78話 五十路、ほっこりする。
「……ということがありまして」
「へえ~、私が帰った後にそんな事起きてたのね」
詩織さんが美しい黒髪を纏め直しながらそう仰います。詩織さんが気になってらっしゃったので数日前の【GARDEN】での出来事をかいつまんでお話させていただいていたのですが、カウンター奥で聞いている小鳥さんは不満げです。
「っていうか、詩織。【GARDEN】行きすぎじゃない?」
ジトっとした目で詩織さんを見るのは、小鳥さんです。小鳥さんも【GARDEN】お好きのようですし、有難い事です。
「いーんですー。私は白銀大好きで会いたいから時間空いて予約入れるようだったらお一人様でもいくんですー」
「く……! 強すぎる……!」
小鳥さんが悔しそうな表情を浮かべ詩織さんを見ています。お二人とも楽しそうで何よりです。仲良きことは美しきことかな、ですね。
今日はカルムの勤務日。今日のお昼スタッフは、南さん、私、そして、小鳥さんでした。
「あ、明日拓さん入ってるよね!? わたし、いこうかな?!」
「それは嬉しいですが、明日は折角のお休みでは?」
「ふふーん、最近もう一つの方の仕事も調子が良くてね。拓さんが帰ってきてくれたお陰かな、えへ」
そう言って笑顔を見せて下さる小鳥さん。私がカルムに戻ってきた事で余裕が出てきたのであれば何よりです。
そんな小鳥さんの前を横切るように現れたのは、
「おつかれさまでーす」
「ちょっと! レカちゃん!」
レカさんです。
夕方からは、小鳥さんに代わって、レカさんの出勤のシフトとなっていました。
カミュさんの為に染めたという派手な青みがかった銀髪を纏めながら現れます。
「ん? どうかされました?」
「な、なんでもないですうー」
「あはは、まあ、小鳥さんの事は置いといて。そういえば、レカちゃん、動画配信者のこをろちゃんって知ってる?」
「こをろ……聞いたことあるような気がしますね。ああ、福家さんから聞いたこの前の【GARDEN】の話ですね」
レカさんがぽんと手を打ちながら小さく頷いていらっしゃると、今度はお二人がじとっとした目でレカさんの方を。
「福家さんから? レカちゃん、今日久しぶりにシフト一緒だよね?」
「【GARDEN】にも私が知ってる限り来てないと思うけど、なんで?」
なんでしょうか、お二人から物凄い圧力が。
私が説明しようとすると、レカさんに手で制されます。
「あー、福家さんと映画観に行ったんですよー」
にやりとニヒルな笑顔を浮かべながらそう仰るレカさんに目を見開き口をパクパクさせるお二人。
「「ええええええ映画!?」」
二人の声が揃って仲良しですねってそうではなく!
私が話し出そうとするとそれを遮るようにお二人がレカさんに詰め寄ります。
「ちょちょちょちょっと待って! 映画なんて私もまだなのに!」
「なんでなんでなんで店長のわたしが聞いてないよ!」
「いやいや、別にワタシが福家さんと映画行ってもいいじゃないですか。何か不都合あります?」
そう言うと、お二人はぐっと詰まってしまい、俯いてしまいます。ですが、肝心の部分が。
「あ、あの! カミュさんも一緒ですよ。それに、映画の後はカミュさんのお兄さんも合流しましたし」
そう、その日は、以前レカさんにお誘い頂いた映画を見に行く約束を果たそうとお出かけしたのですが、カミュさんも一緒でした。そして、以前の横河の事件について謝りたいというカミュさんのお兄さんも一緒にごはんを食べました。
「あー、まあ、そうですねー」
レカさんはまたにやっと笑って、ちょっと低めのかっこいい声でそう言います。
「な、なんだ……そう言う事か、私の二回目映画デートの計画が崩れたのかと……」
「ちょっと待って! レカちゃん……映画って何見たの? カミュちゃんは起きて一緒に見てた?」
「あー、カミュは寝てましたね。フランス映画だったんで。ちょっとカミュには退屈だったかもです。ワタシと福家さんは楽しんでましたよ。感想も盛り上がりました」
その日レカさんが選んだのはフランス映画でした。多少静かで難解ではありましたが、とても面白かったです。正直、女子高生には難しかったかと思うので、寝てしまったカミュさんは仕方ないと思いますし、むしろ、起きてて作品のテーマや監督の持つ哲学について語っていたレカさんが凄いと言うべきだったように思います。カミュさんは寝てしまって感想会を聞くだけで悔しそうでしたが……そうそう、今のお二人のような表情でした。……お二人?
「レカちゃん、絶対狙ってたでしょ……ねえ、小鳥さん」
「このしたたかさが本当に油断ならないよね、詩織」
「ふふふ、楽しかったですよ。ねー、福家さん?」
「ええ、とっても」
「「きいー!」」
レカさんが加わって、カルムは更に活気が増したような気がします。
基本的に声が低くかっこいい、そして、静かで知的なレカさんですが、その分、詩織さんや小鳥さんが元気で良いバランスのように思います。
それに、
「レカちゃん、今日もお仕事かい? 頑張るねえ、ほら、お菓子あげよう」
「わー、三雲のおばあちゃん、ありがとう。嬉しいよ」
「お、レカちゃん、今日もかっけー髪だな」
「レカちゃん、いつもの貰える?」
すっかりカルムに馴染んでいます。元々大人っぽいレカさんでしたので、カルムの雰囲気にも合っていて、詩織さんが最初の頃に心配していた髪の色もすぐに受け入れられました。
「小鳥さん、一番要注意なのって」
「案外、レカちゃんかもね、詩織」
二人がレカさんの背中を見ながらそう仰います。
確かに、カルムで今一番人気なのはレカさんかもしれません。
「レカちゃん、このツブヤイッターの新しい機能ってのは……」
「スマホ買い換えたいんだけど……」
レカさんは大人っぽい一面がありますが、女子高生らしく流行や最新の情報にも詳しく好奇心旺盛なカルムの皆さんの相談役としても活躍しています。
「そういえば、しろが、福家さんもレカちゃんに相談してるのよね?」
「そうですね、【GARDEN】もえすえぬえすに力を入れるらしいので、教えて頂いてます」
現在、カルムのSNS関連はレカさんがやっているらしく、詩織さんや小鳥さん曰く『丁度いい温度』だそうです。
「流行に乗ってますっていう感じじゃなくて、こういう雰囲気でゆっくり穏やかに楽しみたい人にっていういい色合いの雰囲気ある画像撮るのほんとうまいのよねー。ねえ、詩織?」
「そうなんですよ。だから、最近は福家さんのしゃし……えーと、色んな撮影はもうレカちゃんにお任せで……」
なるほど。確かに、レカさんの写真は、凄く雰囲気があるように思います。一度私も入っている写真を見せて頂きましたが、私が入っていても映画のワンシーンのようで才能を感じましたし、思わず、その写真は頂きました。それ以降も度々私の写真を送ってくださいます。
本当に才能豊かな子です。
「詩織さん、福家さんオリジナルブレンド2、オレンジジュース1お願いします」
「はいはい、了解」
「では、珈琲は私が淹れましょう」
そう言ってそれぞれが持ち場に動いていきます。
レカさんが入った事で、夕方も凄くやりやすくなったとお二人も絶賛してらっしゃいましたが、その通りですね。素晴らしい。
「福家さん? ワタシの顔、じっと見てどうしたんですか?」
「「な……!」」
「ああすみません、本当に素晴らしい働きで、感動していました」
「あ、そ、そうですか……よかったです」
こう言う所はまだ高校生ですね。耳を赤くして照れてらっしゃいます。
「あ、あの……前のSNS講習の続き、またいつでも聞いてくださいね。【GARDEN】は、基本店内写真禁止ですから、その分、自分たち発信でSNS使ってみたほうがみんなお客さんみんな嬉しいと思うんで」
「はい、ありがとうございます」
レカさんからは、紹介動画や特技披露などを行ってはどうかと言われ、千金楽さんに相談させていただきました。千金楽さんも乗り気で、藍水さん達とお話されていましたから採用されるかもしれません。
その事をレカさんに説明すると、
「そですか……よかった。じゃあ、お礼はまた映画で良いですよ」
「かしこまりました」
優しく微笑むレカさんは年相応の子に見えて、ほっこりします。孫というには、まだ私はそこまでの年ではありませんが、思わずお小遣いをあげたくなってしまうほどです。
「まあ、でも、気を付けるのは気を付けた方が良いんで、急がなくていいと思います。今は、結構SNSの扱いは慎重になった方がいいですからね。炎上とかしちゃうのよくありますからね」
「そうそう、ネットは怖いよー。ほんとほんと」
小鳥さんが深く頷いてらっしゃいます。そんな嫌な事があったのでしょうか。
「エゴサとかするとさ、悪口とか書かれてたりさ……買って損したとか書かれてあるんだけど、本当にちゃんと読んだのかって……!」
「えごさ?」
私が首を傾げると、小鳥さんは慌てて口を手でふさぎ、見るからに不審な動きをし始めます。あまり深くきかない方が良い話なんでしょうか。
「あー、また、教えますね。福家さん、それより、珈琲出来ました?」
「もう少しですね。では、また次のえすえぬえす講座でお願いします」
どうやら深く聞かない方が良い事のようです。詩織さんも見るからに動揺して小鳥さんの元に言って何やらお話されていますし、女同士の話というヤツなのでしょう。
「ぐ……レカちゃん、助かった、ありがとう」
「貸し一つですね」
「やっぱりレカちゃんが最強なんじゃ……」
肩を寄せ合って何事か話し合ってらっしゃいますが、本当に仲良しさんでなによりです。
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