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40話 免れた最前線。

 




 夜の闇の中をソウとソウが育てた特殊部隊が駆ける。

 王都はその名の通りこの国で一番栄えている。つまりかなり大きいのだ。闇雲に探したところで見つけられるとは思えなかった。


「まさか過去の地球に同じような城塞都市があって、地下道の抜け道もあったから思いついたなんて言えないよな…」


 ソウの呟きは暗闇に溶けていった。


「中隊長。あそこがそうです」


 特殊部隊員の一人が一点を指し示した。それを聞いて茂みに隠れる。


「バレずに近付けるか?」


「一つ提案が・・・」


 ソウは闇雲には探さなかった。元々予想は立てていたのだ。

 ソウに地質学の知識はない。無いものには頼れない。ではどうやってその一点を探したのか。そしてそこに本当に地下道の入り口は存在するのか。


 ソウの言葉に一人の隊員が提案したが、それをしてもいいのかソウには判断できなかった。

 しかし、時間は刻一刻と過ぎ去っていく。


「やろう。それでバレずに近付けるなら。もし失敗しても責任を取らされるのは俺だけだ。思い切ってやれ。いいな?」


「しかし…いえ。わかりました」


 ソウは上官だ。部下に責任を負わせるわけには行かない。

 もちろんいざとなれば、全ての責任を背負い、脱走する心算だ。





 ソウがここを目的地と定めた理由は以下の通りである。

 王族が脱出する為の地下道であれば必ず見張りがいる。そして帝国に囲まれている今、出入り口には誰もいない。バレては意味がないからだ。

 だが、最後の逃走経路である地下道は逆に侵入経路にもなり得る。

 つまり見張っているはずなのである。それも帝国軍に気付かれないように遠くから。


 全く関係のない一点に注意を払っている見張りがいる。そこが入り口の可能性が高い。ソウはその可能性に賭けた。

 もし出入り口が王都から単眼鏡で見えないくらいに離れていれば諦める他ない。そこまでの広範囲はそもそも探索外だ。

 そして、その見張りを探しているとすぐに見つかった。尖塔から誰もいない林の方をずっと伺っている見張りが居たのだ。


 その林の側までやってくると次の問題に直面した。

 不用意に近づけないのだ。

 もし見つかれば地下道を向こうから埋められる可能性が高く、そうなると正規の方法か別の策を用いらなければならない。


 そこで特殊部隊の隊員が提案した。

 見つけた場所に隠れて近づく為に少し離れた木に火を放とう。それで見張りの目が離れた瞬間にそこまで移動する。という作戦。


 林にさえ入れたのならば、王都から確認の術はない。





 隊員の一人が囮の火事を行う為に離れていった。


「火が放たれたら突入する。いいな?」


 ソウの言葉に頷きを返して隊員達が身構える。


 囮の隊員は油と木屑を木の根元に広がっている落ち葉に降り掛ける。

 そして火種を投入した。


 夜の闇に少量の煙が立ち昇るが見張りの単眼鏡に動きはない。

 そして火が付いた。

 一度発火してしまえば直ぐに火は勢いづく。

 落ち葉を重ねた木の根元が豪快に燃え出した。着火要員の隊員は既に離れている。

 流石に煙も火も凄く目立った。もちろん見張りもそれに気付き、単眼鏡が動いた。


「今だっ!」


 燃え盛る木は林の反対側である。ソウ達が見つかる可能性は極めて低くなった。


 ソウの掛け声に飛び出した隊員達は王都からは見えない場所まで林の中を駆けた。







「見つかったのか…?」


 本陣天幕に戻ったソウは吉報を齎した。


「はっ!王都東側にある林の中にそれらしき入り口を見つけました!」


「良くやった!と、いう事はあの火の手はソウか?」


「そうです。見張りの目を誤魔化して近づく為に火を放ちました」


 ソウが齎した情報により場所に当たりをつけたディオドーラ将軍は、その付近で火災があった事と紐付けた。


「ば、馬鹿者っ!それならそうと報告してから行え!」


「はっ!全ては私の独断によるものです。罰は甘んじて受け入れます」


 一人の名前も知らない上官がソウを叱責する。こうでもしないと功績を全て攫われるからだ。主にジャックに。


「待たんかっ!!」


「はっ!」


「お前は指揮官か?いうてみい?」


「い、いえ…」


「ソウ中隊長。報告している時間が惜しいと判断したのだな?」


「はい」


「であれば軍に定められた法に明記してある通り『現場での緊急時の判断』の範疇である。そうだな?」


 ディオドーラ将軍に詰められた男は『お、おっしゃる通りです』と返す他なかった。


「それで?どんな場所でしたか?」


 ディオドーラ将軍に代わり、バハムート師団長がソウに仔細を尋ねた。





「やはり少数で向かうしかなさそうですね。王都…恐らく王城内に繋がっているでしょうが、そこの出口を固めた後、林の側で待たせた部隊を逐次投入しましょう」


 ソウの説明を聞いて、バハムート師団長が纏めた。


「うむ。それしかあるまい。しかし…侵入部隊をどうするか…向こうも死に物狂いで排除に動くだろう。死闘は免れんな」


「はい。北軍で守りに強い者達を集めて投入するべきかと」


 バハムート師団長とディオドーラ将軍の話が纏まりかけた時、一人の人物が声を出した。


「そちらのソウ中隊長にやらせてみては如何でしょうか?」


 その言葉にソウに悪寒が走る。あまりにも死亡率の高い作戦だ。アリの巣から出てきたアリを王国は潰しにかかる。そこで生き延びれるかはもはや運に左右されることだ。


「ラスプーチン中将。それはダメだ。確かにソウ中隊長は強い。だが、今回は守る事が重要である。斬り開く時であれば頼りたくはあるがな」


 ラスプーチン中将と呼ばれた北軍のもう一人の中将はディオドーラ将軍の言葉に糸のような目をさらに細めて口角を上げた。


「なるほど。確かに確かに」


「良いな?では、他の者達で推薦者を決めよう。エルメス少佐。ソウ中隊長。ご苦労であった。二時間後に決行する故、それまで休んでいてくれ」


「「はっ!」」バッ


 ソウ達は漸く解放された。






 天幕内で仮眠を取っていた二人の元に本陣から報せがきた。


「わかった。すぐに出る。待っていてくれ」


「はっ!」バッ


 やってきた兵に外で待つように指示を出した後、人が入ってきても起きなかったソウを起こす。


「起きろ。呼び出しだ」


「ふぁい…」


「そこの水瓶で顔を洗え」


 寝惚けているソウにシャキッとしろと、洗顔を勧めた。


「はぁ…スッキリしました。私は道案内だと思いますが、少佐は?」


「知らん。失敗した時の首くらいじゃないか?」


「…そんな怖い事を言わないでください。もし、そんな事になったらどうやって逃げます?」


「そうはならんだろうが、最後にジタバタはしたくないな」


 ジャックの潔い言葉にソウはなんの感銘も受けなかった。

 生き延びてこそ。

 もしジャックがその様な場面を迎えたらソウはどう守ろうかと思案するのであった。






「隊の者が入り口に張り付いています。ここからは見えませんが、あちら側に向かえば見えてきます」


 王都突入部隊を案内しているソウは木陰から指揮官に説明した。


「わかった。後は合図を待てばいいのだな?」


「はい。バハムート師団長からそう伺っています。見ればわかると」


 時間がない為、説明は少なかったが、あの師団長がそういうならそうなのだろうと考えるのはやめた。


 林の近くに百名が待機していた。

 その時、王都に何かが投げ込まれた。


「あれは…投石?弓も」


「そうですね。恐らく見張りを狙うのを誤魔化す為に至る所で行っているのでしょう。

 あそこの見張りに攻撃が向かった時に突入して下さい」


「わかった。皆、聞いていたな。準備しろ」


 突入部隊の指揮官が指示を出し、他の者達が頷いて応えた。


 バハムート師団長は見張りの注意を逸らすために、戦場ではよく行う、夜間の嫌がらせを偽装工作に選んだ。

 これであれば狙いは誤魔化せる。ソウの火事よりも余程。

 あの時は時間も人手もなかったからだ!と、ソウは心の中で言い訳をしていた。


「今ですっ!」


 ダダダダダダダダダダッ


 百人の完全武装の男達が林へと走っていった。

 バハムート師団長から借りた単眼鏡を覗いてソウは確認している。

『どうかまだこちらを見ないでくれ…』

 心の声が喉まで出かかるが、出る前に百名は林へと消えていった。


「はぁ…人に任せるって俺には無理だな…」


 心労で倒れそうになる身体に鞭を入れて、本陣へと報告に戻る。

 目標では安全な場所に行きたいが、前線の方が気が楽だとソウは感じていた。

 それは気質の問題である為、努力では中々変える事は難しい。


「それを思うと少佐ってつくづく人を率いるのに適してるなぁ…」


 ジャックは知らないところで褒められていた。

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