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     一章 終わりの始まり     1話 最愛の終わりの始まり。

 




「お父さん。行ってきます」


 朝、朝食を食べ終わると工藤(くどう) 紗奈(さな)が父である宗一郎(そういちろう)に告げる。

 これから(アパート)から一駅の距離にある大学へと向かうのだ。


「最近あの駅で痴漢が捕まったばかりだからな…気をつけていってらっしゃい」


 宗一郎は男手一つで育て上げた一人娘の紗奈を溺愛している。

 元妻は紗奈が5歳の時にパート先の社員と不倫の末、駆け落ちした。そこから父娘(おやこ)と言えど異性である娘を育てるのに宗一郎は人並みに苦労した。しかしそれ以上に愛してやまない娘の為だと思うと、本人は苦労を苦労とは思えなかった。


 苦労の中身は紗奈が幼少期の時に女の子が好む服を買う為にリサーチをしたり、生理であったり、宗一郎の人生で学んでくる事がなかったものであった。


 紗奈が自己を確立して一人で、又は友人達と買い物に行きだしてからはそういった苦労も少なくなった。


 金銭的な事や家事などは周りの助けもあるが、宗一郎の気質や紗奈が家事の手伝いをしてくれる子だった事もあり、そこまでの苦労はなかった。


 苦労の話ばかりになったがそれ以上に嬉しい事も沢山あった。

 小学校の時の卒業文集で周りの子達は自身の夢や希望を書いていたのにも関わらず、紗奈は宗一郎の事ばかりを書いていたのだ。

 中学の時は流石に父離れが進んだが、晩御飯と宗一郎のお弁当は毎日欠かさず作っていて、日々上手になる料理に涙する事が多かったと宗一郎は記憶している。


 最近の嬉しい出来事はもちろん紗奈が第一志望の大学に合格した事である。

 父として娘に金銭的な苦労は掛けて来なかったと自負する宗一郎であったが、そこはやはり父子家庭。

 紗奈はそういった事を言葉に出す事はなく、あまりおねだりしたりする事がなかった。

 そんな紗奈が選んだ大学は一人暮らししなくとも通える距離にある国立大学。

 第一志望を初めて聞いた宗一郎は紗奈の成績であればもっと上のランクの大学も目指せるのにと、自分の事が情けなくなった。

 宗一郎は気付いてしまったのだ。

 娘が自分に気を使っている。いや、気を使わせてしまっていると。


 しかしそれについて二人で話し合うと宗一郎は勘違いに気付いた。

『お父さんと暮らせるのは学生の時までって決めてたの。私が社会人になったらお父さんには第二の人生を謳歌してほしい。べ、別に無理に再婚相手を見つけろなんて言わないよ!

 ただ…私のせい(・・)でお父さんが幸せになれないのは嫌なの。

 だから私がお父さんと暮らしたいからこの大学を選んだんだよ。我儘を聞いてほしいな』

 これを聞いた宗一郎は涙を堪える為に物凄い表情になっていたが…見るに堪えないので割愛する。

『せい…せいじゃないぞ。お父さんの幸せは紗奈の幸せだからな!

 これから四年間よろしくな』


 そんな幸せな家庭が一瞬の内に崩れ去った。





 トゥルルルットゥルルルッ


 紗奈が大学に向かって30分程、自身も仕事の為に家を出ようとしていた宗一郎の携帯が着信を報せる。


「はい。はい、工藤紗奈の父の工藤宗一郎ですが……はぃ…すぐに向かいます」


 電話は病院からだった。

 紗奈が交通事故に遭い、病院に運ばれたと連絡があった。


 家を飛び出した宗一郎は自分が何をして、何をしようとしているのかさえ、わからなくなっていた。

 歩いているのか走っているのか…フワフワした、現実感のない世界を宗一郎は進んだ。






「お悔やみ申し上げます。こちらです」


 宗一郎が病院に着いた時にはすでに事は終わっていた。

 よくわからないまま遺体安置室に通された宗一郎。病院としては本人確認の為にも案内したのだが、今の宗一郎にはそんな事情を汲むことすら出来ない。


 医者の話では紗奈は即死だった。病院に着いた時には死亡の確認くらいしかできる事はなかったと。

 上の空でそれを聞きながら、さらに医者から。


「覚悟してください。出来るだけ綺麗にしましたが…」


 そういって布の様なモノを取り払い見せられた遺体は、宗一郎にはよくわからなかった。


 顔は腫れていて原型がわからない。18年も娘を間近で見てきた宗一郎にすら『これが紗奈さんです』と言われても認められなかった。


 しかし…


「あ…ネックレス…」


 大学の入学祝いに自分が娘にプレゼントしたものを見つけ………壊れた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……ざな゛ぁーーっ!!」


 そして目の前が真っ白になった。








「…ん?ここは…何処だ?」


 宗一郎は一種の記憶障害になっていた。


「ここは死んだ者が必ず訪れる場所です。貴方達の言葉で言えば神界が当てはまるでしょうか」


 澄んだ声が宗一郎の耳を打った。


「はいっ?」


 宗一郎が声のした方を振り返るとそこには白の羽衣を纏った美しい黒髪の女性が立っていた。


「工藤宗一郎さん。貴方は前世でお亡くなりになりました」


「わ、私が死んだ…ですか?そんな馬鹿な。私はここにいますよ?」


「ここにいる事が死んだという事です。ご自身のお身体を見てください」


 そう言われて何の気無しに自身の手を見ようと思うが…


「な!ないっ!私の身体が何処にも!?」


「はい。落ち着けとはいいません。落ち着くまで待ちますので落ち着けたらお声がけください」


 言わないといいつつ『落ち着け』が多い言葉が宗一郎を急速に落ち着かせた。

 余計な事を考えて思考が定まったようだ。


「私は…何故死んだのでしょうか?」

(これは現実ではない?もし本当に死んでいるのであればこの人は…女神様?)


「貴方は娘の死に顔を拝んだ事により、興奮が限界を超え、そのまま血圧も血管の限界を超えてしまい脳出血でお亡くなりになりました。私共の判断では娘を事故で亡くした事でこの世の不条理、理不尽を嘆いた事が原因となって起きた『憤死』に該当します」


(な…なんだその死に様は…)


 宗一郎は自身の事でもあるにも関わらずひどく他人事のように捉えた。


「貴方にはまず、()()()を受け入れてもらいます。お話はその後になります」


 宗一郎が他人事に思った理由が()()にあった。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 宗一郎が自身の死の前に、一人娘の紗奈の死を受け入れるまでに四年近くの月日が掛かっていた。


「もう大丈夫です。長くお話ししてしまいました。娘の事を聞いていただき、ありがとうございます。それで…私はこの後どうなるのでしょうか?」


 時間の間隔が乏しい死後の世界で、娘の思い出を話していた宗一郎は長く引き留めた事を今更謝罪した。


「いえ。非常に興味深く拝聴させて頂きました。

 そんな貴方にはこれから転生してもらいます」


「?転生ですか…皆さんそうなんですよね?」


 宗一郎は死後の世界であっても、もう一度娘に会えるならと考えて娘の死を受け入れられたのだ。

 その希望が絶たれたが皆が同じであれば仕方ないと日本人の典型的な考えがその思いに蓋をした。


「いえ。違います。天寿を全うした人と、不慮の事故で亡くなられた方は死後の世界へと旅立ち、そこで暮らしています。

 しかし貴方は…『憤死』なされたのでそれは先の事には該当しません。

 もし貴方が死後の世界へと旅立ちたいのであれば、転生して天寿を全うする他、方法はありません。

 転生先は前世とは違う世界です。

 私は貴方の話を聞いて感化されたので、特別に記憶はそのままで転生させますね。『えっ?ちょ!?』では新たな貴方の人生に幸多からん事を……」


「待ってく………」


 宗一郎の意識は薄れていった。




 〜時は戻り、娘視点へ〜


 紗奈が死んだ直後。


「貴方は亡くなりました」


 紗奈の前には一人の黒髪の男性が立っていた。


「貴方…は?」


「私は貴女を死後の世界へと案内する者。それ以上でもそれ以下でもありません」


 どうやらこの人物が紗奈を担当しているようだ。

 説明を聞いた紗奈はすぐに自身の死を受け入れ、今後の話も理解した。

 そこへ…


「貴方のお父上が亡くなったそうです」


「えっ!?」


 男性の話は続き、宗一郎の死因を聞いて居た堪れなくなった紗奈はあるお願いを男性にする。


「本当によろしいのですか?お父上が亡くなるまで暗闇の中、孤独になりますよ?」


 紗奈の出したお願いの対価が上記の事だ。


「はい。良いんです。父には前世で人生を捧げてもらいました。今度は私が捧げる番です。

 それに後四年は一緒に暮らすと約束しましたし」


 紗奈がこの男性に…いや、この死後の世界のルールにお願いした事は『工藤宗一郎の案内を自分にさせて欲しい。案内の時間を四年欲しい。そして転生後に自分の思い出も持っていって欲しい』

 というモノ。

 対価は『名乗る事は出来ない。会う時は姿形も変えてもらう。又、転生時記憶保持は対価が高い。それは同じだけの闇が必要。つまり紗奈(あなた)の魂の拘束。何もない、何も聞こえない暗闇の中、対象者が再びこの地に訪れるまでそれが続くこと』




 最愛の娘に与えられた宗一郎の第二の人生が、今始まる。

この小説をお読み下さりありがとうございます。


誤字脱字が無いように心掛けていますが恐らく見落としがあると思うので最初に謝っておきます。


他の小説と同時進行している上に同じ物で書いていて予測変換を多用しております。

その為、重大なミスがあれば報告して頂けると幸いです。


例えば登場人物や地名などの名前ミスなど…




皆様の時間潰しになれればと。

それでは次話でお会いしましょう。多謝。

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