68話 未夜、詩織と小鳥と訪れる☆
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は、超ハイスペック。
未夜。??歳。オーナーの知り合い。占い師。
ピンクとグレーの左右ツートーン、背が高い、垂れ目。
南 詩織。執事喫茶【GARDEN】元オーナー。現カルムスタッフ。
黒髪ロング、美人、活発、金持。
小野賀 小鳥 カルムのオーナー。
小柄。五十を越えてるとは思えない驚異の幼さ。
「ねえ、行かないの?」
私は、振り返って顔を真っ赤にしている詩織と小鳥さんに話しかける。
「え? なんで二人とも照れてるんですか?」
謎だ。
今日は、詩織に誘われて【GARDEN】に行くことになった。小鳥さんも一緒に。
でも、詩織は元々【GARDEN】のオーナーだったし、小鳥さんも横河の事件の時とはいえ来てるはず。
何故照れる?
「え、いや、あの、だって、私、【GARDEN】、その、お嬢様としていくのは初めてだし、ねえ?」
ねえって……なるほど。
まあ、元オーナーがお嬢様としてちやほやされにきましたみたいでちょっと照れるか、あとは、
「白銀に会いたいでしょ?」
「会いたいですけど、ねえ?」
ねえって……。
この子は本当に、猪突猛進なんだけど猪突猛進にならないと凄い足踏みする。
それは十分かわいいのだけど、だからこそ、会わせてあげたい。
この子も占ったことがあるけれど、面白かった。
例えるなら、杉。一本のまっすぐ伸びる杉。
とにかく目指す場所へ伸び続ける。でも、もしその伸びる過程で引っかかった鳥や虫や星、そう言ったものを遠慮なく受け入れてそのまま伸びていく。
だから、あんな風に、まっすぐ宣言とか出来ちゃうんだろうなと思う。
「あのー、小鳥さんもどうしたんですか? 一度お客さんとして来てますよね?」
「い、いや! あのね! あの時は、そのね! 一也の事もあったし、【GARDEN】の危機だったからね、平気だったけど、いざ行くと、ほら、おばさんだし!」
すっごい早口で捲し立ててくる。けど、それも名の通り小鳥が鳴いているみたいでカワイイ。本当に、この人年上なんだろうか? 見た目が幼すぎる。あと、言動も時々。
「えーと……じゃあ、あたしだけでも行きますね」
「「待って!」」
慌てて両方からしがみ付いてくるふたり。
かわいいなあ、もう。
受付もあたしはもう慣れたものなので手早く済ます。
受付の男の子があって顔で詩織を見て、詩織が顔を赤くしていた。
「お帰りなさいませ、詩織お嬢様」
「は、はいぃい」
そうだよね、他の店に研究で行ったことがあるとは言ってたけど、【GARDEN】にちゃんとお嬢様で来るのは初めてだし、なんせ自分の理想を体現させたような場所なのだ。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じっているだろう。
小鳥さんはもう夢中になってキョロキョロし始めている。けど、あたしの袖は掴んだまま。
「し、詩織、前も思ったけど、雰囲気すごくいいね。センスがいい」
「あ……ありがとうございます」
小鳥さんが色んなポイントを褒めると、詩織が照れながらお礼を言う。
この二人は本当に気が合うのだ。
カルムも何度もお邪魔しているが、凄く雰囲気もいいし、二人の息もばっちり合っていた。
ただ、合い過ぎるというのも考えものってことよねえ。
「お帰りなさいませ、未夜お嬢様、小鳥お嬢様、詩織お嬢様」
入り口で白髪の老執事が穏やかな笑みを浮かべながら待ち構えていた。
後ろで金髪君がニコニコしている。
詩織達、謀られたね。
「あ、え、う、あ」
「ぴぃ……!」
詩織は、言葉に出来ないようで必死に何かを言おうとしているがずっとあうあう言ってるし、小鳥さんは小さく歓喜の悲鳴をあげるとあたしの後ろから白銀を覗いている。
「ただいま、白銀」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
白銀はそう言うと、席へ案内しようと歩き出す。
その瞬間、
「「た、ただいま! 白銀!」」
二人が同時にそう言う。
言いたかったんだろうな。
ただいまって言葉は不思議だ。あたしも此処に来て気付いた。
ただいまって言えるって嬉しい事だ。
白銀は振り返りまたニコリと笑って、
「お帰りなさいませ、お嬢様」
そういうと再び席へと歩き出す。
二人も白銀の言葉で少しリラックス、いや、顔と同時に気も緩んだのか、さっきよりもこわばりがなくなり、あたしも連れて行きやすくなった。
席につく時、執事が椅子を引いてくれるが、二人ともじーっと白銀を見ていて座るのを忘れているのが面白かった。
けど、やっぱり一番緊張する白銀の前での振舞いが落ち着くと二人とも楽しそうにメニューを見始める。
すると、白銀が、あたしに、
「珈琲はいかがいたしましょう?」
「うん、二人にはゆっくり選んでもらいたいし、先に」
「かしこまりました」
白銀の声は心地いい。相手に威圧感を感じさせない優しい声。
そして、リズムが良い。
そのタイミングで言ってもらえると聞き取りやすいというタイミング。
そして、多分常に相手が今どう考えているのか、いや、どこまで思考が進んでるのかをなんとなく予想しながら、会話を挟んでくる。
ストレスフリーな会話が出来るのだ。
「お待たせしました」
珈琲のタイミングも絶妙。
「ねえ、こういう時の話って準備しているの? 珈琲持ってくるまでとぴったりだったけど」
相手をしてくれた緋色の執事に尋ねると苦笑しながら、答えてくれた。
「そうですね、この白銀のアドバイスで、時間感覚と言えばいいのか磨きまして、どの位の時間で珈琲などが出来上がるかに合わせてお話は調整したりしています。もし、不快でしたら」
「ううん、話上手でたのしかったわ」
「ありがとうございます」
緋色の執事はニカっと笑うと、綺麗なお辞儀をし去って行く。
その様子を詩織が感極まった様子で見ていて、小鳥さんが驚いている。
「え? 詩織? 大丈夫?」
「うう……だって、緋田君があんなに成長して……すごい……!」
【GARDEN】は元々素敵なお店だった。
だけど、この執事が来てから、なんというか、居心地の良さが凄くなった。
この珈琲も、あたしが飲みやすい温度まで温くしてくれている。
「いかがなされました?」
「白銀が来てから、もっと【GARDEN】が素敵になったな、と思って」
「ありがとうございます。けれど、私の力など微々たるものです」
こう言って謙遜する。だけど、最近はその中にちゃんと誇らしさがある。
以前は、貪欲というか、とにかく足を引っ張らないようにみたいな悲壮感がどこかあった。
けれど、今は、より良くするためにどうすれば、といい意味でよりどん欲になった気がする。
気付くと、白銀がちょっと悪戯っぽく笑いこちらを見ている。
「もし、私がそうであるならば、未夜お嬢様が私を変えてくれたのですよ」
そんなことを言う。
確かにあたしは助言をした。もっと自信を持てと。
でも、それだけでこうはならない。この人の今までの努力があったから。
小さな変化でも大きく動き出したのだ。そして、それを見たあたしも変えられたのだ。
白銀が、詩織たちの方へ向かい、注文を受けている。
詩織たちは照れながら慌てて喋っているが、白銀の合いの手が詩織たちのペースに合わせたものから徐々にゆっくりした喋り方になった。それによって詩織たちも徐々にゆっくり落ち着いて話せるようになっている。
これがこの人なのだ。
相手に不快感だけでなく、申し訳なさも感じさせないように、気付かれないよう何かをしている。短い頷き、長い感嘆、そして、自分が聞き直すかのように注文を繰り返ししっかり相手に時間を与えるとか、そういった返答を選びながら相手にスムーズな思考を促している。
おもしろい。
注文が終わると白銀は去って行く。
二人は、去り際の白銀にちょっとどきっとしていたのか強張っていたが、それでも、入る前から考えると幾分か表情も和らいでいた。
「詩織、大分リラックスできたみたいね」
「え、ええ……ようやく。でも、白銀が、目の前に来ちゃうと緊張しちゃいます……!」
「分かる……! 詩織、すごいよ。あれは、本当に、すごいよ」
二人できゃっきゃしながら、白銀の感想を言い合っている。
本当に仲がいい。
小鳥さんはまだしっかり見たことないけど、梟かな。
森を守る賢者って感じ。
だから、多分詩織との相性はいい。
互いに高め合ってて、見ていて楽しい。
「まあ、あの執事、福家さんを採用して、白銀を作り出したのは私ですからね」
「はあ? 詩織、私分かってるんだからね、元のモデルがいることは。そういう意味では、私が白銀の生みの親でしょ」
もめてる。おもしろい。
二人とも白銀とは強い結びつきがあるからどっちと結ばれてもおかしくない。
それにあんなやりとりでもねじれねじれて強い結びつきになっているように見える。
「あの、未夜お嬢様。どうかされました?」
どうやって持つのっていう持ち方で三人分のデザートプレートを持った白銀がやってくる。
そして、白銀があたしの前にプレートを置いたタイミングで耳打ちする。
「……って、二人に、言ってみて」
「……かしこまりました」
白銀がちょっとうろたえる。おもしろい。
白銀は、両手にデザートプレートを持ったまま、二人の間に立ち、
「お嬢様達、喧嘩をしてたら、め! ですよ」
沈黙。
白銀にそう言われた二人は静かに座りなおし、俯いたままになってしまう。
でも、あたしの方からは見えた。二人の真っ赤な顔と嬉しそうにもにゃもにゃする口が。
白銀は、悲しそうな目でこちらを見ている。
大丈夫だよ、白銀。騙してないよ。
二人は喜んでいるだけだから。
それに、白銀、あたしも見てくれなきゃ嫌だからね。ちょっとの意地悪くらいはする。
ぺろっと舌を白銀に見せて私は、さっき見た白銀の優しい横顔を思い出しながら温めの珈琲で熱い顔を少しでも冷まそうとした。
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