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38話 城塞都市ハーレバー。

以前の話が全て改稿されていますが話に変更は一切ありません。

『段落の先頭を一つ下げる』

機能をマスターしたので全てそれを使った為です。


少しでも読みやすくなっていれば幸いです。



 




 バハムート師団長に指名された魔法使いが、自身の予想を伝える。


「私が以前魔導具の開発に力を入れていた時に偶々見つけたのですが…」


「ちょっと待て」


 そこにディオドーラ将軍が口を挟んだ。


「はっ!」


「もう少し簡潔に話せ。余計な話はいらん」


 ディオドーラ将軍は普段ソウに見せている口調や態度とは違い、仕事の顔をしていた。

 頭の悪い奴はいらん!と、ばかりに注意をした。


「つ、続けます…魔導具、魔剣には魔力を通して使用するものが殆どです。中には触れるだけで勝手に魔力を吸収して発動するものも。

 恐らくその魔剣もその類のものかと。

 その効果は『効果を消す』又は『効果を弱める』です」


「それは剣の威力や斬れ味などを?」


「恐らくは…そうかと」


 魔法の勉強が中途半端だったソウにはわかりやすい説明だった。


「要は封印みたいなモノですか?常時発動型ではなく、魔力に触れた時のみの」


「そ、そうです!よく知っていますね!封印など我々魔法使いでも『黙れ』はっ!」


 呼び出された魔法使いの扱いは不憫であった。しかし、これが普通。ソウの扱いが特別なのだ。そして特別は良くもあり悪くもある。


「流石ソウである!自身が使えない魔法についても造詣が深いとはな!まさに神童を超える神童の名に相応しい者よ!」


 ディオドーラ将軍は手放しで褒めて、周りも三名を除いて皆同じ様に褒めた。

 ソウは魔法使いとの扱いの違いに居心地が悪くなっていたが、何とか口角を上げて応えた。


 やる事は済んだので天幕へと戻る事に。





「つまりソウはこの魔剣に選ばれた稀有な存在という事である!」


 天幕へ戻った後もソウへの賛辞は止まらない。

 しかし言っている事は間違っていない。

 魔剣とは遥か昔、今よりも魔法の研究が進んでいた時代に造られたモノと言われている。

 大昔に何かしらの理由で造られた事は間違いない。それは現存する魔剣の数が少ないことからわかるだろう。

 便利なはずの魔剣は大量生産できなかった。そしてその数が少ない魔剣に使用者を選ばせるモノを造って遺したのだ。

 そしてその魔剣はソウの出現により、日の目を見ることとなった。


「しかしわかりませんね。文献によると魔剣が造られていた時代にも、魔力がない人など存在していないとされています。

 それなのにこの魔剣を造った意味とは…」


「バハムート師団長。それはまた別の機会に」


 バハムート師団長はわからないままにするのが、どうやら嫌な様だ。

 サザーランド副将軍がさり気なく会話を中断した。


「でも良かったです。何となくですが、この剣の事が知れて。この魔剣に恥じない様にこれからも精進していきます」


「うむ。頑張りなさい」


 こうして穏やかな日常は終わりを迎えた。

 その日はそこで解散となり、翌日からは行軍が再開される。再び戦中に身を置くことになるのだ。







 北軍と辺境伯軍の合成軍はハーレバー王国王都へと向けて進軍を再開した。

 ここから王都までは三日の距離だ。すぐ近くに大きな街はあるが、帝国軍はそこを無視して進む。

 もちろん調査済みである。

 斥候を街に向かわせたが、そこには軍は居なかった。

 それだけではなく街の食糧もかなり心許ないくらいに接収されていて、近寄る方が危なかったのだ。


 もし食糧危機が原因で暴動が起き、何万人もの一般人を相手にすればかなりの損害が出る。

 最悪は壊滅してしまうだろう。それだけ死に物狂いになった人々は恐ろしいのだ。


 しかしあくまでも一般人。そこを通過したところで後から軍の様に纏まって王都や副都に向けてやってくる事は可能性としてかなり低い。

 もちろん歴史はクーデターや革命などを示唆するが、それは計画立てて起こすモノであり、王国民には余りにも時間がなかった。


 これまでは挟み撃ちを警戒していたが、それはこの状況が否定していた。


 次は別の問題が出てくる。

 時間だ。

 この状況から読み取れるのは帝国軍が王国を落とした後、旨みが減るという事だ。

 副都ほどではないにしろ、かなり大きな街が餓えに苦しむ。それを助けられれば後でいくらでも回収する事は可能だが、そのタイムリミットは迫ってきている。


 それもこの一つの街だけではないだろう。

 王都近郊の街から限界まで食糧を集めていると見るのが普通だ。


 つまり王国は持久戦しか残されていないと判断したという事。

 そして持久戦に持ち込まれた瞬間にこの戦争の勝者はいなくなる。

 故に短期決戦。


 帝国軍はこの土壇場で戦う前に苦戦を強いられていた。

 しかし…


「安心しろ。帝国軍はこの様な状況を何度となく突破してきた。俺達は自分達に与えられた仕事を熟すことに集中しよう」


 行軍初日の野営地でジャックが中隊長達にそう説いた。

 ロイドの様に歴戦の猛者もいれば、能力は高いがまだまだ経験不足のソウのような中隊長もいるのだ。


「王都より南の王国軍は東軍が抑えてくれている。王都は堅牢だと言われているが、我々帝国軍に崩せぬ国はない!」


 ジャックは大隊長として兵の士気を上げる。

 この土壇場で出来ることなど少ないのだ。しかし少ないからといってやらない理由にはならない。

 少ないからこそ一つも漏らさずにやり遂げる。

 それが将の器なのかもしれない。






 陣地出立から三日後、予定通りに王都を視界に入れる事が出来た。


 王都はどうやら丘を囲む様に造られている。

 ソウ達がいる王都より少し低い位置からでも、城の尖塔がしっかりと確認できた。


 普通人の文明が発展するには水が必要である。

 その為人々は水辺付近に街を作ってきた。

 しかし王都は丘の上にある。この造りがここを難所と呼ぶ所以である。


 人は登りながら戦うのを不得手としている。歴戦の帝国兵達はこの街を見て、攻略の難易度に気付き顔を顰めた。


 最早王国に逃げ場はない。

 そして帝国には時間がない。


 帝国は城塞都市『ハーレバー』攻略の為に大門への一点突破陣形で布陣した。


「王国を落とすは容易い!しかし、我らには粘る東軍や、新たに帝国民になる民達が待っている!一刻も早くこの戦争を終わらす為に今一度力を振り絞るのだ!

 帝国に栄光あれっ!!」


「「「「栄光あれっ!!!」」」」


 ディオドーラ将軍の檄に布陣を終えた帝国軍が応えた。そして…


 ゴーーンゴーーン


「出撃ィッ!!」


 各大隊長から声が上がった。


 副都戦で見せた改造荷車での攻城兵器などない。車輪は上り坂では逆効果だからだ。

 そして時刻は間も無く夕刻を迎える。


 空が茜色に染まる前、王都大門前には大木を抱えた帝国兵達が群がった。

 迫る大木の数は10以上。

 王都を護る門は分厚い鉄製。


 迫る帝国軍に対し、王国軍は堅牢な城塞の上から矢や投石で妨害を試みる。


 降り注ぐ飛来物を掻い潜り漸く帝国兵が門へと辿り着いた。

 門の大きさは一枚横3メートル高さ8メートルの両開きの門である。

 その門に大木が衝突した。





「私達は行かなくていいのですか?」


 ソウは戦場を見つめながら横にいるジャックへと伺った。


「俺達は功を積み上げすぎたんだ。守備兵としてここを護ることがここでの仕事だ。それともソウはあそこに混ざりたいのか?」


 ジャックが顎で指し示した場所には多くの帝国兵が倒れていた。転んで後続に踏まれた者や、飛来物の直撃により死んでしまった者達だ。


「…卑怯と言われても行きたくはないです」


「同感だ。俺もここで死ぬわけにはいかん」


 今回の作戦では遂に第四大隊は戦場から遠ざけられた。

 副都戦で活躍出来そうになかった場所に配置しても功績を挙げたのだ。

 致し方ないが、二人にとっては有難い采配であった。




 その日、帝国軍は(いたずら)に被害を出しただけに終わった。

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