方だ。


「賭けには勝ったが、ソウの頑張りに免じて割り勘でいいぞ」


「ほ、ホントですか!?」


 ソウが落ち込んでいたのはこれが原因だったのかもしれない。


「しかし、イェーリーの速さに魔法まで…こんな奴らが野放しになっていたなんて王国は魔境か何かか?」


「魔境が何かは知りませんが、奴らの実力は本物です。もし、私に魔法が効かないという特性がなければやられていたのは私達でした」


 以前にも紹介したが、魔法とは誰でも扱えるモノではない。

 確かな適正と確かな教養が必要な代物である。

 故に、戦争ならまだしも、野盗退治や肉食動物の駆除ではその事を念頭に置かない。


「魔境は魔物の話と同じ様に語られる御伽噺だ。気にするな。

 それに実戦で使える魔法は簡単ではない」


 そう呟き、思案しているジャックを見てソウは考えを言い当てる。


「まさか軍に登用するつもりではないですよね?」


「これだけの戦力だぞ?拷問の末殺してしまうには惜しい」


「素性もわからないのですよ?」


「それはこれから本人に聞くさ」


 悪い顔をしている。ソウはそう思うが、口には出さなかった。

 ゲンコツはお腹いっぱいだったからだ。

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