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14話 暗躍の裏側と二通目。(人物紹介)

 




 時は遡り、大陸暦1314年冬の時。


「ではエルメス少佐の元には神童を超える神童がいると?」


「はい。その知略は智の神の如く、その武は武神の生まれ変わりと。

 王国軍を撃破して、北軍ここにありと帝国内に知らしめる為には必要不可欠な人材となるでしょう。

 つきましては少佐がここにやってきた時にディオドーラ将軍閣下へと進言していただきたく」


 少将が()()()()()()男が告げた。


「わかりました。軍議の前に口裏を合わせておきましょう」


「はっ!その時にエルメス少佐は一度断るかもしれませんがそれは周りに対してのリップサービスですので」


「わかりました。大佐。下がっていいですよ」


「はっ!失礼します!」バッ


 男はバハムート少将に敬礼をして天幕を後にした。


「こういうことです」


 男が去った他の誰もいないはずの天幕内にバハムートは語りかける。


「ガッハッハ!面白いのぅ!」ガシャン


「笑い事ではありません。軍人が出世に囚われて足元を掬われているのですよ?それも大佐級の者達が。あぁ…情けない」


 バハムートが語りかけると、天幕にある()()の甲冑が応えた。

 どうやら中にどこぞの将軍が入っているようだ。


「…脱がないのですか?」


「ああ!久しく着ていなかったからな!」


 バハムートはため息をついて話を続けた。


「ではあの男の言う通りに動きます」


「本当に大丈夫なのだな?」


「ええ。ソウという少年の噂の智は本物です。そして武はその辺の雑兵にやられるような者ではないです」


 バハムートはソウの本来の実力を知っているようだ。


「13.4でそれほどか。会うのが楽しみな少年であるな」


「はい。これでやっと親の七光りを切ることが出来ます」


「まぁ、そういうな。実力主義の軍であっても縁故は切れぬものよ。ザイール大佐ともこれで最後の戦場となるな」


 ザイール大佐と呼ばれた男が先程の大佐だ。

 ザイール侯爵家の次男として鳴り物入りで軍に入隊してきた。

 ザイール侯爵は帝国の中央にかなり強い派閥があり、その侯爵家から軍にも強い繋がりをと送られてきたのがダージー・ザイール本人であった。


 そんなザイールはバハムート少将にくっ付いて順調に出世してきた。

 しかし、家から命じられたのか、本人が勝手に判断したのか、バハムートの席を狙ってきたのだ。

 それに気付いたバハムートはザイールをどこかのタイミングで切りたかった。そしてその後任も同時に探していたのだ。


 もちろん見つけたのはジャックである。

 ジャックは少佐であるからいきなり大佐にするのは難しい。

 北軍の大佐の席は一旦空席にしたまま、ジャックに功績を積ませていくことで将軍と話をつけていたのだ。


 そしてそんなジャックを細かく調査するうちにこの一年で変わった事が判明した。

 ソウの出現である。


 それを知って今回の謀を思い付いたのだ。




「頼んだぞ?ソウ上等兵」


 これを聞いた時、一番驚いたのは何を隠そうバハムートであった。

 聞いていない…そもそもそんな話は出ていない。

 そう思うが、北軍最大権力者であるディオドーラ大将が言えば、それが軍の意向で、決定でもあった。


 この時ディオドーラは笑っていたが、その笑みはソウではなくバハムートに向けられたものであった事は二人しか知らない。





 〜〜時は戻り〜〜

「第四大隊及び輜重部隊、前進!」


 ジャックの号令の後に北軍第三師団第四大隊は北軍臨時本部を後にした。

 向かうはハーレバー王国副都ミサンジェラード近郊の丘。北軍最前線の地であった。


 進軍は慎重に慎重を重ねたものだった。

 10分置きに斥候を出しての確認。道が森の中になれば森の中も調査しながら。崖の下を通過する時は崖上も調べた。


 そんな亀の歩みの如くゆっくりな進軍では予定地の半分の距離での野営となった。


「順調ではあるが、どう思う?」


 いつもの如く、設営された天幕の中にはこれまたいつもの顔ぶれが並んだ。


「このままでいいかと。確かに前線の物資は心許ないですが、今回の荷が無くなればそれは敗戦を意味します。前線の中将へは連絡をしているのです。問題ないかと」


「私も同意見です。新兵の緊張の糸が切れる事が唯一の懸念かと。

 その為にも王国には散発的にこの隊を襲って欲しいくらいですね」


 レンザの意見にソウが続いた形だ。


 ジャックの悩みは進軍ではなく、この二人に言い返せる者達がこの中にいない事なのかもしれない。


 王国軍はこの隊を死に物狂いで襲ってくると考えていたが、これまでの襲撃は散発的なものばかりであった。

 時折見かける何が焼かれた後も少し古くなっている。


 ソウとレンザ、ジャックはこの人が焼かれた後を見て王国の余力を測っていた。


「どうやら国力差が出てきたようだな」


「その通りかと」


「数はやはり力ですね」


 王国が生き残る道は帝国に抗うこと。

 その為の輜重部隊を襲う策に陰りが見え始めていたのだ。

 焼け跡から戦争の初めの頃はかなりの頻度で帝国軍輜重部隊を襲っていたのだろう。しかし、最近ではその余力がなくなってきている。

 焼け跡の数が少なく、それも新しい物は少なくなっていた。


 時が第四大隊に味方している。

 三人の考えは一致していた。




『拝啓、最愛の娘へ。お父さんは結局軍に入ったよ。与えられた場所で必ず生き抜いてみせるから、どうか待っていて欲しい。一人にさせて申し訳ない。いつも君を想う。  敬具』



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 お話の途中ですが皆様がイメージしやすい様にここで人物紹介をしたいと思います。

(人物紹介を一話にすると楽しみにされている方に申し訳ないですから……いますよね!?)


 登場順のつもりです。()内は特徴(順不同)です。


 前世

 工藤宗一郎(45歳、脳出血、憤死)

 工藤紗奈(18歳、事故死、孤独)


 今世

 ソウ(12→13歳、黒髪、少し大柄、168→175cm)


 ジャック・エルメス(26歳、伯爵家、少佐、金髪、180cm、筋肉質、次男、粗雑な言葉)


 マシュー・レンザ(26歳、子爵家三男、大尉、茶髪、170cm、細身、事務官、ソウの教師、少しおかまっぽい言葉)


 ターナー・イェーリー(26歳、男爵家次男、大尉、赤髪、175cm、細身、ソウの教官、女性のような顔でいつも微笑んでいる、だね!だよね!口調)


 マリー・ジェイスキー(25歳、男爵家長女、中尉、銀髪ロング、165cm、細身、魔法部隊所属、普通のお姉さん、言葉遣いは丁寧)


 ガイル(20歳、軍曹、平民、180cm、真面目、ジャックの付き人みたいな人)


 バラン(大佐、中央軍、50後半、178cm、燻んだ金髪、ジャックの学生時代の教官)


 リゲル・ディオドーラ(北軍大将、185cm、短髪の銀髪、60くらい)


 ミハイル・バハムート(北軍少将、178cm、茶髪、60手前)


 ダニエル・バーニー(中尉、男爵家四男、青髪短髪、182cm、文武両道)


 ダージー・ザイール(大佐、侯爵家次男、175cm、金髪サラサラ、少将の座を狙う)

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