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72話 五十路、グラビアを見る。

『美しすぎる空手家、東雲明美! グラビア初登場! 空手と一蓮托生美女の戦う姿は美しい!』


 そんなキャッチコピーで週刊誌のグラビアに写っていらっしゃるのは、明美さんでした。


「ねえ、白銀サン、明美サン、すっごい綺麗に撮れてるでしょう」

「ええ、本当ですね」


 道着を着て、空手のポーズをとっていらっしゃる姿を中心に、時に、私服のような姿でゆったり微笑んでいらっしゃる姿もありますが。


「どれも明美お嬢様のお優しい所や凛とした所が良く分かり、素敵なお写真ですね」

「でしょー!?」

「う、うぅう……もうヤメてください……!」


 席にお戻りになられた明美お嬢様が顔を真っ赤にしてプルプル震えてらっしゃいます。


「いやあ! すごいっすよ! まさか自分の知り合いが週刊誌のグラビアを飾るなんて! でも、水着はないんですね、明美さんめっちゃプロポーション良いのに」

「そ、そんなの撮るか! だ、大体、それも仕方なく……大会が近いからPRの為に……って」


 なるほど。

 明美お嬢様は日本トップクラスの女性空手選手ですし、その上でこれだけの美貌ですから、PRにはうってつけの人材でしょうね。


「それに、寛子さんが『出てみたら』って……NGあれば全部何とかするからって」

「寛子お嬢様が、ですか……?」

「ああ、ワタシもですけど、一応、芸能関係の事は寛子さんがフォローしてくれてるんです。ちなみですけど、ワタシもたまにモデルやってますからね、今度出たら白銀サンにも見せてあげますね!」


 そうでしたか。寛子さんは芸能事務所の出来る女社長さんですから、そういった面では頼れるでしょうね。


「ありがとうございます。お二人のご活躍は自分の事のように嬉しいので、楽しみにしておりますね」

「ほああああ……! ロマンスグレー執事のニコリ、最高すぐる……! あ、あの! ししししし知ってますかあ? 明美さんがなんでこの仕事受けたか。寛子さんに聞いたんですけど、迷ってた明美さんに寛子さんが言ってあげたんですって『きっと白銀さんもみりょ「結」』」


 とても凄みのある声。

 圧と言うらしいですね。千金楽さんに教えていただきました。

 圧をかけながら明美さんが結さんを笑顔で見ていらっしゃいます。

 笑っているけど笑ってない。

 千金楽さんもこういう笑顔をよく私にされます。


「余計なことを言うんじゃないの」

「はいぃいい……さ、流石、あの強面ワイルドイケメン明羅さんの妹。迫力やばいですね」

「……はあ、もう勘弁してよ。ただでさえ、大会が近くてナイーブになってんのに」


 そう言ってため息をつかれる明美さん。


「明美お嬢様、お疲れのご様子ですね。どうかなされましたか?」


 明美さんは本当にしっかりしていらっしゃって体調管理にも気を遣いいつもキリっとしていらっしゃるのですが、どうも、今日は少しだけ顔色が悪いように見えます。


「あ、ああ、いや、その、まあ、ちょっと」


 珍しく歯切れの悪い返事をする明美さん。

 何かあったのでしょうか?


「明美お嬢様、白銀は微力ながら明美お嬢様の力になりたく思います。もしよろしければ、お話を聞かせていただいても宜しいですか?」

「えっと、それは……」

「明美さん! 白銀サンはこう言ったら引かないっすよ! ここは話した方がスッキリ

しますって!」


 ええ、そうですとも。私は頑固ジジイですからね。

 譲れないところは決して譲りません。


「でも……」


 明美さんは渋ってらっしゃる。

 やはり、あまり言いたくないことなのでしょう。


 私は、聞きだすことを諦め、そっと明美お嬢様の傍に近寄り、耳元で囁きます。

 私と明美お嬢様だけの内緒の会話。


「約束したでしょう? 『貴方の未来を守る』と。今は仰っていただかなくてもかまいません。ですが、貴方が困っているならば、貴方が助けを求めてくれるなら、私は喜んで馳せ参じます。そのことをお忘れなきよう、ね? お嬢様」


 そう囁き離れると明美さんの顔が俯きぷるぷるしてらっしゃいます。

 しまった。ジジイが恰好をつけすぎと笑われてしまったようです。


「し、白銀って……」


 震える声で明美さんが呟かれます。


「なんかどんどん気障になっていません? 今のすっごく気障でしたよ……!」


 顔を真っ赤にし眉間に皺を寄せて顔を強張らせた明美さんがぶるぶる震えながらそう仰い、自分の選択が間違っていたことに気付きます。


「失礼しました。執事として働いている内にどんどん増長してしまっていた様で、つい調子に乗ってしまいました。お許しください」

「あ、謝らないで下さい。別に悪いとかじゃなくて……あのもっとやってくれてもいいというか、その、あの」

「にっひっひ。白銀サン。囁き自体は良いので、もっといっぱい練習をって事です」


 結さんが笑ってそう仰います。

 なるほど! カルムでも仲良くさせていただいていたお二人が練習相手になって下さるという事ですね。

 明美さんにはこちらでも練習相手になっていただけるなんて本当に感謝しかありません。それに、結さんも、本当にお優しい。いつも明美さんの仰ることを私に分かりやすく教えてくださり有難い事です。

 私は本当に直ぐに勘違いをして、ジジイは頭が固くていけませんね。


 私は己の中で一瞬反省をし、そして、今度は結さんの耳元で囁かせていただきます。


「ありがとうございます。結お嬢様。これから、もっと色々教えてくださいね」

「……は、はひぃい、いっぱいいろいろおしえちゃいまふ~……!」


 何故か結お嬢様が目を回してテーブルに突っ伏してしまわれました。

 明美さんが『大丈夫大丈夫、ちょっと刺激が強すぎただけ』とおっしゃっていましたが。

 私も香水か何かつけた方が良いのでしょうか。

 そんなに加齢臭が刺激臭になっているとは……。

 目立たないように嗅いでみたのですがやはり自分ではわかりませんね。

 そう思っていると明美さんがくすりと笑います。


「どうされました? 明美お嬢様?」

「ううん、アタシにとって、やっぱ貴方はヒーローだなあって」


 そう言って微笑まれる明美さんは本当に可愛らしく。


「ヒーロー、ですか? それは、必殺仕事人のような?」

「……うん、合ってる」


 合っているらしいです。一瞬空いた間はなんだったんでしょうか。

 私が首を傾げていると明美お嬢様はまた笑顔になります。


「兄貴が子供のころよく見てたヒーロー、強くてカッコイイヒーローにも似てる」


 ああ、ライダーとか戦隊ヒーローのことでしたか。でも、ああいうのにジジイはいませんでしたけど。


「恐れ多いですよ。でも、そうですね。私も彼らに憧れた時期はありましたね」

「白銀が?」

「私も子供のころはあったんですよ」


 私がちょっと拗ねた風で言うと明美お嬢様は嬉しそうに笑って下さいます。

 そう、私にも子供の時代はありました。老けてはいましたけど。

 それでも、年相応のものへの憧れはありましたし、なんなら、中学生の頃も見ていました。祖父が朝早いので、週末も早起きでしたし。

 けれど、それだけ子供っぽい好きなものがありながらも、当時も言われてしまっていましたね。


『いやー、流石にない! ジジイだもん! あの子!』


 今でもあの言葉が深く私の中に突き刺さっているようで思い出すと胸が痛みます。

 ジジイです。私は。ですが、


「白銀」


 ハッとすると明美さんがこちらをじっと見てらっしゃいます。

 背筋がピンと伸びて凛々しい顔つきで。


「貴方はアタシのヒーロー。だけど、ヒーローが誰かを頼っちゃいけないなんてルールはないんだよ。だから、さ、頼ってよ。アタシに恩を返させてよ。……うん、アタシもさ、もっともっと頼らせてもらうから」


 明美さんはそう言って笑ってくださいます。

 私はその言葉を聞いて、少し泣きそうになってしまいます。

 ジジイは涙もろくていけません。


 その後復活した結さんも含め三人でゆっくり穏やかにお話させていただきました。


 時間となり、結お嬢様と明美お嬢様のお見送りの時間となりました。


 玄関でお二人をお送りします。

 結さんは名残惜しそうにされていらっしゃいますが、もう次回の予約もされいらっしゃいますよね?

 明美さんは、あの時見せた表情よりも幾分明るくなっていらっしゃり、嬉しい限りです。


「あ、そうそう。お二人。よろしければ、これを」


 私は、小さな巾着をお二人に差し出します。


「巾着? これ、なんです?」


 結さんが不思議そうにポニーテールを揺らしながら色んな角度で眺められています。

 明美さんも同じく興味深そうに覗かれております。


「これは、サシェと呼ばれるものだそうです」

「「サシェ?」」


 お二人の声が重なります。

 その反応を見て私は思わず笑ってしまいます。

 本当に仲の良いお二人。


「ドライハーブを作って中に入れたものなんです。【GARDEN】の花をお贈りするサービスは好評で、それなりに減るのですが、折角なら何か出来ないかと思いまして。まだ、試作品なのでよければ。結お嬢様は大学のお勉強が大変と仰っていたので元気が出るような香りのものを、明美お嬢様にはリラックスできるような香りのものを」


 私の説明を聞きながら、二人は巾着の匂いを嗅がれます。


「これ、白銀サンが作ったんですか?」

「ええ、趣味の一つとしてやってみようかと」


 私がそう言うとお二人が目を丸くされます。

 そして、お二人で目を合わせて笑い合います。

 どうされたんでしょうか? 何か変な事を言ってしまったのでしょうか?


「相変わらず、白銀は白銀だね」

「ドライハーブの作り方とかワタシ知らないですよ」

「すんすん……でも、嬉しいね、ちょっと白銀の匂いがする気がする」

「え、ええ!?」


 明美さんの言葉に私は驚きの声を上げてしまいます。

 まさか、それに移ってしまうほどの匂いだったとは……!


「大丈夫大丈夫、多分アタシ達くらいしか分かんないって。ありがと、白銀。アタシ、がんばるから、見ててね」

「ふっふっふ、明美さん超元気になりましたね! 流石、白銀! そして、流石ワタシ!」

「アンタなにしたの?」

「一緒にいるだけで癒し効果あるでしょ! ほら! ほら! 感じてくださいよお!」


 そう言って結さんは明美さんの頬に頬ずりされます。

 明美さんは鬱陶しそうにしていらっしゃいますが、どこか嬉しそうなご様子。

 明美さんが嬉しそうにされているのを見ると私もなんだか心が温かくなってきます。


「お二人の笑顔は本当にステキですね。ずっと見ていたいくらいです」


 私のその言葉に、お二人は固まってしまいます。

 しまった。『キモすぎた』んでしょうか。


「ねえ、結どう思う? なんであんな事簡単に言えんの?」

「執事モードだからか、ワタシ達がまだ対象に入ってないかでしょうね」


 ごにょごにょと何か仰っているようですが、聞こえません。

 耳が遠くていけませんね。


「白銀! また来るからね!」

「次こそ魅了してみます!」

「ふふふ、お二人にはもう既に魅了されてますよ。では、お嬢様、お気を付けていってらっしゃいませ」


 私はそう言って頭を下げます。


「「ば、ばーかばーか! 白銀の鈍感」」


 二人揃ってそう仰って去って行かれました。仲良しさんですね。

 ですが、確かに、年を取って鈍くなってきたとは思いますが、いけませんね。

 今度また身体を動かしにいきましょうか。


 お二人を見送り、テーブルを片付けていると結さんのお席に忘れ物が。

 いえ、忘れ物ではなかったようです。見てみると、付箋に『ぷれぜんとふぉーしろがね!』と書かれていました。

 それは先程見せて頂いた明美さんの写真が掲載された週刊誌。


「なるほど……」


 頑張る明美さんの写真を見て、ジジイももっと頑張れ、努力しろということですね!

 わかりました! 私、もっとがんばります!

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。

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