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39話 隠された道。

 




 日が沈み、設営を終えた帝国軍陣地には嫌な空気が流れていた。


「なぜ破れんのだっ!?」ドンッ


 居並ぶ将校達の前でディオドーラは激昂した。


「門に傷も付いておらん!お前達は部下に死ねと命じるだけの木偶の坊かっ!?」


「お、畏れながら将軍閣下。門が破れぬのであれば城壁に狙いを変えるのは如何でしょうか?」


「あの城壁の厚みは城壁の上ですれ違う王国兵を見ればわかるであろう?何を見ておるのだ…」


 口を開いた部下にため息が出そうになるのを堪える事が精一杯であった。

 それ程追い詰められている。


 全力で突破を試みたのだ。力技で無理なら何か策がなければ突破は出来ない。

 そしてその策を考える時間すらないのだ。


「ディオドーラ将軍」


 天幕が重たい空気になる。そこに声をあげる者が一人。


「なんだ?バハムート師団長」


「我々では早々に答えは出ません。ここはより考える頭を増やす事を提案します」


 天幕内がバハムート師団長の言葉で騒然となる。

 バハムート師団長は武はそこそこだが、文の道で右に出る者は居ないとさえ北軍で囁かれている。そんなバハムート師団長が誰かの知恵が欲しいと言ったのだ。


「……それはあの2人か?」


 よもやそこまで評価しているのか?と、ディオドーラ将軍は改めて確認した。


「そうです。もちろん何も出てこない可能性が高いでしょう。ですが、私はそれでも聞いてみたいと思います」


「うむ…」


 ディオドーラ将軍は長い軍歴から役割分担こそ軍の評価するところだと考えている。

 役割分担さえしっかり出来ていれば、(トップ)が盆暗でない限りは強さは保てると。数が増えても烏合の衆とならず、より強くなれると。

 名将とは妙案を思い付く器ではなく、部下を適材適所で使いこなす者である。そう信じているのだ。


 故に少佐であるジャックはまだしもソウには頼りたくなかった。

 まだ成人していない子供。

 その役割は親元で伸び伸びと過ごすこと。


「将軍。良いではないですか。私も彼等の意見を聞いてみたい」


 悩むディオドーラ将軍にサザーランド副将軍が自身の気持ちを伝えた。


「サザーランド…しかし…」


「新しい形を見てみたくはないですか?」


 更に追い討ちを掛けた。


「…そうであるな。我等もいい歳。後進に期待しても良いのかもしれん」


「はっ!直ちに!」バッ


 ディオドーラ将軍の言葉にバハムート師団長が応えた。気が変わる前に確定させたのだった。






「あの…寝ようとしてたのですが?敵襲でもないですよね?」


 明日の為にしっかり休んでおきたかったソウは少し棘のある言い方をした。

 万全の体調が生き残りの可能性を上げる事を、この少ない戦争の経験で知っていたのだ。


「大隊の主力を俺も休ませたかったが事情が事情なんだ」


「…何でしょう?あまり聞きたくありませんが…」


「本陣天幕の会議に呼ばれた。今日の軍議は大隊長以下は欠席のはずだったから、呼び出しが掛かった時には俺も驚いた」


 ソウの視線が空中を彷徨う。少しの間、現実逃避したいのだ。


「最悪…程ではないにしろ、歓迎は出来ませんね。まぁ王都に忍び込めとか言われなくて助かったと考えますか…」


「そんなメチャクチャな命令は命令とは言えんぞ?」


「本当にそうでしょうか?私が指揮官で今日の内容ならば、かなり高い確率でそう命じますね」


「…じゃあ呼び出しで済んで良かったと思おう」


 ソウはその言葉に頷いて、ジャックと共に本陣天幕を目指した。






「急な呼び出しで悪いが早速本題に入らせてもらう」


 二人が本陣天幕に着いて挨拶するなりディオドーラ将軍が二人に告げた。


「「はっ!」」


「二人に問う。どうすれば早急に戦況を好転出来る?」


 ディオドーラ将軍の問いにジャックは真っ直ぐ机を見る。思考を巡らせている様だ。それを居並ぶ将校達は静かに待った。


「ん?ソウ中隊長は考えていないようですが…しっかりと考えなさい」


 ジャックの様子を観察していたバハムート師団長が隣に立つソウを見て命令した。

 ソウはジャックをチラ見した後は居並ぶ将校の顔や仕草を観察していたのだ。明らかにサボっている様に見える。

 普段誰に対しても温厚な口調を崩さないバハムート師団長ですら、このタイミングだけは語尾が強くなった。


「はっ!…一応考えは既にあります。正しいのかどうかは情報が少ないので何とも言えませんが」


 返事をしたソウの続く言葉に、一同の視線が集まる。


「ほ、本当ですか?」


「は、はい。先程も言いましたが情報が少ないので…」


「ソウ中隊長!教えてくれ!何が見えた?!」


 ディオドーラ将軍が周りを気にせずに前のめりに聞いた。

 ここで突破口が見出せなければ、何の為に王国を落としたのかわからなくなる。

 忠誠を捧げる皇帝は罰する事はしなくとも内心許しはしないだろう。

 何よりも後10年もないだろう軍人生活で、自身の華々しい軍歴に汚点を残したくはなかった。


「王都は水をどうしているのでしょう?」


 話し始めたソウはいきなり周りに問いかけた。


「それが王都攻略に?」


「ですので情報が足りません。少なくとも今日のやり方では壁は崩せません。では別の手を考えなくては。それはここに座すお歴々の方も同じ考えに辿り着いた事かと思います」


「お、王都の水はどうなっている!?」


 名前も知らない高官の質問に、遠回りさせられる。そこにディオドーラ将軍の声が天幕に響いた。


「はっ!確か地下水を利用した井戸などが主流とか」


「どうだ!?ソウ!」


「では地下道を探しましょう。地下水脈があの丘の下にあるのであれば、それより浅い地下道があると考えられます」


 誰かの言葉にソウは自身の考えを少し裏付けられた。

 丘という事は()()よりも高い場所にある。そんな場所から地下水脈があるところまで掘る技術が昔から王国にあるのであれば、それよりも浅い場所に地下道を作る事は技術的に可能だと思ったのだ。

 可能ならば造らない理由はない。


「何故そう思うのですか?」


 バハムート師団長がソウに質問した。


「強固な城壁は時に退路を断ちます。この城壁は堅牢です。もし王国王都が滅ぼされる危険性があるのであれば壁を登って越えられるか、()()()()()()()()()()攻撃された時です。

 その備えはないのでしょうか?」


 ソウの説明に天幕内の人達が思案する。これだけの大人がいてもまともに考えているのは一握りだけだろう。


「それは…あり得るな。これだけ堅牢な守りなのだ。やられるとしたら内からの攻撃か、内に入られた時。

 戦争でも同じだ。本陣の守りは堅いが必ず退路は用意する」


「探しましょう。恐らく考えていてもこれ以上可能性が高いモノは見つかりません。今であれば夜の闇に紛れる事が出来ます。

 もちろん指示を出した後も軍議は続けます。次策が思い浮かべばそれも検討しましょう」


 ディオドーラ将軍の言葉を後押しする様にバハムート師団長が提案する。

 もちろんこの二人に意見出来るものなどここにはいない。そもそも代案を出せないのに否定する事など出来ないのだ。

 そんな事をすれば、ディオドーラ将軍の切れかかっている堪忍袋の緒が切れてしまうことは明白である。





 北軍と辺境伯軍の斥候部隊を全投入して地下道の入り口を探させている。


「何?自分も行きたいだと?」


「はい。言い出したのは私です」


 指示を出し終えた天幕でソウが地下道探索に志願した。

 この探索が成功しなければソウもジャックも困る。

 階級から責任を負わされる可能性は低いが、ディオドーラ将軍達が総入れ替えにでもなれば、折角手に入れた()()を手放さなくてはならなくなる。

 さらには出世の後押しも。


「それはいいが…一人では行かせられんぞ?」


「はい。第四大隊の小隊を一つ帯同させます」


「わかった。本当は何か別の案を期待していたが、頼りきりになるのはいかんな。見つかる事を期待しているぞ」


「はっ!」バッ


 ソウはディオドーラ将軍に敬礼で答えて、ジャックとは視線で会話した。


 夜の闇に駆け出したソウは、果たして目的のモノを見つけられるのだろうか。

 時間は残されていない。

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