69話 五十路、仲間達と呑み交わす。
ちょっとPCに触れられない生活をしてました。
少しずつまた更新していきます汗
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は、超ハイスペック。
南 詩織。執事喫茶【GARDEN】元オーナー。現カルムスタッフ。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
若井 蒼汰。??歳。【GARDEN】新オーナー。執事名【千金楽】
金髪、二枚目、チャラ風、仕事出来る。
「えー、それでは、【GARDEN】の今後の発展をみんなに託しまして、かんぱーい!」
千金楽さんの適当な挨拶に各々がリアクションしながら、乾杯をします。
今日は、【GARDEN】の決起会です。
横河事件も落ち着き、改めて新体制で頑張っていくために親睦を深めようという事で開かれた飲み会です。
参加者は、執事達とキッチン、そして、事務の皆さんです。
【GARDEN】の中で立食形式で行われる今夜の飲み会。
中央にはそれぞれが作ったり、持ち寄った料理やお酒が並んでいます。
「白銀さん! 何かとってきましょうか!?」
緋田さんが声を掛けてくれますが、私はやんわりと断り自分の足で取りに行きます。
「皆さんがどんなものを選んだり、作ったのか興味がありますので……」
「なるほど! それもまた白銀さんの洞察力がさえわたるというわけですね!」
緋田さんはもうずっと私を買いかぶっているような気がします。
ですが、否定をすると、その否定をより大きな否定で返され堂々巡りなので、曖昧に頷き、一緒に中央のテーブルに向かいます。
「ちなみに緋田さんは何を?」
「ああ、ウチ、実家が酒屋なので、日本酒とワインを!」
「ほう……」
緋田さんが指さした先にあるのは、中々良いお酒……結構な額しますが。
「ウチの親父が、お前を鍛えなおしてくれた先生に是非に! と。おやじが感動してまして。自分では良く分からないんですが、人間的に大きくなったなあ、と」
「それは私も同じ気持ちです。緋田さんはどんどん成長してますよ」
緋田さんの素直さと積極性は本当に素晴らしいと思います。
そして、その吸収したものでも、やはり、人への気遣い、優しさは目を見張るものがあります。
また、緋田さんの元気な雰囲気も相まって、下心などが感じられないですし、また、気軽にお願いできる雰囲気があります。
執事のイメージ、とは少し違うかもしれませんが、私個人としては、こういう元気な執事というのも良いと思います。決して礼儀が出来ないわけではありませんし。
「白銀さん、あんまりほめ過ぎない方がいいですよ。あまり褒めすぎて有頂天になって、ポカやったら困りますよ。ほら、なんとかと煙は高い所が好きって……」
「誰が馬鹿だ! 誰が!」
「うわあ、緋田さん分かるんですね。チョイ馬鹿に昇格です」
「やったー! じゃない! まだ馬鹿じゃねーか!」
すかさず紫苑さんが、緋田さんに突っかかっていきます。
これも今は本当に、お馴染みのやりとりです。
紫苑さんは、他の方には丁寧に接していますが、緋田さんには少し厳しめ、というか、楽しそうに挑発されています。
若い二人の漫才のようなやりとりは、【GARDEN】の中でも明るい新名物といった感じです。
「あ、白銀さん。よかったら、このパウンドケーキ食べてみてください」
と、紫苑さんは、私のお皿にフルーツが鮮やかなパウンドケーキを乗せてくださいます。
すぐにとすすめられ、一口頂くと、ラム酒の香りがふんわりと口に広がり、その後にフルーツの甘みが追ってきて後味良く、しっとり目の食感も相まって、大人なケーキです。
「白銀さん、どうですか?」
「うん。すごく美味しいです。大人な味のケーキで、ついついいくつも食べてしまいそうです」
「良い笑顔と回答、ありがとうございます」
いつの間にか、紫苑さんがスマホのカメラを向けていました。
「え、と……紫苑さん?」
「ああ、実は、それ、姉さんが作ったんです。……絶対喜びます。先に、この動画は送りますが、是非次来た時に直接教えてあげてください。お願いします、『お義兄さん』」
お兄さん?
若く言ってもらえるのは嬉しいですが、流石に……せめて、おじさんで。
ともかく、上機嫌な紫苑さんを追って緋田さんが去って行くと、目に入ったのはキッチンの杉さん達でした。
「なんで……これの隠し味はなんだ!?」
「あ! 味噌じゃないですか!? 洋風スープに味噌を!」
「それだあああああ!」
私のスープを囲んで、キッチンチームで何やら隠し味当てをしているようです。
聞いてくれたらすぐ答えるんですが……。
「黄河。この前教えてくれた二次元のあのアイドルグループと、俺の推したちがコラボするんだが……」
「わかってますよ! 黒鶴さん! 互いに、推しが出たら交換しましょう! 天井上等!」
「頑張って、働こう!」
「ええ! 稼ぎますよー!」
黄河さんと黒鶴さんは、何やらアイドルのお話で盛り上がっているようでまだ勉強不足の私は入れません。
「白銀さん……せっかくみんなと絡める飲み会なのに、今は、白銀さんのみ、かい?」
「ぶふーっ! み、緑川さん……いえ、あの、」
「緑川、41点」
「橙……厳しすぎないか?」
「だって、つまんないもん」
「橙は、いつもだいだい厳しい……だいだい、だいたい、大体……厳しい」
「16点」
「ぐふ」
年の近い橙さんと緑川さんが遠慮のないやりとりをしています。
そんな低い点数のなのでしょうか? わたし面白いと思いましたが。
「あー! 白銀ちゃん! こっちこっち!」
声の方を見ると藍水さんが、私を呼んでいます。
「どうされました? 藍水支配人?」
「いやー、まだその呼び名慣れないわー。それよりね、白銀ちゃん、あんま事務の子と話した事ないでしょ? 折角だから、ね?」
「あ、じ、事務の石原です……」
「池内です」
「白銀、えー、本名の方がいいですかね? 福家です。宜しくお願いします」
詩織さんを支えていた事務のお二人。
黒髪ボブで眼鏡の石原さんと、明るい茶色の池内さんが並んでお酒を飲んでいらっしゃいます。
「桃原ちゃんも」
「いや、私は何度も顔を合わせていますし」
赤茶系ショートの桃原さんがクールに答えます。
桃原さんは、女性なのですが【GARDEN】では、執事をしてらっしゃいます。
そのあたりの理由は聞いたことはないのですが、若いけれど凄く働き者な印象です。
「だって、桃原ちゃん。勤務時間以外はほとんど他の執事と話をしないでしょ?」
そう、桃原さんは事務の皆さんと同じ女性スタッフルームで着替えられるので、中々お話をしたことはありませんでした。
「えーと、桃原さん、もし、よければお話しませんか? 折角の機会ですし」
これも新支配人の気遣いでもあるのでしょう。
女性陣とはあまりお話しする機会がなかったので、少しでも親睦を深めておけという……特に私はジジイですから中々話しかけづらいでしょうし。
「らんすいさん、ありがとうございます……!」
石原さんもそのあたりを察してか藍水さんにお礼を言ってらっしゃいます。
そして、桃原さんは藍水さんと一緒に私の正面に、事務のお二人は私の左右に来て、丁度円になったような形になります。
「「で、南さんとはどうなんですか!?」」
石原さんと池内さんの高音と低音の声が綺麗なハーモニーを奏でながら……ではなく、え?
「え? なんですって?」
「やだなー、今時そんな主人公はやんないっすよ」
池内さんがそんな事を仰いますが、いえ、そう言う意味ではなく……。
「いや、え? 詩織さんと……ですか?」
「きゃー! 詩織さんだって!」
「うんうん、ちょっとずつ進んでる感じがするね!」
石原さんが大興奮されて、池内さんも頷いてらっしゃいますが、あの……。
「じゃあ、その詩織さんとは、お出かけとか」
「いいや! まどろっこしい! デートとか行ってないんすか?」
石原さんの言葉を遮り、池内さんが前のめりに質問してきます。
「でーと、は、してないですね」
「あちゃー! あの人ほんとだめっすね!」
「告白で満足しちゃってんじゃないのお!?」
二人があからさまにがっかりしています。
そう、詩織さんに告白のようなものをされはしましたが、それ以降、二人でおでかけをしたことはありませんでした。
私が誘うのもなんだかよくない気もしているのですが、詩織さんから誘われないという事は……
「目が覚めて、こんなジジイなんてと思い直したんじゃ……」
「「いやいやいやいや!」」
すごく良いハーモニーで二人が否定してきます。
「白銀さんは、知らないからですよ! 私達と詩織さんの飲み会での詩織さんののろけっぷりを!」
「もう砂糖を砂糖で割ったような激アマ感情をぶつけられるんすよ! しかも、なんすか、二十年以上の片想いって、あまおも!」
どうやら、詩織さんはお二人に凄く私の事をお話していた様です。
えーと、どうしたら……。
「まあ、とにかく。南元オーナーを大切にしてあげてください」
向こうで桃原さんがぼそりと呟くように仰られました。
「ええ、決してぞんざいに扱うつもりは毛頭ありません」
「なら、いいです」
「桃原ちゃん、それだけじゃないでしょ。言いたいことは!」
藍水さんが桃原ちゃんの背中を押し、こちらに近づかせます。
「ら、藍水さん!」
「ふぁいと!」
「あー、あの、ですね、白銀さん」
「はい?」
「お、お、お兄様と呼んでもいいですか?」
「はい?」
今日は何でしょう? やたら、おにいさんと呼ばれる日ですね。
「やあね! この子の好きな小説に、白銀みたいなカッコイイ白髪のおじ様執事が出てくるんですって! で、その執事には年の離れた妹がいて、その妹が兄に憧れるあまりに、男装して執事になるのよ! その二人に、桃原ちゃん、憧れがあるらしくてね!」
「藍水さん! ぜんぶいう!」
桃原さんが顔を真っ赤にして笑う藍水さんの肩を持ってぶんぶんしてらっしゃいます。
なるほど、コスプレに近いものなのでしょうか。
物語のキャラクターになりきってみたい。その感覚は分かります。
私も時代劇の登場人物になってみたい。台詞を言ってみたいということはありますから。
「えーと、べつに構いませんよ。ただ、執事の皆さんが混乱するといけませんから、説明するか、皆さんが居ない時にお願いします」
「ほ、ほんとですか!?」
桃原さんが今まで見せたことのないような軽い顔でこちらを見てらっしゃいます。
「この子ねえ、緊張すぐするから、白銀の前だと顔が強張っちゃうらしくて、今日しかないと思ってたはずなのに、全然いけてなかったのよ。かわいいでしょ」
「らんすいさああん!」
「ふふ……藍水さんは、男性にも女性にも信頼されてて素晴らしいですね」
「やだ……白銀……そんな笑顔やめて……ほれちゃうから……!」
「「だめですよ! 白銀さんは、詩織さんのです!!」」
女性陣のわいわいとしたやりとりは、学生時代のようで楽しいです。
まあ、学生時代は女子生徒と話をすることなんて事務的なものしかありませんでしたが。
「あの、お兄様?」
「はい、なんでしょうか? 桃原さん?」
遠慮がちにこちらを呼ぶ桃原さんの方を向くと桃原さんはぶるりと身体を震わせ俯いてしまいます。
「あ、の……よければ、私がお兄様呼びした時は、モモと呼び捨ててくれませんか? あと、出来れば、家族のような感じで、気軽に……」
「えーと、わ、わかったよ、モモ」
「……!」
桃原さんが倒れました。
藍水さん達が、あとはまかせろと女性スタッフルームに桃原さんを連れて行きます。
それにしてもどんな小説なんでしょうか?
「おーい! しっろがねー!」
聞きなれた声が近づいてきます。
千金楽さんです。
「呑んでるかあ!? 白銀ぇええ!」
「呑んでますよ。千金楽さんは……随分と呑んでるようですね」
「そーなんだよー! しろがねー! 千金楽の奴今日はマジのみまくりでさー!!!」
千金楽さんと赤さんが両側から私の肩を組んできます。
「決起会だぞ! 明日休みだろ! 飲むだろ! いえー!」
「そのとーり! いえー!」
真っ赤な顔の千金楽さんは大分飲んでいるようですが、赤さんのあれは多分ウーロン茶ですね。最後に、片づけをされるのでしょう。赤さんはそういう方なので。
「白銀ー! おれはよ! 他の奴らと絡んでくっから、千金楽よろしくー! ばいばーい!」
あの酔っ払いの演技は本当にお上手です。
元々お芝居をされていたのでしょうか。
さて、赤さんが居た左肩が軽くなった分、千金楽さん側が重たいですね。
「千金楽さん、重たいです」
「ばかやろー! こんなのが重いなんて言ってどうする!? 俺達はこれから、【GARDEN】を背負っていくんだぞ!」
「はい、そうですね」
「がんばらなきゃいけないんだぞ!」
「はい」
「……俺達が」
「がんばりましょう。蒼樹さんの分も」
「……な」
「聞きました、お二人のお話を、少しだけ」
「そっか」
「蒼樹さんは……」
「あそこまでやって簡単に帰らせるわけにはいかないからな……。ちゃんとしっかり償って、そして、その上で【GARDEN】のみんなに認めてもらえない限りは、戻れねえ、戻せねえよ」
「そう、ですね」
「商売だ。勿論、儲けは考えなきゃいけない。でもな……それだけじゃないよな」
「はい」
「【GARDEN】いいとこだよな」
「はい」
「守りてえな、この場所を」
「はい、頑張りましょう」
「きっと、これからも大変なこといっぱいあると思う。けどな、お前やみんなが居てくれたら乗り越えられる。俺は、そう信じてる。だから、白銀。力を貸してくれな」
新しいオーナーになった千金楽さんに見えるものと私に見えるものはまた違うのでしょう。
けれど、一つだけ言えることは。
「この素敵な景色があれば、きっと大丈夫ですよ、千金楽さん」
目の前に広がる笑いあい、語り合い、笑顔を咲かせる【GARDEN】の仲間達。
彼らとならきっと……。
「そうだな」
「そうです。……この景色を目に焼き付け、また、明日から頑張りましょう」
「……明日は休みだけどな」
一言多いんですよ!
二人笑いあい、盃をぶつけ合い、また、これからの互いに誠心誠意此処で頑張ることを誓い合い、夜は更けていくのでした。
お読みくださりありがとうございます。次回から第二部の予定です。
なろうフレンズが欲しくてTwitter始めました。よければ。
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『クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職して一年でざまぁ完了~俺のお陰で所属Vtuberの人気爆上がりらしく凄く言い寄られていますがそういうのはいいので元気に配信してください~』
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