65話 五十路、結を送る。
【登場人物】
福家 拓司。50歳。主人公。執事名【白銀】
白髪、老け顔、草食系、実は……。
北野結 W大ミスキャンパス。YUI。
明るい茶色、ポニーテール、活発。
東雲明美 美しすぎる空手家。Akemi。
暗めの茶、緩めパーマ、グラビアアイドル並のスタイル。
「時代劇! わたしも好きです!」
と、隣の結さんが急に大声で私にそう仰いました。
凛花さんを送った後は、結さんの順番となったようで、今は明美さんが一人で後ろにいらっしゃいますが、良いのでしょうか?
「あー、あたしは平気なんで、ゆっくり結とおしゃべりしてください」
ちらりと見ると、視線に気づいた明美さんがそう言われるので、私は結さんに視線を戻し気になっていたことを。
「結さん、時代劇お好きなんですか?」
「好きです! わたし! 水戸のご老公が初恋ですから!」
渋いです。というか、若いのに良くご存じで。
「そうなんですか? しかも、水戸のご老公とは……お供のどちらかか、陰から見守る忍びたちかと」
「いやー、おじいちゃんの影響で見てただけなんですけど、すっごいはまって。確かに良いキャラいっぱいですが、結局越後の縮緬問屋なんですよねー」
渋い! 渋いです!
「結さんはどの時のご老公が? あ、でも、そんなにご存じないですよね?」
「いえ、おじいちゃんが見せてくれたので、結構分かりますよ。えーと、確か、佐野浅〇さんです!」
「おお! なるほど!」
俳優さんの名前までご存じとはすばらしい!
ついつい年甲斐もなく興奮してしまいます。
「いいですよねー、あのドラマ。そのいつもの流れなんですけど、いつもの流れが安心するというか……大丈夫、最後には印籠が出てきて、勝つんだっていう安心感が」
「そうですね、お約束というかそういうものは、待ってました、と嬉しくなりますからね。変わらないいつものアレという感じが私も好きですよ」
そういうと、結さんはじっと私の目を見てふっと微笑み、また前を歩きながら聞いてきます。
「白銀さんは最近、どうですか?」
「どう……そうですね、皆さんのお陰で楽しい日々です。今日も、お鍋楽しかったです」
「あは! よかったー!」
「結さん、何か最近大変なこととかありましたか?」
「えー! なんでですかあ!? そんな風に見えます!?」
「そう、ですね……なんとなくですが……」
喋り方や動きがいつもより大げさで何かを隠しているように見えました。
聞いてほしかったのだろうなと思います。
ですが、結さんは、優しい人なので、そこまで踏み出せず、止まっていたようです。
ならば、私が踏み込むだけ。もう後悔はしたくないので。
「……あは。やっぱり敵わんですなー。……いや、別に大したことじゃないんですよ。なんかですねー。みんなどんどん進んでいって、わたしだけなんというかおこちゃまというか、でも、このままでいたいという気持ちもあって」
なるほど。
大学生ならではの悩みですね。
結さんは二十歳、もうお酒も飲める。けれど、学生。
そして、やはり、大人になりたい気持ちと子供でいたい気持ちがせめぎあっているのでしょう。
私も大学生のころは、そんな相談を良くされました。私も同じ年でしたけど。
「水戸のご老公のドラマの話ですが」
「はい?」
「あのお話、一話完結じゃないですか?」
「はい」
「なんで、一話完結なのかご存じですか?」
「え、いや、理由があるんです?」
「ええ? 時代劇っておじいちゃんおばあちゃんが主な視聴者じゃないですか。ですから、視聴者の方に言われたんだそうです。『前後編だと、後編が放送されるまで生きられるか分からない』って……若い人にはまだピンとこないかもしれないですが、とても大人になってしまうとそんなことも考えるんです。だから、思うんです。変わることは怖い事だけれど、一日一日一瞬一瞬後悔のないように生きようって」
見れば、結さんの瞳は揺れていました。
悲しそうに私を。
ああ、私もジジイですからね、いつ死ぬか分かりません。
でも、
「でも、簡単には死にませんよ。私も。ご老公ではありませんが、まだ見たいものも知りたいこともいっぱいありますから」
「見たいものや知りたいこと……たとえば、なんですか?」
「そうですね、今は、大切な人たちの笑顔を、喜ぶ瞬間をいっぱい見たいです。今なら、そう思えるんです。前までの私であれば、誰かを不快にさせないようにそればかり考えていたでしょう。でも、今は、ちゃんと大切なものをまた見つけることが出来たので」
自分の心を言葉にするのはやはり難しいです。
けれど、言いたいことは言えた気がします。
視線の先の彼女は笑っていましたから。
「それって……わたしも入ってます?」
「もちろん」
「……あは! ありがとうございます! ちょっと解決しました!」
「そうですか、それはよかった」
彼女はトレードマークとなったポニーテールを揺らしながら少し前を行く。
変わらないものはありません。ですが、全てが変わってしまうという事はないわけで。
私が白銀になっても、福家拓司であるように。
結さんも変わっていくでしょう。けれど、やはり、結さんであることは変わらない。
そう、彼女だって変わったんですから、自由に笑えるように、彼女も。
くるりと振り返った結さんの笑顔は、無邪気で、けれど、どこか妖しげで。
「いやあ、流石! 福家さん! 福家さんは、私の大好きなご老公様です」
「え?」
「あー、ドキっとしましたあ?」
こんな風に、元気でお茶目で、
「ドキッとしちゃいました」
「……! そ、そ、そーですかー! やややったー!」
純粋で、眩しくて、
おうちまで送り届けてお別れした後もずっとずっと手を振ってくれて。
あんな笑顔を見れば、また、何かあれば助けてあげたいご老公様だってそう思うだろうな。
頭の中であのメロディーが流れます。
楽も苦もありますが、彼女の人生がより多くの楽しそうな笑顔で溢れますように、と。
そう願いながら夜道をまた歩き始めたのでした。
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