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80話 特別編・五十路、バレンタインを迎える

予約できてなくて……更新されてませんでした……

「はーい! 今週はバレンタインウィークです!」


朝のミーティング、千金楽さんが元気な声で皆さんに呼びかけています。


「【GARDEN】としては、多少、特別感は出してるけど、過剰なサービスはなし。あと、飲食物の受け取りは絶対に断る事。事前にもしっかり告知してるから大丈夫だとは思うけど。メッセージカードや手紙はオッケーだけどエントランスで受付にお渡しいただくようお願いしてくれ。あ、お礼はしっかり伝えろよ」


そう、今週末から【GARDEN】でバレンタインウィークです。

店内も植物は相変わらず多いですが、内装は、赤とチョコレートっぽい茶色と黒で纏められて非常にお洒落な感じです。

また、食器もそれに合わせて購入したらしく千金楽さんがずっとニコニコしてらっしゃいます。本当に食器好きなんですねえ。

そんな千金楽さんはニコニコではありますが、話の最後にはいつものちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、しっかりとした声で私達に檄を飛ばします。


「バレンタインは感謝を伝える日だ。俺達は、お嬢様お坊ちゃんがいるからこうして執事でいられることを再度自覚し、感謝の気持ちを持ってお仕えする事。それじゃあ、今日もよろしくな!」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

「では、具体的な確認に入ります。先ほどもオーナーからありましたが……」


黒鶴さんの細かい説明を聞き、いよいよバレンタインウィークの初日が始まります。

こう言うイベントには本当に縁がないと思っていたのでやはりちょっとワクワクするものがあります。

いえ、無縁といってはいけませんね。チョコレートは、カルムの常連さん達からありがたいことに頂いていたので。

カルムはアットホームな職場なので手作りの差し入れも本人の判断だったので私も頂いていました。とはいえ、和菓子が多かったのがカルムらしさだったように思います。


みんなで甘いものを頂きながら、お茶を飲んだのは良い思い出です。

学生時代は……学校で頂くことはほとんどありませんでしたね。家に帰って、祖父のお知り合いから頂くくらいでした。

なので、日本では恋愛イベントのイメージですが、海外では感謝を伝える日のイメージが強いようですし、私自身もそんなイメージがあります。私も、精一杯感謝の気持ちを込めておもてなしさせていただきましょう。


「緋田さん、白銀さんの鼻息が荒いですよ」

「いいか、俺たちで一生懸命カバーするんだ。お嬢様達の目が潰れないよう」


緋田さんと紫苑さんが何か仰っていますが、ジジイなのでよく聞こえませんでした。

とにかく、私をカバーして下さるとかなんとか……こういうイベントに詳しくないのでありがたいことです。では、気合を入れて行きましょう。


「「ああ……心配……」」


お二人、ご迷惑おかけします。ですが、出来るだけそうならぬよう頑張りますね!

そして、バレンタインウィーク最初のご来店の組には、


「はろはろー、白銀」

「こ、こんにちは!」

「来たわよ、白銀」


未夜お嬢様、朝日お嬢様、真昼お嬢様の三人もいらっしゃいました。

このお三人は仲が良いようで時折三人でお帰り下さいます。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


最初の頃お世話になった皆様なので、つい嬉しくなってしまいます。


「わわわわ、すっごいお洒落空間、あわわわ」

「朝日先輩、落ち着いて。大丈夫、似合ってるから」

「ふふふ、そうね。朝日ちゃんが一番こういう恰好しっくりくるわよね」


そう仰る三人の今日の服装はなんと和装でした。

【GARDEN】のバレンタイン色に合わせたようなその色合いの着物たちはとっても似合っていらっしゃいます。また、着物ではありますが、ブーツだったり、バッグだったりと洋風なものを取り入れていらっしゃってなんといえばいいのか、とってもモダンな感じがします。


「皆様とってもお似合いですよ」


私がそう言うと美夜お嬢様はやはりじっと私を見てにこりと微笑み、真昼お嬢様は俯きがちながらもしっかりとお礼を、そして、朝日お嬢様はほっとした表情を浮かべ、三者三様の反応。そんな個性的な三人の仲が良いと言うのもなんだか嬉しいものです。


席へご案内し、早速お飲み物やお料理を。

バレンタインウィークなので、やはり、赤や茶、黒が目立つお料理が中心です。

杉さんもとっても気合が入っていた様で、私も思わず『美味しい』を何度も試食会で零したほどでした。

皆様も同じだったようで、どのテーブルでも絶賛の声。流石杉さん。

美夜お嬢様達も満足そうにしてらっしゃいます。

そして、デザート。

デザートのメインは、今回、私監修のものと、千金楽監修のものがあり、お選びいただけます。


「じゃあ、私達は白銀のデザートを頂くわ」

「ありがとうございます」


未夜お嬢様にそう言って頂き、私はキッチンへ。嬉しくてちょっと足取りが、ステップのようになってしまいました。いけませんね、うかれては。

杉さんに用意していただいたデザートを持って、未夜お嬢様達の元へ。


「お待たせしました」


お嬢様達の前には色とりどりのデザートが載ったプレートが一つ。

そして、別の皿に乗ったメインが一つ。


「これは……お団子、ですか?」


朝日お嬢様がこちらを見て問いかけてこられたので、ニコリと微笑み頷きます。

今回、私が考案したのは、お醤油ソースとチョコレートソースを中心とした何種類かの甘いソースを付けたお団子でした。

元々いくつか私の考案した和食が好評だったこともあり、今回も和風のデザートを提案させていただきました。キャラメルに近い甘じょっぱい醤油ソースやお味噌、また、チョコレートソースなどを並べた小皿とお団子のセット。

千金楽さんにお願いし、ハート型の小皿を探していただき、そのこに計5種のソースが分けて入れられるものを用意させていただきました。


「好きや感謝などという気持ちにも色んな種類があり、少しでもお嬢様達のお気持ちに寄り添えるよう考案させていただきました。串のままでも、引き抜いてでも、お好きな方法でどうぞ。ああ、勿論、デザートプレートの方からでも結構ですので」


そうお伝えすると、三人はじっと見つめながらどれを食べようか迷っているご様子。

ああ、そうでした。千金楽から教わったアレを言わなければ。

今回、デザートプレートを提供するにあたって決めたフレーズがあるのでした。


「お嬢様、こんなに甘いものばかり食べて良いのかという気持ちもあるかと思いますが、今回、料理もデザートもシェフが楽しんで頂けるようにと出来るだけカロリーなど工夫させていただいております。とはいえ、これだけのデザート」


バレンタインの、いえ、これまでの感謝を込めて。


「ちょっと悪い事をしてるような気分かと思います。なので、これは私達とお嬢様の内緒、ですよ」


思い切り自分を甘やかす日があってもいい。その日が【GARDEN】に来る日なら思い切り甘やかして差し上げよう。

それが千金楽の言葉でした。


私がそう言うと三人のご様子は……


「白銀、あちらのテーブルへお願いします」


いきなり緋田がやってきて私を連れて行きます。

三人には紫苑が付くようですが……。


「さあ、お嬢様、もう大丈夫ですよ。思い切りかおをゆるめても」


何か言っているようですが、なるほど、これがカバーですね。

私が何かやらかしたのを二人がカバーしてくれているのでしょう。


「ありがとうございます。緋田さん」

「……任せてください、今日の【GARDEN】で鼻血の海なんて悲しすぎますから」


はて? どういう意味でしょうか?

まあ、鼻血は大変ですから、出ないに越したことはありませんが。


その後も、私にはどういうタイミングだったのか分かりませんが、緋田と紫苑が割って入りカバーをして下さいました。

どうやら、千金楽のフレーズが私には合ってないようで言い終わると直ぐに移動させられています。何が良くなかったのかは知らなくていいようで、何も教えてくださいませんが、見て学んでいきましょう。


「白銀、お嬢様達がご出発です。お見送りを」


紫苑にそう言われ、未夜お嬢様達をお見送りする為、エントランスまで付き添っていきます。


「白銀、楽しかった。今日もありがとね」

「あ、ありがとうございました! 最高でした!」

「ありがとう。楽しかったわ……」


三人が感謝の言葉を言いながら、メッセージカードを渡してくださいます。


未夜お嬢様は、ちょっと怪しげな紫と金の素敵なデザインのカード。

真昼お嬢様は、可愛らしいわんちゃんのデザインのお手紙。

そして、朝日お嬢様は、和柄の素敵な便箋にとても達筆な字で……。


「白銀さん!」

「はい、朝日お嬢様」

「いつもありがとう。貴方のお陰で私はこんな笑って日々過ごせています」


いけませんね、年寄りは。

涙腺が……。

そう言って頂けて本当に……


「し、白銀……?」

「いえ、失礼しました。お嬢様、ありがとうございます。そう言って頂けて白銀は幸せでございますよ」

「きゅうううううう」


おや、朝日お嬢様が……?


「せ、先輩! 朝日先輩! ちょっと白銀、ああああんた……そ、そ、そ、そんな、かわ、かわ……泣き顔、はんそきゅぅうううう」


真昼お嬢様まで!?


「あらあら、二人とも大変。まあ、気持ちは分かるけど……ねえ、ちょっとだけエントランスの椅子で休ませてから帰って良い?」

「あ、はい! かしこまりました! ……白銀、貴方は千金楽オーナーの所へ。たっぷり絞られてください」


この時間受付の黄河さんの笑顔が怖いです。あ、ちょっと千金楽に似てきました?

そうですよね、ジジイの泣き顔なんて見せるもんじゃありませんよね。


手を振る未夜お嬢様に頭を下げながら、千金楽の元へ。

事情を説明すると、眉間の皺を指でつつきながら千金楽は、


「まあ、仕方ないな。お前がそうだから、みんなも感謝してるところもあるだろうし……ただ、出来るだけ涙は控えろ。マジでそれ劇薬っぽいから」


そうですね、ジジイの涙なんて……気を付けましょう。

そして、その後は泣きませんでしたし、緋田や紫苑のカバーのお陰でつつがなく終わったように思います。


「いやあ、おつかれさまでした! 緋田さん!」

「紫苑! 俺達、頑張ったよな!」


そう言って健闘をたたえ合うお二人。今日は本当にいっぱいカバーしていただきました。


「お前らすげえよ。あのビームを遮れるんだから。オレには無理だったわ……」


黄河さんがげっそりしてらっしゃいます。ご迷惑おかけして申し訳ないです。


「ういーっす、おつかれー」


千金楽さんが何かを抱えてやって来られます。


「これ、今日の分のメッセージカードとか手紙な。分けておいたから目を通すように。危険なものがあれば教えてくれ、こっちで対応するからな。んで、白銀はこっちな」


千金楽さんの後ろから桃原さんが持って来たのは沢山のお手紙で。


「今回、予約とれなかったお嬢様達からも届いてるから」


……本当に有難い事です。

開けばたくさんの感謝の言葉が。


『白銀の未来は明るいよ、私が保証する。そして、私の未来も明るそう、白銀のお陰だね。いつもありがとう』

『いつもありがとうございます。弟ともどもこれからもよろしくお願いします』

『いつもありがとう、白銀』

『白銀さんへ、いつもステキなおもてなしをありがとうございます。【GARDEN】に来るとすっごく元気を貰えます!』

『しろがねへ かっこいいね。また、ままとぱぱと来るね。けっこんしてね。いつもありがとう』

『白銀へ 貴方は最高の執事よ!笑 偉そうにスミマセン……汗 でも、本当に最高です。いつも元気もらってます! 白銀サイコー!』

『白髪執事白銀様へ、元気ない時に【GARDEN】に来て、白銀様の優しい笑顔見るとすっごく元気になれます。』


いいですよね。

もうお嬢様達の前ではありませんから。


手紙が濡れてしまわないよう避けながら涙を溢します。

ああ、あとで、ちゃんと拭きましょう。

私が感謝をお伝えするはずが……。

これから、もっともっと頑張らなければなりま……


「きゅうううううううううううう!」


おや、桃原さん?


「おい! 白銀! お前もう帰れ! 帰って家でじっくり読みやがれ! あと、店でチョコ貰えなかったお前らに優しいオーナーからチョコのプレゼントあるから持って帰りやがれ!」


千金楽さんに怒られました。

そうですね、これはいけません。ジジイの涙なんて一銭の得にもなりませんものね。


「わかりました。では、お先に失礼します。……あ、ハッピーバレンタインです」

「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」


おうちで食べた千金楽さんのチョコレートは口の中でとろりと溶けて幸せいっぱいな気分で、皆様からのお手紙を読ませていただきました。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。

今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!


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