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19話 大切な食事事情。

 




 あれから進軍して問題なく副都に着いた帝国軍は、王国軍が副都内に入って行くのを見届けて野営の準備に取り掛かった。

 副都は外壁という塀に囲まれており、その塀は高さが10m無いくらいで厚みもあり堅固そうだ。


 お偉い人たちは軍議に忙しそうだが、たかが上等兵に過ぎないソウには関係ないことだった。


「そっちを持ってくれ」


「はい」


 五人が雑魚寝出来るテントを二張り建てた第一小隊が、次に向かったのは配給所だ。

 ここではその日の食事をもらう事ができる。


 人は飲み食いしなければ動くことは出来ない。どんな激戦区であれ、戦場には必ず炊事を担当する部隊がいてそこで食事を得られるのだ。


 例外は100人以下での任務の場合や、不意に自国に攻め入られた時などくらい。


 今回はそのどちらにも当たらない為、こうして配給の列に並んでいる。


「今日も乾パンとスープか」


 そろそろ肉が欲しいと思うのは、贅沢にも村や街で毎日食べてきた弊害なのかもしれない。

 乾パンはパンを何度も焼き固めて水分を飛ばした、保存がきく硬いパンの事だ。


「小隊長は初陣でしたね。帝国軍の食事はかなりまともな方ですよ。量も多いですし」


 これでまともなのか…と、ソウに戦慄が走った。初陣では感じなかったのに…


 前に並んでいた兵が食事を受け取り、ソウの番がやってきた。

 確かに器は大きく、前世であれば乾パンが無くとも十分一食に足りそうだったが、今世のソウにはやや物足りない量であるのは致し方ないこと。


 椀と乾パンを持って小隊用のテントに戻ると皆が揃うのを待つ。

 3分程で全員揃った為、食事を始めた。


「このスープですが、野菜がゴロゴロと入っていますよね?どうやら乾燥させた野菜をここで水に浸けて戻してから使っているようです。

 他の国では野菜を細切れにした、塩味の効いていないスープに乾パンだけと以前捕虜から聞きました」


 食事中にアーノルドがソウに色々教えてくれた。自国を攻められている敵国の兵が、泣きながら食べていたと聞いた時は、帝国軍で良かったと心から安堵していた。

 そもそも軍に入らず村に残っていれば、ソウ一人くらいであれば肉は食い放題だったのだが…たらればは不毛だ。





「中隊長からの報告だ。本日の見張り業務はなし。明日に備えてしっかりと休むように、と。

 後…パーカーとアーリーは着いてきてくれ」


 ロイド曹長からの伝言でこれからジャックのところに報告に行く事になった。パーカーとアーリーも当時の状況報告に連れてこいと指示を受けて。


 小隊のテントを出た3人は第四大隊本部天幕を目指した。

 テントはよくみる軍用テントであり、天幕は大掛かりなモンゴルのゲルに似た物をイメージする感じだ。


 天幕の前にいた兵に名乗ると中に通された。


「第一中隊第一小隊ソウ以下二名。お呼びにより参上しました」


「よく来た。呼んだのは質問があるからだ」


 ソウの名乗りにジャックが応えて、その後、二人に質問をぶつけた。

 内容は確認のようなモノが殆どだったので割愛する。


「良くやった。二人の事は上にしっかりと伝えておこう。戻っていいぞ」


「「「はっ!」」」バババッ


「小隊長は残れ」


「…はっ」


 部下二名と共に戻って休もうと思っていたソウに待ったが掛かる。

 二人が退室したのを見計らうとジャックが口を開いた。


「あの二名の事は知っていたのか?」


 いつもの口調だった為、ソウもかしこまりすぎた口調はやめて話し出した。


「いいえ?パーカーが元猟師だったのは予想していませんでした」


「そうか…ソウは運もあるようだな」


「その事については、信心深く無い私も、神に感謝したモノです。敵の見張りを逃して、軍に損害を与えれば私だけでなく少佐も軍法会議モノでしたから」


「それを狙ってした奴らがいる事が問題なんだがな」


 ジャックが言っているのは北軍の事だ。

 ただでさえ戦時中で忙しいのに、味方にも敵がいる事に頭を悩ませた。


「まぁ、中将閣下が釘を刺してくれたから、これからは減る…表立ってはしてこないだろうが」


「そうでしたか。これで中将閣下は味方と?」


「で、ある事を祈る」


「ただのこちらを欺く為のパフォーマンスだと?」


「俺達は軍人だ。軍人は最悪を想定して行動する。可能性がゼロでないなら除外できんさ」


 なるほど…疑えばキリが無い事だが、命が掛かっているのだ。ソウは納得した。


「そういった策略も踏まえて、これからソウの引き抜き合戦が始まる。恐らく戦後だろうがな」


「そうですか」


「?興味ないのか?出世をちらつかされるぞ?」


「出世は手段の一つに過ぎません。ジャック少佐の所にいる方が死にそうにないので、それは無用の心配です」


 態々面と向かって話したかった事はこれか。と、ソウは気付いた。

 生き残る事がソウの最大の目的であるが、ここまでの恩を仇で返すような真似はできる限りではあるがするつもりはない。

 それを感情論で伝える事はせず、理で説いたのだ。


「そうか。まぁ俺もみすみすソウをくれてやる気は無いが、聞いて安心した。

 ああ。それから。これは褒美だ。とりあえずのな」


 ジャックがそう告げて差し出してきたものは…


「に、肉…」


 ジュルッ

 そんな擬音がソウから聞こえてきそうな食いつきだった。

 ソウの前には焼いたばかりであろう、美味しそうな匂いを湯気が運んでいるステーキが、皿に乗って差し出された。


「部下の手前もあるだろ?ここで食っていけ」


「はっ!ありがたき幸せにございますっ!」


「………」


 変わり身からの心からのお礼を聞いた気がしたジャックは『コイツ食べ物で簡単に釣られてしまうのでは?』と心配事が増えるのであった。


 肉を食べたソウは徐にジャックに質問する。


「そういえば、王国軍に援軍はないと考えて良いのですよね?」


「なんだ?珍しいな。遂に軍事に興味が出てきたのか?」


 ソウから自発的にこうした事を聞くのは初めてのことだった。


「いいえ。考えが合っているかの確認です。少佐と同じです」


「くっ…重ね重ね合ってるよ…」


 ジャックの言葉に満足そうにして、ソウは天幕を後にした。







 王国軍から散発的な嫌がらせはあったが、帝国軍は無事に朝を迎えた。

 そして布陣が完了する。


「王国軍はついに民に泣きついた!そんな情けない敵に負ける道理などない!帝国軍の勇敢な者達!剣を持て!王国軍を蹴散らすのだっ!!」


 オオォォオオー

 オオォォオオー


 帝国軍から地響きのように声が広がった。

 ソウは名も知らない上官の言葉に『モノはいいようだな』と剣を掲げた。


「我々も配置に着くぞ」


「「「はっ」」」


 中隊長の言葉に敬礼を返して後を着いて行く。

 末端の軍人には作戦など知らされない。もちろん中隊長も言われた事をこなすだけだ。

 作戦を知っているのは全体の軍議に参加している大隊長以上だけだ。つまり第四大隊ではジャックの事であり、作戦を伝えているのは周りの者だけである。


 ソウ達第四大隊が布陣したのは来たところとは反対側にある副都東門であった。


 この副都には戦地から一番近い西門とソウ達がいる東門の他にもう一つ南門が存在する。

 帝国軍が攻めるのはどうやら西門と南門からのようで、この東門には第四大隊の他には第二師団の第四大隊の合計二千しか布陣していない。


「どう見る?」


 またもロイドがソウに聞く。


「また藪から棒ですね…それはどういう意味ですか?」


「そりゃあ俺達の扱いだ。別に命令されたらそれに否はない。だが知ってる方が心構えが出来るだろう?」


 一理ある…か?と思うが、上官からの質問に答えない訳にもいかず。


「どうしても少佐に汚点を付けたいのでしょう。逆に言えばその案が通ったということは、中将閣下は少佐の手腕を認めているとも言えます」


「だから!なんでだよ!そこを教えろ!」


 またも説明足らずが顔を出した。


「…すみません。ここにはどんな人達が布陣していますか?」


「第四大隊が2個だ。まぁ三割以上が新兵だがな」


「はい。そうですね。他の門は?」


 ソウの言葉を聞いて、何やらロイドがしてやったりな顔をした。


「わかったぜ?ここからは攻めないって事だな!だから他の場所で攻撃が失敗しないように新兵をここに集めたって事だな!」


「…それは当然です。向こうは敗走したといってもまだ万を超える大軍なのですよ?重要なのはなんで攻撃側が不利と言われる攻城戦なのにこんな布陣を敷いたかです」


「そりゃあ攻撃する所に戦力を集中させる為だろうよ」


「ええ。ですが攻城戦は被害も多くなります。なのに態々捨て駒にするのに都合がいい新兵を減らしてまでここに配置したのには、それ相応の理由があるはずです」


「それが少佐を嵌める為だと?」


「言葉が強過ぎますが、そういうことです。では我々の戦いとはなんだと思いますか?」


「…逃げ出す王国軍を止める?」


「凄い!正解です!!」


 ここまで的外れだったロイドが、正解するとは思ってもいなかったソウは大袈裟に驚いた。


「お前馬鹿にしてるだろ?…まぁ事実だからいいか。で?他には?」


 いいのか…


「人が逃げる時ってどういう気持ちですか?」


「そりゃあお前…命が大事だからな。文字通り死に物狂いで…そうか。それで少佐に…」


 ロイドが理解したところでソウは詰めの説明に入る。


「わかって頂けたようで。攻城戦で与えられるダメージは実際には微々たるものです。なぜなら攻撃側は建物や物を攻撃しますからね。

 仮に外壁や門を崩すのに成功すれば、王国軍は雪崩となってこちらの門から逃げ出してきます。死に物狂いで。

 それを新兵込みのたった二千で止めなくてはなりません。

 増援は見込めないでしょう。逃げる相手の後ろから斬りかかる方が被害は少なく手柄は多いですからね。

 だから今、ああやって馬車で大楯を運んで来ているのでしょうね」


 ソウの指差す方にロイドが目をやると、何台かの馬車が東門に布陣している部隊に近づいてきた。

 ソウの予想通りであればあの中身は大楯、もしくは組み立て式の防御柵が積まれている。


(偵察の次はおとりか…)


 ソウの呟きはロイドには拾えなかった。

間話も含むとキリよく20話目ですので、挨拶を。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

これからも読んでいただけると幸いです。


色々と至らない点もあるかと思いますが、温かい目で見てくださり感謝申し上げます。


世の中が戦争で混乱している昨今、この様な戦争のお話を上げることに戸惑いもありましたが、あくまでも小説です。

しかし、読んで下さる方々に少しでも戦争が嫌だなと思って下さればとの思いもあります。


これからも毎日投稿出来る様に精進しますが、間に合わなくなれば期間があくかもしれません。

主人公が生きるのを諦めないように、作者も完結を諦めず書きますので、投稿期間が開く場合はご理解とご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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